怖いけど

古部 鈴

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好きだと言われても

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     ◇
「エメラ、君が好きだ」
 意味がわからない。熱っぽい視線。熱く語られる言葉。
 急にそんなこと言われてもわからない。ゆっくりでもわからないかもだけれど。

 見上げるほど背が高い。がっしりした体躯。ひらひらと風に靡くマント。

「エメラ!」
 私を呼ぶ。
 確か、赤い髪、橙色の瞳のエクセラント様。侯爵令息だ。

 怖い、大きい、威圧感。

 美形だけれど、見上げるのも怖くて俯いてしまう。鑑賞だけなら、顔、綺麗だなぁとか端正だなぁとか筋肉だなぁとかあるかもだけれど、こうぐいぐいこられるとびくついてしまう。
 声だって美声だと思うけど、怖くて仕方ない。

 私は寄ってくる攻略対象が怖い。ヒロインだから仕方ないのかもしれないけれど、私の何が好きなの? だ。

 つい、礼をとってから、踵を返して逃げてしまいたくて仕方ないけれど、踏みとどまって逃げる隙を探している。

 怖くて話しかけられても、なるべく穏便にでも逃げてしまう私をどう思うのか、どうにか逃げても逃げても追ってくる。

 こんな私だけど、やっぱり聖女候補だ。この世界で聖女にならなきゃいけないっぽい。ヒロインとか無理でしょう。中身ぽんこつな私だ。
 元の世界に帰ることが出来る訳でもないみたいだし。夢ならよかったのに。

 表面上取り繕っていても、内心がくぶるふるえている。 

 ある程度はどうにかなるみたい。言葉とか翻訳されているのかな? 普通に日本語みたいにわかるし、話せるし、身についているのか、礼儀作法や勉学とかもついていけるし。魔法みたいなの出来てしまうし。
 凄いご都合。ないよねレベル。なきゃ詰んでいたけどね。

 結局困ることは攻略対象者達に追いかけられることだった。これは回避不能だったから。
 成り行きに身を任せると、怖いことになる。任せなくても怖いけど──


「エメラ」
 ぴくりと体が動いた。反射的に体が逃げそうなのを堪える。

 慣れてないし、慣れる気すらしない。エメラは男爵令嬢だが、中身は私、庶民に高位貴族を相手とか無理です。

 むりむりむり。

 逃げるから、追いかけられるのかな? とも思うけれど、どう対峙していいかわからない。


 狩りかな? 狩られるのかな。

 一度怖いと思うと、だめだめで。

 ゲームでも追いかけてきて怖かったけれど、現物はもっと怖い。物理だし。


「エメラ」
 また別系統の美声が聞こえる。

 そちらを向くと、銀の髪、菫色の瞳のセレクシヤ様がいた。こちらも侯爵令息。
 長く美しい髪を軽く払う様にも色気が漂っている。

 ──怖い。
「さあエメラおいで、私の元に」
 腕を広げて蠱惑的に微笑んでいる。綺麗すぎるくらい綺麗で優美だけれど。どうしていいかわからない。逃げ出したい。

 はさみうちだ。どうしよう?


 そんな時やはり美声が聞こえた。
 新手かと思って身構えたが内容を聞いて驚く。

「なんなんだ? ここは。外国? 日本じゃないのか?」
 黒髪蒼眼のカイラス様だ。
 
 
 もしかして?
 きらきらした攻略対象者が外身だけれど、もしかして、中身が違うの?

「どうしたのだ? カイラス」
 様子のおかしい彼にエクセラント様が問いかける。
「カイラス? 俺の名は守屋海だ」
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