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三章 変態たちの邂逅
変態たちの邂逅 6
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シュナのスパルタ修行を終えてレトラバの町へと戻ってきたナスカたちは、シュナの荷物が積まれた荷車を町の門の端に停めて門の警備をしていた冒険者と言葉を交わした。
「しんどい……」
「疲れた……」
「はふぅ……」
「お帰りなさい、皆さん」
「おお、ご苦労様じゃのぉ」
シュナはそう言って冒険者に笑顔を向ける。
彼女の後ろで荷車に背を預け肩で息をする三人は、やっと帰ってこれたという安堵で「はぁー」とため息をついた。
「なんじゃ、だらしのない。あれぐらいのことで音をあげるとは」
「だって、シュナさん……」
「先生は、スパルタ過ぎ……」
「帰って、寝たいです……」
三人は思い思いの言葉を口にして地べたにへたりこむ。
肩を落としてため息をついたシュナが「しょうのないやつらじゃ」と悪態をつく姿を、冒険者は苦笑して眺めていた。
「ところで、ニートはちゃんと元気にしておるかの?」
振り返りながらシュナは冒険者に預けてあった猫のことを聞く。
この十日ほどの間、あの猫は元気にしていたかどうか彼女なりに心配であったのだ。
「あ、あぁ。あの白い猫ですね。元気にしてますよ。今ではすっかり町の人の中でも知らない人はいない猫になってますけどね」
そう言って苦笑する冒険者に、シュナは顔を歪めて「はぁ!?」と言葉を返した。
「いや、実はですね。先日ギルド長が我々冒険者を使って、逃げ出したあの猫を捕まえるために町中を追いかけ回しましてですね。あははは」
「何をやっとるんじゃ、あいつは……」
「そんなことがあったんだ……」
微妙な顔をするシュナの後ろでその会話を聞いていた三人は、苦笑してギルド長ラザンテにニートを預けた時のことを思い出す。
猫なで声で頬ずりするラザンテの顔を嫌そうにニートが両の前足で遠ざけようとしながらラザンテの手に噛みついていたのが別れた時だから、きっとそれが原因で未だに仲が悪いのだろうと思うと笑いが込み上げてきた。
「ん? 何を笑っておるのじゃ?」
急に笑い出した三人を振り返りシュナは疑問の声をあげると「だって」とハルカが口元を押さえながら言葉を続けた。
「ギルド長に無理矢理抱っこされてたニートのことを思い出したら、可笑しくって」
「ん……? あぁ、あれなぁ。くっくっくっ。確かに。あれが原因じゃろうて」
そう言って彼女たちはひとしきり笑っていると、入場門の内側にある詰所から「何やってんだ! このバカチンがぁぁぁぁ!!」という奇声が聞こえてきた。
何事か、とその場にいた者たちが疑問に思っていると「に、ニートちゃん!?」と叫ぶラザンテの声が聞こえてきたため、彼女たちは何事かと眉を曲げながら詰所に向かって駆け出した。
詰所の入り口のドアを開け放つと、中の内扉の向こう側で誰かが殴られながら「待って、ください!」というくぐもった情けない叫び声が響いてきた。
シュナを先頭にして彼女たちはその扉を開け放つと、部屋の中央で冒険者に羽交い締めにされた全裸の男が顔を腫らし身体中を痣だらけにされ、その痣をつけたであろう目に前にいるラザンテに睨まれながら「話しを、聞いてください!」と息も絶え絶えに懇願していた。
「「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」」
全裸の男をまともに視界に入れたハルカとウェンディは悲鳴をあげて顔を背けてしまった。
「に、ニートちゃん!?」
そんな中、部屋の隅でぐったりとしているニートを見つけたナスカはその場から駆け出し、ニートを優しく抱きかかえて床に膝をついた。
「何があったんじゃ!!」
ラザンテに対して半分程しか体長のないシュナが鬼の形相で詰め寄ると、彼は身体を震わせ青筋を立てながら言葉を発した。
「しゅ、シュナさん! ち、違うんです! 私がやった訳ではないんです!」
「そ、そうなんですよ! ギルド長は、その猫の代わりにこいつをシバいてるんです!!」
全裸の男を羽交い締めにしていた冒険者が、ゴミを投げ捨てるかのようにその男を放り捨てながらラザンテを擁護した。
「くあっ……」
「「ひいっ!」」
