アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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四章 遺跡探索

遺跡探索 8

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「「「きゃあああぁぁぁ!!」」」
 通路の反対側へとシュナの鉄砲水で押しやられた三人は、ずぶ濡れになりながら地面に這いつくばっていた。
 反射的に僕は彼女たちの元へと駆け出す。
 だって、強制されたとは言え、半分くらいは僕のせいだもん。ヒールくらいはかけてあげないと。
 そう思い僕は彼女たちに近付いたのだが……。
「「「ニィィトォォ……」」」
 側に駆け寄った途端、ガシッと僕は彼女たちに捕まり手足を拘束された。
 それよりもね。
 大事なことがあるんだよ。

 服が燃え水の滴る彼女たちの胸元は大事な部分だけが辛うじて隠れているだけで谷間は露になり、水が流れる首筋は何とも言えない色気を醸し出している。
 特に普段から足を使っているナスカとウェンディの太ももは、スリットから覗く絶対領域よろしく燃えて切れ目の入ったホットパンツとズボンから健康的なギリギリのラインを見せつけていた。そして唯一黒のロングスカートを履いているハルカの脚線も、また違った色香を醸し出し、まるでチャイナから覗くチラリズムのような気持ちの昂りを強要してきていた。
 そんな僕の視線に気付いたのか、彼女たちは顔を赤らめて僕を手放した。
「ちょ、ちょっとニートちゃん!?」
「猫だからって、どこ見てんの! 絶対許さないからね!」
「ニート君がそんな変態さんだったなんて……」
 そんなつもりはないんですよ!
 むしろこれは必要不可欠な描写と言いますか、僕の役得といいますか……。
 自分の頭に片手を乗せてテヘペロ、としてみる。
「「「……!」」」
 火に油を注いだだけだったようだ。
 めっちゃ睨まれてる……。
「中々いい絵ができてるではないか」
 遅れてやってきたシュナがそんなことを宣いながらニヤニヤと笑って歩いてくる。
「せ、先生!」
「しゅ、シュナさん! なんてことしてくれるんですか!?」
「も、もう……、恥ずかしすぎますわ……」
 ハルカは恩師の行為に微妙な顔をして顔を俯け、ナスカは頬を赤らめながら抗議の声をあげ、ウェンディは言葉の通り恥ずかしそうに顔を両手で覆い、みんな揃ってアヒル座りしていた。
「確かに我が原因ではあるが、最後のは自分らでトドメを刺したようなもんじゃぞ」
 そう言って笑うシュナの笑顔は、どこかオッサン臭さを感じた。
 だってアレ、絶対おっぱい見てるもん。
「どういうこと?」
 ポカンとする三人を見てシュナは「しょうのないやつらじゃ」と無い胸を反らした。
「あの蔦はニートの魔法を受けて動き出した、言わば天然のゴーレムのようなものじゃ。通常のゴーレムなら石材や鋼鉄でできておるからの。ファイアボールなどじゃ、逆立ちしても傷一つできんじゃろぉ。ところがアレは植物じゃ。ただでさえ炎に弱いというに、“魔力の呼び水”効果で火力が跳ね上がったのじゃからな。自業自得というものじゃ」
 ひとしきり説明したシュナは両手を肩ほどまで上げ、やれやれと首を振った。
「ま、魔力の……?」
「呼び水、効果……?」
 今の説明でハッとしたハルカとは対照的に、ナスカとウェンディは首を捻って互いの顔を見やった。
「何とも察しの悪い奴らじゃのぉ。ハルカよ。今ので分かったじゃろぉ。説明してやれ」
「は!? はい!」
 今こんな状況なのに、ハルカって素直なのね。
 僕がそんなちょっと呆れた感想を抱いていると、ハルカは他の二人の顔を見ながら「呼び水、は知ってるわよね?」と自分の口元に指を当てた。
「そ、それは知ってるよ」
「確か、井戸を初めて掘った時に、ちょっと遠いところにある地下水を呼び込むために使う最初の水、でしたわよね?」
「そうそう」
 簡単に言えば表面張力を使ったものと位置エネルギーを使ったものがある。
 後者の場合は説明が簡単だ。
 何しろ中学の理科でやる、高い所にある樽の中を水で満杯にし、下の樽にポンプやバケツなど使わずホースだけを使って水を汲む、あの実験のことだからだ。
 この実験の要は位置エネルギーとホースである。
 高い所にある水を下の樽に移す場合、下の側にあるホースの先を自分の口でも他人の口でもいいからとにかく咥えさせ水が出てくるまで吸い込む。そうすることで後は自動的に位置エネルギーの限界が来るまで下の樽に水が流れ込むのだ。
 この時のホースの中にある水のことを“呼び水”という。
 そしてこれが表面張力の場合は、どうしても水脈まで井戸が掘れない場合などが出てくる。時の権力者や建物が邪魔で掘れない場合だ。こういうときにも呼び水が使われる。
 例えば近くを水脈が通っているとする。その近くに井戸を掘った場合、勿論のこと最初は水など出てこない。しかしここで井戸に水を入れ、土の中に水を浸透させていくと、その染み込んだ水が呼び水となり、新しい水脈を形成して井戸ができるのである。
 何故これが表面張力なのかというと、水を満杯にしたコップを思い浮かべて欲しい。コップの縁より上に水がギリギリで満たされても、水が溢れてこない状態。これが表面張力である。
 そして水脈とは一定の押される力が働く。この押される力は新しくできた水脈にも有効で、新しくできた水脈は元の場所より高い場所にあるのが殆どである。この時どうやって水が沸き上がってくるかというと、この押される力が新しい水脈の中を土と土の間が表面張力となりそれが連続で行われることによって、水が上にある井戸に沸き上がってくるのだ。
 この井戸に似た表面張力の使い方によって水を飲む変わった蜥蜴が地球にはいるので、もし機会があるなら“モロクトカゲ”で調べてみてね。面白いよ。

