アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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四章 遺跡探索

遺跡探索 19

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「ハイヒール……、かけてあげないの……?」
 僕は隣で鼻を押さえているシュナにそう声をかけた。
 ちなみにハルカとウェンディの二人はナスカの隣で背中を擦っている。
「一度入りすぎた魔力を、ああやって吐き出しきらんとハイヒールはかけられん。今やったら更に吐くぞ」
 後でって、吐き切った後で、か……。
 何か僕もしてあげたいけど、今の僕の身体はナスカの嘔吐があまりにも臭いせいかフレーメン反応起こしてるんだよね。
「は、ハルカさん。そろそろハイヒールをかけてあげても……」
 顔をしかめながらウェンディがナスカを挟んで反対側に立つハルカに声をかける。
「そ、そうね。もういいかも……。ハイヒール」
 頷きつつハルカがナスカに回復魔法をかける。
「ニート君。今の内に、水で流してくださいませんか?」
 ウェンディがそう言いながら僕の方に顔を向けるが、僕の顔を見た途端に「ぷふっ」と口を手で押さえて笑いだした。
「なに笑ってるのよ、ウェンディ?」
 訝しみながらハルカは僕の方に目を向けると「なんて顔してるのよ!?」と彼女も笑い声をあげた。
「しょうがないだろ! フレーメン反応なんだから!」
 魔法で声を出してるから口が動いたりしないが、脳が匂いを感じること以外の活動を拒絶している。だから今の僕にはできることはない。
「フレーメンはんのう……? くははは!」
 彼女たちが笑うので、今更気付いたシュナが僕の顔を見て笑いだした。
「もう! フレーメン反応ってのは、猫が強い匂いを嗅いだ時に起きることなの! 僕も身体が勝手に反応しちゃってるから、どうしようもないの!」
 なんだよ! 確かにググると猫の可笑しな顔がいっぱい出てくるけど、そんなに笑うことないだろ!
 フンス!
「くははは……! くく、すまぬな。どれ、我が代わりに流してやろう」
 まだ可笑しいのかシュナが若干笑いを堪えながらナスカたちの元へと近付いていく。
「お、お願いしますわ。シュナさん……。ぶふっ」
 ウェンディが口元を押さえながらナスカの隣の場所をシュナに譲る。
「うむ。ウォータースプラッシュ」
 シュナの詠唱で彼女の腕から水鉄砲より強いくらいの水流が放出された。
 通路の隅に溜まっていた吐瀉物を、その水を操りながらシュナは綺麗に通路脇の亀裂の入った場所へ流していく。
 彼女が掃除をしている内にナスカの回復が済んだのか、彼女の周りを包んでいた緑色の光が消え去った。
「あ、ありがとう……、ハルカ……」
 まだ少し顔に青筋を立てているナスカが深呼吸しながら上体を起こすと、ハルカが「気にしなくていいわ」と苦笑する。
「で、ニートちゃんは……、どんな顔をしてるの?」
 よっぽど気になっていたのか、ナスカがゆっくりと振り返り僕の顔を見たが、既に僕は再現魔法でファブ○ーズを撒いておいたので、匂いは綺麗サッパリなくなりフレーメン反応の変顔をしていなかった。
「普通、じゃない?」
「あれ? もう……、うん? 何か、いい香りしない?」
「そう言われれば……」
 そう言いながら女性陣が周囲の匂いを嗅ぎだした。
 すると今まで黙っていた神父が、何故か誇らしげに僕に笑顔を向けてくる。
「全ては猫様が行ったことです。私は見ていました! 猫様が新たな魔法で周囲を浄化していくのを!」
 両手を広げて高らかに宣言するバカは放っておいて、その言葉に一番最初に喰い付いたのはやはりハルカだった。
「またあんた、私の知らない魔法つかって! 憎たらしい!」
 ちょっと! もう嫉妬は隠す気ないのね!?
「ただのフ○ブリーズだよ。浄化とかそんなんじゃないよ」
「なによそれ!? 聞いたことないわよ! 教えなさいよ!」
 教えるって言ったって……。
「ちょっと無理……!」
「なんですって!? ニート!!」
 ハルカが目の端を吊り上げて僕に向かって来る。
「無理なものは無理なんだったら!」
 僕は彼女の股の間を素早く通り抜け、後ろにいるナスカの胸元に飛び付いた。
「ちょっ!? ニート!」
「に、ニートちゃん!?」
 いきなりのことにナスカは目を丸くしながらも、ちゃんと僕のことを抱き止めてくれた。
「く、くちゃい……」
 行かなきゃよかった。
 またフレーメン反応してしまった。
 ナスカかシュナで迷ったんだけど、ナスカが匂いの元を出したんだもんね。
「う、うぅ……」
 僕の一言でナスカが意気消沈し、ウェンディとハルカが僕の頭をグリグリしてくる。
「ニート君! そういうことは、言ったらダメですわ!」
「ニート! 謝りなさい!」
「ご、ゴメン、ナスカ」
「う、うん……」
 うっかり言ってしまったとはいえ、女性に『臭い』はないよね。これは僕が悪い。
 なので僕は彼女に再現魔法でもう一度ファブリ○ズを使ってあげた。
「いい匂い……」
「へぇ。これがファ○リーズねえ」
 ミストが辺りに充満し、女性陣の顔が緩む。
 これで少しは許してもらえたかな?
「ゴメンね、ナスカ」
 僕は再度彼女に謝ると、ナスカは首を振って「いいよ」と笑ってくれた。
「さぁ、いい加減に行くとするかの」
 シュナの言葉で僕たちはハッとした。
 そういえば、僕たちはこんなことしてる場合じゃなかったんだ。
「すっかり忘れてた……」
「まったく……。しょうのない奴じゃのぉ」
「ダメですよ。ニート君」
「目的忘れるとか。やっぱりニートは魔法がてきてもダメね」
 なんか酷い言われようなんですけど……。
 さっき君たちもハッとしたよね?
 なんで僕だけ……。
「さっさと調べて帰るとするのじゃ。もう夜の八時を回っとるのじゃぞ」
 シュナはポシェットから懐中時計を取り出し僕らに告げる。
「え!? もうそんな時間?」
「夜更かしはお肌の大敵ですものね」
 そう言いながら僕たちはそそくさとナスカが破壊した扉を踏み越えて、ディーテの言っていた部屋の中へと入っていった。

