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好きだと言われても
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「エメラ、君が好きだ」
意味がわからない。熱っぽい視線。熱く語られる言葉。
急にそんなこと言われてもわからない。ゆっくりでもわからないかもだけれど。
見上げるほど背が高い。がっしりした体躯。ひらひらと風に靡くマント。
「エメラ!」
私を呼ぶ。
確か、赤い髪、橙色の瞳のエクセラント様。侯爵令息だ。
怖い、大きい、威圧感。
美形だけれど、見上げるのも怖くて俯いてしまう。鑑賞だけなら、顔、綺麗だなぁとか端正だなぁとか筋肉だなぁとかあるかもだけれど、こうぐいぐいこられるとびくついてしまう。
声だって美声だと思うけど、怖くて仕方ない。
私は寄ってくる攻略対象が怖い。ヒロインだから仕方ないのかもしれないけれど、私の何が好きなの? だ。
つい、礼をとってから、踵を返して逃げてしまいたくて仕方ないけれど、踏みとどまって逃げる隙を探している。
怖くて話しかけられても、なるべく穏便にでも逃げてしまう私をどう思うのか、どうにか逃げても逃げても追ってくる。
こんな私だけど、やっぱり聖女候補だ。この世界で聖女にならなきゃいけないっぽい。ヒロインとか無理でしょう。中身ぽんこつな私だ。
元の世界に帰ることが出来る訳でもないみたいだし。夢ならよかったのに。
表面上取り繕っていても、内心がくぶるふるえている。
ある程度はどうにかなるみたい。言葉とか翻訳されているのかな? 普通に日本語みたいにわかるし、話せるし、身についているのか、礼儀作法や勉学とかもついていけるし。魔法みたいなの出来てしまうし。
凄いご都合。ないよねレベル。なきゃ詰んでいたけどね。
結局困ることは攻略対象者達に追いかけられることだった。これは回避不能だったから。
成り行きに身を任せると、怖いことになる。任せなくても怖いけど──
「エメラ」
ぴくりと体が動いた。反射的に体が逃げそうなのを堪える。
慣れてないし、慣れる気すらしない。エメラは男爵令嬢だが、中身は私、庶民に高位貴族を相手とか無理です。
むりむりむり。
逃げるから、追いかけられるのかな? とも思うけれど、どう対峙していいかわからない。
狩りかな? 狩られるのかな。
一度怖いと思うと、だめだめで。
ゲームでも追いかけてきて怖かったけれど、現物はもっと怖い。物理だし。
「エメラ」
また別系統の美声が聞こえる。
そちらを向くと、銀の髪、菫色の瞳のセレクシヤ様がいた。こちらも侯爵令息。
長く美しい髪を軽く払う様にも色気が漂っている。
──怖い。
「さあエメラおいで、私の元に」
腕を広げて蠱惑的に微笑んでいる。綺麗すぎるくらい綺麗で優美だけれど。どうしていいかわからない。逃げ出したい。
はさみうちだ。どうしよう?
そんな時やはり美声が聞こえた。
新手かと思って身構えたが内容を聞いて驚く。
「なんなんだ? ここは。外国? 日本じゃないのか?」
黒髪蒼眼のカイラス様だ。
もしかして?
きらきらした攻略対象者が外身だけれど、もしかして、中身が違うの?
「どうしたのだ? カイラス」
様子のおかしい彼にエクセラント様が問いかける。
「カイラス? 俺の名は守屋海だ」
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