 ただ、ここまで考えて魔法に呼び水と同じ効果があるとすれば、その場合って……。
「今の場合、ニートが蔦を魔法で操ったことにより、蔦にニートの魔力が流れていることになるの。そこへあたしが魔力で作り出した炎を当てたことによって、さっき先生が言ったようにニートの魔力にあたしの魔力が混ざり合っていく形になって、効果が跳ね上がったの。つまり……、その……」
「「つまり……?」」
 顔を赤らめて視線を下に向けてキョロキョロさせるハルカに、ナスカとウェンディの二人が首を傾げた。
 なんか、嫌な予感がする。
 だって魔力って個人個人で波長が違うって、シュナが言ってたもん。
 それが“呼び水”で効果が上がるってことは……。
「つまりはじゃな、ハルカの運命の、人? というか相手、はニートじゃったのじゃ」
「「ええぇぇ!?」」
「な、なんて言い方するんですか!? 先生!」
 くははは、と大口を開けて笑うシュナに顔を真っ赤にしてハルカは食ってかかっている。
 いや本当に! なんてこと言うのさ!?
 シュナの奴、絶対楽しんでるよね!?
「まぁ、確かに今のは語弊があったであろうが、通常の魔力干渉は“魔力の呼び水”効果など起こさん。火が草木に着火すれば燃えるという、自然現象程度で収まる。ところが世の中には相性のいい魔力の波長の持ち主がおって、そういう魔力の持ち主同士であれば先ほどお主らが見たように大炎上するのじゃ」
「つまり……、ニートちゃんと」
「ハルカさんは相性抜群と……」
 二人は微笑ましいモノでも見るかのように笑顔を浮かべハルカの顔を見やった。
「なんで! このバカ猫と! あたしの相性が! いいことになるのよ!!」
「嬉しいくせにー」
「そうですわよ。ニートさんならいいじゃないですか。私なんか、どれだけ変な男に言い寄られてきたか……。成人迎えた途端に親に引き摺り回されて、マザコンのキザ男とか、娼館に通うのが趣味と公言しているバカ貴族とか……」
「ウェンディが、変なスイッチ入っちゃった……」
「何か、ごめん……」
 後ろを向いて青筋たてながらブツブツと呟くウェンディに、二人は苦い表情で謝っていた。

 仲いいね。
 すっかり忘れてるようだけど、今の君たちの服装は際どいんだよ。
 それに、何かもう一つ忘れてるような気が……。
「すいませぇぇん……!」
 その声にハッとして僕らは先ほど通ってきた通路を振り向いた。
 そこにいたのは通路の真ん中辺りで動かなくなっている神父であった。
「あ、あの……、私、つっかえてしまいまして……」
 そりゃ見れば分かるよ。
 それになんとなく言いたいことは分かるけど、それ以上言うなよ。
 絶対言うなよ。
「“ピー”が挟まって……」
「死ぬがいいのじゃ! スプラッシュ・ブラスター!」
 僕も手伝うよ!
―――再現魔法“スプラッシュ・ブラスター”!
「みいいぃぃ!!」
「先生! あたしも……! スプラッシュ・バースト!」
 三つの水の奔流が我先にと神父のいる通路へ殺到し、やがて三つの水流は一つの激流となって神父を押し流していった。
「ほわぁぁぁぁ! ぐぼぐぼぐぼ……」
 悪は滅んだ。

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