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第2章
第38話『200万人突破おめでとう!?』
しおりを挟む「200万人突破、おめでとうございます!」
アオイが勢いよく言うと、ミドリが少し弾んだ声で返した。
「ありがとうございます!」
二人は動物園の園内を歩いていた。春の陽光が木々の間を抜け、アスファルトにまだらな影を落としている。遠くからライオンの低い唸り声や鳥のさえずりが聞こえ、アオイは新鮮な空気を吸い込んで心地よさを感じていた。
ミドリが200万人突破を果たしてから数日経ち、二人は約束通り、祝いをかねて動物園へ出かけていた。彼女がカバのエリアで立ち止まり、目を輝かせてこちらを見た。
「表見さん、カバって意外と大きいですね!」
「ほんとだ! 水の中で動いてるの、なんか癒されますね」
ミドリが餌やりコーナーでニンジンを手に持つと、カバがのっそり近づいてきた。アオイも一緒にニンジンを差し出し、大きな口が近づくたびに笑った。ミドリが「すごい食べてる!」と声を弾ませ、二人は顔を見合わせて笑い合った。次にフラミンゴのコーナーへ移動すると、ミドリがピンク色の群れに目を奪われた。
「フラミンゴって片足で立つ姿が優雅ですね。綺麗だなあ」
「確かに、バランス感覚すごいですよね。俺も真似してみようかな」
アオイが片足で立ってみると、すぐにぐらついて転びそうになり、ミドリがくすくす笑った。二人の間に軽やかな空気が流れ、アオイは楽しさが胸に広がるのを感じた。
「表見さんとまたこうやって出かけられて嬉しいです」
ミドリがぽつりと呟くと、アオイは照れて頬が熱くなった。
「おっ、俺も嬉しいですよ」
そして二人で歩いていると、前方で小さな女の子が転んだのが見えた。女の子は泣いてしまい、お母さんらしき人が慌てて駆け寄りあやすが、中々泣き止まない。そこにミドリがそっと近づき、屈んで優しく声をかけた。
「大丈夫だよ。痛いの痛いの、とんでけ」
彼女の柔らかな声が響くと、女の子が涙を拭い、徐々に泣き止んだ。アオイはその温かい光景を微笑ましく眺めた。女の子が突然お母さんを見上げ、元気な声で言った。
「ママー! お姉ちゃん、かわいい声してるね!」
「そうね。お姉さん、ありがとうございます」
お母さんが感謝の笑みを向けると、ミドリが照れながら首を振った。
「いえいえ」
親子が手を振って去ると、アオイがミドリに言った。
「ミドリさんの声って不思議ですよね」
「何がですか?」
ミドリがキョトンとした顔で尋ねる。アオイは微笑みながら答えた。
「聞いてると癒されるっていうか、心が落ち着きます」
ミドリが驚いたような表情を浮かべた後、顔を真っ赤にした。そして無言で別の方向を向き、急に声を上げた。
「わたし、キリン観に行きたいです!」
二人はキリンコーナーへ向かった。長い首をゆったり伸ばすキリンを見上げ、ミドリがアオイに言った。
「今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「いや、俺も来たことなかったんで新鮮です。動物園って楽しいですね」
そして一通り園内を回った後、二人はフードコートに移動した。アオイが冷たいレモネードを手に持つと、ふとあることを思い出した。
「そういえば、モモハさんのデビュー決まったらしいですね」
「聞きました! なんでも、今回は西園寺さんじゃなくて、南野代表のプロデュースだって聞きました」
ミドリがそう言うと、アオイは眉を上げた。
「それは一悶着ありそうですね……」
居酒屋での西園寺の熱弁を思い出し、アオイは苦笑い混じりにため息をつく。ミドリが首をかしげながら言葉を続けた。
「でも、南野代表ってほんと温厚な方で、いつもニコニコしてて良い人なんですけどね」
西園寺と衝突する人だから、怖い人を思い浮かべていたが、そのイメージとの違いにアオイは少し驚く。するとミドリがさらに言葉を重ねた。