声も出せずに固まっていたハルカとウェンディの側に全裸の男が転がって行き、その男が仰向けになった拍子にモロに見えてしまい二人は顔を赤くしてナスカの方へと逃げ出した。
「何があったのか、しっかりと説明せんか!」
「は、はい!」
ラザンテは汗だくになりながらこれまでの経緯を彼女に説明しだした。
その日の昼頃、町の門番をしていた冒険者の前にこの変態が現れた。
彼は自分を聖プエゴ教教会所属のフェデリコ・ビアンコ神父だと自称し、このレトラバの町へは女神からの天啓を下されたため、それを実行しにきたのだと言った。
そこで冒険者たちはそのフェデリコのことを怪しく思いながらも、とにかく服を着るようにと命じると、自分は宗教上の理由で服は絶対に着ないと拒否してきたという。
冒険者たちはそこでフェデリコのことを完全に痛いヤツだと思い、町へ入ることを拒否した。
そしたらこのフェデリコが泣きついてきてもうどうにもならなかったので仕方なく拘束し、詰所にある牢獄に留置した。
その際にリディーという女性が巻き込まれ、聞けばこの変態神父フェデリコからストーカー紛いな被害を受けていたことが分かったためここで問い詰めていたら、突然窓からニートが飛び込んできてこうなったのだという。
「それがどうすれば、ニートが瀕死の重症を負う羽目になるのじゃ!?」
シュナはナスカに抱かれたニートにパーフェクトヒールをかけながらラザンテを睨んだ。
「そ、それは、ニートちゃんが飛び込んできた後、この変態神父が急に立ち上がって『我、天啓を得たり!!』と叫んだんです。それでそいつが『我が女神、ディーテ様よりの信託です!』とか叫びながらニートちゃんをいきなり殴り付けまして」
ギリリと奥歯を噛み締めながら話すラザンテは、這いつくばって壁際に背を預けているフェデリコを睨み付けた。
「ひぃぃぃ……」
全身汗だくになりながらフェデリコは小動物のように震え上がり、歯の根が合わないのかカチカチと音を立てている。
ラザンテは拳をポキポキと鳴らしながら近付くと、彼の後ろで待機していた冒険者に目配せし先ほどのようにフェデリコを羽交い締めにさせた。
「待つのじゃ、ラザンテよ……」
苦み走った表情でシュナはその二人の行為を止めると、フェデリコの前に立ち顔を睨み付けた。
「や、や、やめてくださいぃぃぃ!」
「情けないやつじゃのぉ! 少し黙っておれ!!」
「は、はいぃっ!」
自分より遥かに身長の低いシュナに一喝されてフェデリコは腰を抜かしその場に尻餅をついた。
「……」
それから一分ほどシュナは無言でフェデリコのことを睨み付けていたが、そこで「はぁぁぁ」と大きくため息をつくと今まで固唾を飲んで黙っていたラザンテたちの方へ振り返り口を開いた。
「こやつの言っていることは本当じゃ」
「「はい!?」」
未だに目を醒まさないニートを撫でながら不安そうにしていた三人も「どういうこと?」と異口同音に疑問を浮かべた。
「信じがたいことを今から言うが、我はこのナトゥビアを救ったと言われる女神ディーテの子孫での……」
「「「「「はぁぁ!?」」」」」
五人が驚きで目を点にさせる中、ただ一人だけ歓喜の表情を浮かべながら彼女の後ろで両手を組み、祈るような形で涙を流している男がいた。
「このことは他言無用で頼むぞ……」
シュナの忠告に誰も口を利けずにいる。
それもそのハズで、女神ディーテとはこのナトゥビアに住むものなら誰でも知っている、聖プエゴ教教会が促進している一神教、もしくは姉のサリアを入れた姉妹神を神と崇めるラノリア大教会のどちらもが奉っている女神なのである。
まさかその子孫が存在し目の前にいるとは誰が予想し、信じることができるというのだろうか。
「おお! 女神ディーテよ! あなたの愛に感謝します!」
一人だけ無条件で信じてしまっている人もいるが。
誰も理解が追い付かず言葉を発せずにいる中、シュナはそれに構わず話しを続けた。
「じゃから我は、こやつの言うことが真実か、身体に纏う魔力の残滓を“視た”のじゃ。そしたらこやつの纏う魔力の中に、確かに我と似た魔力の反応があった。あれは恐らく我の先祖である女神ディーテの魔力で間違いないじゃろう。本当に癪じゃがのぉ」
また大きくため息をつきながらシュナはフェデリコに左半身だけ振り向き左手をかざした。
「今回は、ニートがまだ生きておったから許すが、次はないからの!」
「は、はい! 女神ディーテに感謝します!!」
