お前に好きだと伝えたい

しーき

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お前を失うまでの思い出

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アイツと出会ったのは遅かった。

大学に入りたての時、とても不安だった俺に話しかけて来た奴がアイツだった。

「なぁ、この授業終わったら遊ぼうぜ」

「え、あ、あぁいいけど」

「俺、一人暮らし始めたばっかだから片付け手伝ってほしーんだ」

眩しいくらいの笑顔でそう言われた。

「ぶっは!それ遊びじゃねーじゃん」

アイツは他の奴にも同じように声をかけ始めた。

そして、皆同じようなやり取りをし、アイツの家へと片付けに向かった。


「おじゃましまーす」

みんなどれほどの荷物があるんだ、と恐る恐る入ったが荷物が3個チョコンとあるだけだった。

「お前、これくらい自分で片付けろよー」
笑いながら違う奴がアイツの肩に腕を乗せながら言った。

「わりぃな。あとこれだけって思うとやる気が出なくてさ。頼むよ」


ギャーギャー言いながら、なんやかんやすぐ片付きそのまま酒盛りが始まった。


すぐ仲良くなった俺たちは、課題もアイツの家でやるようになり、合コンした後2次会もアイツの家でやった。

アイツはみんなが寝てると思ったんだろう。2次会でみんながそばにいる時に事を始め始めた。

俺は息を殺して事が終わるのを待つしかなかった。



大学三年になり、同じゼミに入るのは大変だった。
アイツが好きな奴はいっぱいいて、アイツと同じゼミにいつものメンバーで入ろうとすると定員オーバーだった。

俺はなんとか同じゼミに入り、いつものアイツの隣を獲得した。

そして、いつも、笑い合いアイツの隣にいる事で満足していた。


「俺、外資のR社に内定決まったからさ、ちょっと一人旅行ってくるわ!」

アイツは急にそう告げ、1人卒業旅行に旅立っていった。


「今、アフリカ大陸のキリマンジャロにいるんだ!すげーだろっ!」

そんな文言と絶景の風景をバックにした写真がメールで送られてきた。
俺はびっくりした。

「無茶苦茶きれーだな!てか一般人で行けんの?危なくね?無茶すんなよ」

「わーってるよ!社会人になる前の最初で最後の大冒険だよ!」



それからしばらくしたのち、電話がなった。

「アイツ、山で突風に吹かれて山から落ちたって」

俺はそれを聞いたとき、頭から血の気が引きフラフラになった。

「それで?」

「詳細はわからない。ただ、おそらく………」

「なっ」

俺はその後が怖くて聞けなかった。


それから程なくして、アイツが戻ったという奇跡の知らせが舞い込んだ。

ベッドに横たわったアイツがいた。

俺はホッとして、側に駆け寄った。


そして、憔悴しきった母親が俺に手渡したのは1つのビデオカメラ。

「その中に最後の瞬間が映ってるの。突風でひっくり返るまでが」

母親はもう涙も枯れているようだった。
俺は受け取り、初めから再生した。

そこには太陽のように笑っているアイツがいた。

バンジージャンプしてはしゃぐアイツ。

「お前、アフリカでバンジーとかやんじゃねーよ。危ないだろっ」
俺は嗚咽混じりに、そうこぼしながら見た。


俺が一通り泣き終わった後、


「息子と話せるのだけど………」

静かな沈黙。

「彼は、やっぱり、起きれないんですか?」
母親から説明がなかったため、聞くのがはばかわれた。

「ええ、でも、画面で話せるわ」

「はい」

俺は噂には聞いていたが、このような処置を受けた者を見た事がなかった。
植物状態になった人にAIの機械を付け、わずかに残った脳の一部とやり取りする技術。これは失った脳を活性化させ、いつか目覚めさせる、とうたわれた技術だが、目覚めたものはいまだかつていない。そして、次第にこれは残された者のための物と言われ始めた。


俺は近くにあったディスプレイに電源をいれた。

ディスプレイにはカメラが内蔵されており、テレビ電話をするイメージだが、そこに映し出されたのは、文字だけだった。


「やぁ、こんにちは。今日は誰だい?」


「うっ、うっ、あ、はぁああっ」

俺は嗚咽をもらし、涙した。


いつものアイツは、いなかった。
いつものアイツは、こんな話し方をしない。
いつものアイツは、俺がわからないなんてなかった!
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