「北大路さん曰く『西園寺くんにとって代表は、あなた達にとっての西園寺くんみたいな人よ』だそうです」
「何か分かるような、分からないような……」
アオイが首を傾げると、ミドリが軽く笑った。
「まぁ、わたし達が考えても仕方ないですよね」
そして二人はフードコートを出ると、売店へ向かった。ぬいぐるみやキーホルダーが並ぶ中、ミドリが目を輝かせた。
「どれも可愛いですね」
「ミドリさん、好きな動物ってあるんですか?」
「動物全般好きですけど、特にパンダが好きなんです!」
確かに、パンダコーナーで彼女が「可愛い!」と連発していたのを思い出した。ミドリが少し照れながら続けた。
「VTuberになって収入が増えたのもあって、ついぬいぐるみとか買いすぎて散財しちゃうんです。だから今日は我慢して、パンダのキーホルダーくらいにしとこっと」
二人は買い物を済ませ売店を出ると、アオイはミドリに言った。
「俺、お手洗い行ってくるんで、ベンチで待っててください」
ミドリが頷いてベンチに腰かけたのを見届け、アオイはこっそり売店に戻った。パンダのぬいぐるみを手に取ると、その愛らしい顔がミドリの笑顔に似合いそうだと思った。袋に入れてもらい、ベンチへ戻ると、アオイは少しドキドキしながら差し出した。
「ミドリさん、これ」
「えっ、パンダ!?」
「200万人突破記念のプレゼントです!」
ミドリが目を丸くして受け取ると、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。頬がピンクに染まり、明るい笑顔が弾けた。
「ありがとうございます! こんな可愛いの、嬉しくて抱き潰しそうです!」
「潰しちゃうと可哀想ですけど、喜んでもらえて良かった」
アオイは照れながら笑った。ミドリの幸せそうな顔に、心が温かくなった。
そして二人は出口へ向かう前に、ソフトクリームスタンドに立ち寄った。ミドリがバニラを手に持つと、アオイに笑顔を向けた。
「表見さん、ソフトクリーム美味しいですね」
「うん、動物園で食べるとなんか特別な感じがしますね」
ミドリがソフトクリームを一口食べて、少し溶けたクリームが唇につく。アオイが「ちょっとついてますよ」と笑うと、ミドリが慌てて拭いて「恥ずかしい!」と顔を赤らめた。二人は笑い合いながら、園内での楽しい時間を締めくくった。
二人は動物園を出て、帰路につく。そしてミドリのマンション前まで来ると、彼女は立ち止まり、アオイの方へ向き直った。
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ楽しかったです。いい休日になりました」
ミドリが少し下を向き、口元を手で隠した。視線が地面に落ちると、アオイは気になって尋ねた。
「どうしました?」
「わっ、わたし……カラオケも今日の動物園もすごく楽しくて……表見さんと一緒にいると、なんだか落ち着きます……」
ミドリが恥ずかしそうに言うと、その言葉にアオイの心臓がドキッと跳ねた。彼女が顔を上げ、言葉を続けた。
「わたし、表見さんのこと……」
一瞬目を大きく見開き、言葉が詰まったように見えた。アオイが息を呑むと、ミドリが急にニコッと笑顔になり、勢いよく言った。
「わたし、表見さんとお友達になれて本当によかったです!」
アオイはその笑顔に緊張が解け、肩を落として笑った。
「俺もです!」
そしてミドリが小さく手を振ると、軽い足取りでマンションのドアへ向かって行った。夕陽が彼女の髪をオレンジ色に染め、振り返った瞬間に見せた笑顔が柔らかく輝いていた。少しだけ恥ずかしそうに唇を噛む仕草が、アオイの目に残る。
アオイはその背中を見送ると、ゆっくりと家路につきながら、今日の楽しかった時間を思い返していた。
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