話しが通じている気が全くしないフェデリコを睨みつつ、シュナは「ハイヒール」と呪文を唱えた。
フェデリコの身体は緑色の淡い光に包まれて、光が消えるときには痣だらけだった身体はただの全裸に戻っていた。
「み、みぃ……」
「ニートちゃん!」
「ニート!」
「ニート君!」
その時、今まで眠っていたニートが目を醒まし、胸に抱いていたナスカとそれを不安気に集まっていたハルカとウェンディが喜びの声をあげた。
「ニートちゃぁん!!」
そんな彼女たちから引ったくるかのようにラザンテは素早くニートを抱きあげると、涙をボロボロ流しながら頬に蓄えた白髪混じりの髭を猫の顔に擦り付けた。
「みぃ! みぃ!」
嫌そうにニートは前足でラザンテの顔を押すが、本人はそんなことお構いなしに泣き崩れていた。
「まぁ、そういう訳じゃから、フェデリコよ。もう用は済んだのであろう? 我の気が変わらん内に、この町から出ていくがよい」
ゆっくりとした低い声でシュナはフェデリコに話しかける。
しかし彼はその言葉に対して重々しく首を振ると、パッとシュナの顔を見上げてキラキラとした瞳を向けた。
「そういう訳にはいきません、女神樣。このフェデリコ・ビアンコ。女神ディーテ様に仕える下僕であれば、その子孫であるあなた様のために、この身命を賭して尽くす所存でございます」
フェデリコは恭しくシュナの前で跪いた。
「いらん! 帰れ!!」
即答する彼女に対してフェデリコは目を見開き、まさかという驚きで口をあんぐりと開けた。
「な、何故ですか、女神樣!? このフェデリコ・ビアンコ、あなた樣のためでしたら地獄の底までお供する覚悟だというのに!」
「服を着ない変態に付いてこられたくないわ!」
またもや即答する彼女にフェデリコは「くっ」と呻き声をあげ、悔しそうに口の端を歪めた。
「そ、それだけは……、それだけはなりません! こればかりは、いかに女神樣の頼みでも、聖プエゴ教教会の教義『人間は自然のままに生きるべし』という言葉に反します故……。そして私はその尊き教義を守るべく、そしてこの広い世界の各国各地にこの愛ある狭義を広めるべく“一生裸でいる”ことを女神ディーテ樣の御前で誓いました! ですから私は、服を着れないのではないのです! 服を着てはいけないのです!!」
涙ながらにフェデリコは俯き叫んでいた。
「「「「「「……」」」」」」
その言葉を聞いていた皆の頭には『何言ってんだコイツ!?』という共通認識とも言うべき言葉が浮かんでいた。
「しんどい……」
「疲れた……」
「はふぅ……」
「お帰りなさい、皆さん」
「おお、ご苦労様じゃのぉ」
シュナはそう言って冒険者に笑顔を向ける。
彼女の後ろで荷車に背を預け肩で息をする三人は、やっと帰ってこれたという安堵で「はぁー」とため息をついた。
「なんじゃ、だらしのない。あれぐらいのことで音をあげるとは」
「だって、シュナさん……」
「先生は、スパルタ過ぎ……」
「帰って、寝たいです……」
三人は思い思いの言葉を口にして地べたにへたりこむ。
肩を落としてため息をついたシュナが「しょうのないやつらじゃ」と悪態をつく姿を、冒険者は苦笑して眺めていた。
「ところで、ニートはちゃんと元気にしておるかの?」
振り返りながらシュナは冒険者に預けてあった猫のことを聞く。
この十日ほどの間、あの猫は元気にしていたかどうか彼女なりに心配であったのだ。
「あ、あぁ。あの白い猫ですね。元気にしてますよ。今ではすっかり町の人の中でも知らない人はいない猫になってますけどね」
そう言って苦笑する冒険者に、シュナは顔を歪めて「はぁ!?」と言葉を返した。
「いや、実はですね。先日ギルド長が我々冒険者を使って、逃げ出したあの猫を捕まえるために町中を追いかけ回しましてですね。あははは」
「何をやっとるんじゃ、あいつは……」
「そんなことがあったんだ……」
微妙な顔をするシュナの後ろでその会話を聞いていた三人は、苦笑してギルド長ラザンテにニートを預けた時のことを思い出す。
猫なで声で頬ずりするラザンテの顔を嫌そうにニートが両の前足で遠ざけようとしながらラザンテの手に噛みついていたのが別れた時だから、きっとそれが原因で未だに仲が悪いのだろうと思うと笑いが込み上げてきた。
「ん? 何を笑っておるのじゃ?」
急に笑い出した三人を振り返りシュナは疑問の声をあげると「だって」とハルカが口元を押さえながら言葉を続けた。