「なんじゃこれは?」
「何これ? 何に使うんだろう?」
「うわぁ、綺麗……」
「変わった模様ですね……」
 部屋の中に入った途端に彼女たちは好奇心を爆発させて思い思いの行動を取りだした。
 シュナはナトゥビアの地球儀を見ながら手で回転させ、ナスカは傘立てから傘を取り出して横に振っている。ハルカは机に置いてあった水晶の天使像を見てため息をつき、ウェンディは壁にかけてあった飾り絨毯を眺めながら手触りを確かめていた。
「みんな……、自由だね……」
 僕の横には不本意ながら神父しかおらず、神父は首を縦に振りながら「女性とはそういうものです」と呟いていた。
「それにしても、何か引っ掛かるなぁ……」
 僕は神父の言葉を無視して言葉を発する。
「ん? 何が、引っ掛かるのじゃ?」
 僕の言葉を聞き付けたシュナが地球儀から手を離して近寄ってきた。
「埃が、ないんだよね……」
「そう、じゃな……」
 僕の言葉にシュナの目が細くなる。
「皆! 油断しないで!」
 僕らの話しを聞いていたのか三人は互いに周りを見渡しながら一ヶ所に集まり、背を合わせて「うん」と頷いた。
 その時、急に天井の一角がパカッと観音開きに開き、三体のフリスビーのような物体が青い光を放ちながら現れた。
『侵入者確認。排除シマス』
 ナスカたちにその円盤は照準を合わせたらしく、機体の外周から二本のカッターを射出し、各々がナスカ、ハルカ、ウェンディへと回転しながら向かっていく。
「はぁぁぁ!」
 ナスカが一人で射出されたカッターを全て斬り落とす。
「曲射・雷電!」
「ウィンドカッター!」
 それと同時にハルカの魔法とウェンディの矢が飛んでいく。ウェンディの矢は曲線を描き、三本同時につがえた矢の内一本が円盤に当たり火花を散らせて小爆発を起こす。矢を避けた二体にはハルカのウィンドカッターで真っ二つに斬り裂かれ、破片を周囲に撒き散らした。
『侵入者』 『侵入者』 『排除』 『排除』
 息つく間もなく次々に円盤が天井から現れる。
「これではキリがないのぉ」
 シュナはアイスニードルを放ち三体の円盤を同時に串刺しにしながら呟いた。
 ナスカたちも降って湧いてくる円盤を次々と斬り捨て、僕もチャクラムを造り出して迎撃しているが、一向に数が減る様子がない。
 それに加えて落ちていく円盤の様子を見る限り、蟻型ロボットの時と違ってちゃんと整備されているようだった。
「どうにか、ならないの!?」
「こういう時は、大本を絶つのが定石ですけど……」
 ウェンディの言葉に僕たちはチラリと天井に空いた穴を見やる。
 そこからは次々と円盤が排出され続けているが、どう見繕ってもシュナでギリギリ、他の女性陣だと詰まってしまうくらいの大きさしかなかった。
「僕が行くよ……。僕なら暗いところも見えるから……」
 チャクラムで円盤を斬り落としつつ僕がそう告げると「よいのか?」とシュナが気遣わしげに視線を向けてくる。
「これをどうにかしないと、どうしようもないでしょ!」
 僕はその言葉と同時に穴に向かって走り出した。
「実力行使か……。世話が焼けるのぉ」
 シュナが苦笑しながら僕の後ろを付いてくる。
 急に走り出した僕らに円盤が殺到しだし、それをナスカたちがことごとく打ち払ってくれた。
「ニートちゃん! お願い!」
「ちゃんと帰ってくるのよ!」
「戻って来なかったら、分かってますわよね!?」
「うん、分かってるよ!」
 頷きつつ穴の真下へと来た僕は、穴から排出される円盤を足蹴にしつつ穴の中へと入っていった。
「ニート! 餞別じゃ! ウィンドブラスター!!」
 僕の後に穴の真下に辿り着いたシュナが、僕が穴の中に入ったと同時に穴の中に向かって魔力の突風を叩き込んできた。
「ちょ!? うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
 僕の悲鳴が通路に木霊した後、ナスカたちの「えぇぇ……」という声が聞こえてきたような気がした。

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