「ギルド長に無理矢理抱っこされてたニートのことを思い出したら、可笑しくって」
「ん……? あぁ、あれなぁ。くっくっくっ。確かに。あれが原因じゃろうて」
そう言って彼女たちはひとしきり笑っていると、入場門の内側にある詰所から「何やってんだ! このバカチンがぁぁぁぁ!!」という奇声が聞こえてきた。
何事か、とその場にいた者たちが疑問に思っていると「に、ニートちゃん!?」と叫ぶラザンテの声が聞こえてきたため、彼女たちは何事かと眉を曲げながら詰所に向かって駆け出した。
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シュナを先頭にして彼女たちはその扉を開け放つと、部屋の中央で冒険者に羽交い締めにされた全裸の男が顔を腫らし身体中を痣だらけにされ、その痣をつけたであろう目に前にいるラザンテに睨まれながら「話しを、聞いてください!」と息も絶え絶えに懇願していた。
「「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!」」
全裸の男をまともに視界に入れたハルカとウェンディは悲鳴をあげて顔を背けてしまった。
「に、ニートちゃん!?」
そんな中、部屋の隅でぐったりとしているニートを見つけたナスカはその場から駆け出し、ニートを優しく抱きかかえて床に膝をついた。
「何があったんじゃ!!」
ラザンテに対して半分程しか体長のないシュナが鬼の形相で詰め寄ると、彼は身体を震わせ青筋を立てながら言葉を発した。
「しゅ、シュナさん! ち、違うんです! 私がやった訳ではないんです!」
「そ、そうなんですよ! ギルド長は、その猫の代わりにこいつをシバいてるんです!!」
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「くあっ……」
「「ひいっ!」」
声も出せずに固まっていたハルカとウェンディの側に全裸の男が転がって行き、その男が仰向けになった拍子にモロに見えてしまい二人は顔を赤くしてナスカの方へと逃げ出した。
「何があったのか、しっかりと説明せんか!」
「は、はい!」
ラザンテは汗だくになりながらこれまでの経緯を彼女に説明しだした。
その日の昼頃、町の門番をしていた冒険者の前にこの変態が現れた。
彼は自分を聖プエゴ教教会所属のフェデリコ・ビアンコ神父だと自称し、このレトラバの町へは女神からの天啓を下されたため、それを実行しにきたのだと言った。
そこで冒険者たちはそのフェデリコのことを怪しく思いながらも、とにかく服を着るようにと命じると、自分は宗教上の理由で服は絶対に着ないと拒否してきたという。
冒険者たちはそこでフェデリコのことを完全に痛いヤツだと思い、町へ入ることを拒否した。
そしたらこのフェデリコが泣きついてきてもうどうにもならなかったので仕方なく拘束し、詰所にある牢獄に留置した。
その際にリディーという女性が巻き込まれ、聞けばこの変態神父フェデリコからストーカー紛いな被害を受けていたことが分かったためここで問い詰めていたら、突然窓からニートが飛び込んできてこうなったのだという。
「それがどうすれば、ニートが瀕死の重症を負う羽目になるのじゃ!?」
シュナはナスカに抱かれたニートにパーフェクトヒールをかけながらラザンテを睨んだ。
「そ、それは、ニートちゃんが飛び込んできた後、この変態神父が急に立ち上がって『我、天啓を得たり!!』と叫んだんです。それでそいつが『我が女神、ディーテ様よりの信託です!』とか叫びながらニートちゃんをいきなり殴り付けまして」
ギリリと奥歯を噛み締めながら話すラザンテは、這いつくばって壁際に背を預けているフェデリコを睨み付けた。
「ひぃぃぃ……」
全身汗だくになりながらフェデリコは小動物のように震え上がり、歯の根が合わないのかカチカチと音を立てている。
ラザンテは拳をポキポキと鳴らしながら近付くと、彼の後ろで待機していた冒険者に目配せし先ほどのようにフェデリコを羽交い締めにさせた。
「待つのじゃ、ラザンテよ……」
苦み走った表情でシュナはその二人の行為を止めると、フェデリコの前に立ち顔を睨み付けた。
「や、や、やめてくださいぃぃぃ!」
「情けないやつじゃのぉ! 少し黙っておれ!!」
「は、はいぃっ!」
自分より遥かに身長の低いシュナに一喝されてフェデリコは腰を抜かしその場に尻餅をついた。
「……」
それから一分ほどシュナは無言でフェデリコのことを睨み付けていたが、そこで「はぁぁぁ」と大きくため息をつくと今まで固唾を飲んで黙っていたラザンテたちの方へ振り返り口を開いた。
「こやつの言っていることは本当じゃ」
「「はい!?」」
未だに目を醒まさないニートを撫でながら不安そうにしていた三人も「どういうこと?」と異口同音に疑問を浮かべた。
「信じがたいことを今から言うが、我はこのナトゥビアを救ったと言われる女神ディーテの子孫での……」
「「「「「はぁぁ!?」」」」」
五人が驚きで目を点にさせる中、ただ一人だけ歓喜の表情を浮かべながら彼女の後ろで両手を組み、祈るような形で涙を流している男がいた。
「このことは他言無用で頼むぞ……」
シュナの忠告に誰も口を利けずにいる。
それもそのハズで、女神ディーテとはこのナトゥビアに住むものなら誰でも知っている、聖プエゴ教教会が促進している一神教、もしくは姉のサリアを入れた姉妹神を神と崇めるラノリア大教会のどちらもが奉っている女神なのである。
まさかその子孫が存在し目の前にいるとは誰が予想し、信じることができるというのだろうか。
「おお! 女神ディーテよ! あなたの愛に感謝します!」
一人だけ無条件で信じてしまっている人もいるが。
誰も理解が追い付かず言葉を発せずにいる中、シュナはそれに構わず話しを続けた。
「じゃから我は、こやつの言うことが真実か、身体に纏う魔力の残滓を“視た”のじゃ。そしたらこやつの纏う魔力の中に、確かに我と似た魔力の反応があった。あれは恐らく我の先祖である女神ディーテの魔力で間違いないじゃろう。本当に癪じゃがのぉ」
また大きくため息をつきながらシュナはフェデリコに左半身だけ振り向き左手をかざした。
「今回は、ニートがまだ生きておったから許すが、次はないからの!」
「は、はい! 女神ディーテに感謝します!!」
話しが通じている気が全くしないフェデリコを睨みつつ、シュナは「ハイヒール」と呪文を唱えた。
フェデリコの身体は緑色の淡い光に包まれて、光が消えるときには痣だらけだった身体はただの全裸に戻っていた。
「み、みぃ……」
「ニートちゃん!」
「ニート!」
「ニート君!」
その時、今まで眠っていたニートが目を醒まし、胸に抱いていたナスカとそれを不安気に集まっていたハルカとウェンディが喜びの声をあげた。
「ニートちゃぁん!!」
そんな彼女たちから引ったくるかのようにラザンテは素早くニートを抱きあげると、涙をボロボロ流しながら頬に蓄えた白髪混じりの髭を猫の顔に擦り付けた。
「みぃ! みぃ!」
嫌そうにニートは前足でラザンテの顔を押すが、本人はそんなことお構いなしに泣き崩れていた。
「まぁ、そういう訳じゃから、フェデリコよ。もう用は済んだのであろう? 我の気が変わらん内に、この町から出ていくがよい」
ゆっくりとした低い声でシュナはフェデリコに話しかける。
しかし彼はその言葉に対して重々しく首を振ると、パッとシュナの顔を見上げてキラキラとした瞳を向けた。
「そういう訳にはいきません、女神樣。このフェデリコ・ビアンコ。女神ディーテ様に仕える下僕であれば、その子孫であるあなた様のために、この身命を賭して尽くす所存でございます」
フェデリコは恭しくシュナの前で跪いた。
「いらん! 帰れ!!」
即答する彼女に対してフェデリコは目を見開き、まさかという驚きで口をあんぐりと開けた。
「な、何故ですか、女神樣!? このフェデリコ・ビアンコ、あなた樣のためでしたら地獄の底までお供する覚悟だというのに!」
「服を着ない変態に付いてこられたくないわ!」
またもや即答する彼女にフェデリコは「くっ」と呻き声をあげ、悔しそうに口の端を歪めた。
「そ、それだけは……、それだけはなりません! こればかりは、いかに女神樣の頼みでも、聖プエゴ教教会の教義『人間は自然のままに生きるべし』という言葉に反します故……。そして私はその尊き教義を守るべく、そしてこの広い世界の各国各地にこの愛ある狭義を広めるべく“一生裸でいる”ことを女神ディーテ樣の御前で誓いました! ですから私は、服を着れないのではないのです! 服を着てはいけないのです!!」
涙ながらにフェデリコは俯き叫んでいた。
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