48 / 91
第3章
第48話『いざ、作戦決行!?』
しおりを挟む事務所での話し合いから四日後の夕方、アオイは撮影スタジオに足を踏み入れた。中に入ると、既に西園寺、ミドリ、ミャータ、そしてモモハが集まっていた。機材が並ぶ部屋には微かな緊張感が漂う。
「西園寺さんまで配信の協力してもらっちゃって、すいません……」
モモハが申し訳なさそうに言うと、西園寺が軽く肩をすくめた。
「いいさ! 紅音ウララの件もあるからね。それに僕が考えたVTuberなのに、僕のプロデュースでデビューさせてあげられなかったのも、申し訳なく思ってるよ」
西園寺が少ししょげた顔で呟くと、モモハが静かに応じた。
「わたしはとても感謝してます」
――尊い!!
その真っ直ぐな言葉に、アオイの胸が熱くなった。西園寺が目を潤ませ「モモちゃーん!」と抱きつこうとした瞬間、アオイは慌てて止めた。
「セクハラになりますよ!」
「ちぇっ」
「全くこの人は……」
アオイは呆れたように呟くと、ミャータが間延びした口調で告げた。
「そろそろ時間やで~」
「よし、一発かましてやりますか!」
西園寺が勢いよく立ち上がり、ミドリが目を輝かせて頷いた。
「はい! やりましょう!」
作戦はこうだ。Wens公式チャンネルで緊急謝罪会見を開き、先日アップロードされた『Heart of Resolve』をライブ配信で全力で歌う。配信終了後には、ここ数日で録り直した新バージョンを再アップロードする予定となってる。
「ほんと、東ヶ崎さんには頭が上がらない……」
「クロっちは『アオイのやつ、やるじゃない』って言ってたよ」
西園寺が笑みを浮かべながら言うと、アオイは小さく息を吐き、肩をすくめた。
「今度、何か差し入れでも持ってきます」
そして配信の準備が整うと、モモハ、ミドリ、ミャータが真剣な表情になった。
◆◆◆
配信が始まると、画面には翠月アリア、浅葱コスモ、そして撫子ミアの姿が映し出された。三人はスーツ姿で、まるで本物の記者会見のようなセットに並んでいる。
派手なフラッシュのエフェクトが画面を彩る中、ミアが凛とした表情で前を見据え、はっきりと言葉を発する。
「皆様、この度は翠月アリア、浅葱コスモ、そしてワタシ撫子ミアの謝罪会見にお集まりくださり、ありがとうございます。ワタシたちが先日アップロードした『Heart of Resolve』のMVにつきまして、謝罪させていただきます。あの曲の中でのワタシたちは、調和を意識しすぎて、各々の個性を抑えた歌い方になってしまいました。なので、本日はこの場をお借りして、ワタシたちの全力の『Heart of Resolve』を聴いてもらいたいです!」
コメント欄が一気に盛り上がった。
▼「やっぱりなんかいつものアリアリじゃない気がしたんだよね」
▼「コスモくんも単調だったもんね!」
▼「全力歌唱!? 神配信!」
――やっぱりファンの人たちも気づいてたんだ……
すると、黒子のようなキャラクターたちが素早くセットを記者会見からステージに模様替えし、三人がくるっと回転すると、スーツから華やかな衣装に変わった。そしてミアが明るく叫んだ。
「では聴いてください! AccordiaでHeart of Resolve!」
音楽が流れ始めると、アオイは息を呑んで見つめた。イントロのピアノが静かに響き、ミアがメインで歌い出した。可愛らしい声がハキハキと跳ね、サビに向かって力強く伸びていく。Aメロの途中でアリアが加わり、伸びやかで透き通った声がメロディに優美な彩りを添えた。Bメロではコスモの中性的なクリスタルボイスが響き、その音色がかっこよく空間を満たす。三人はMVの時とは違い、主張し合うように歌っている。サビでは三人の声が重なり、ミアの元気でパワフルな高音がリードし、アリアの柔らかな中音が支え、コスモの中性的で透明感のある声がアクセントを加えた。ハーモニーは力強くも自由で、感情が溢れ出すような歌声にアオイは鳥肌が立った。
▼「ミアちゃん上手すぎ!」
▼「アリアリらしさが戻った~」
▼「コスモくーん! イケボー!」
コメント欄が熱狂し、アオイはファンの反応に頷いた。そして歌い終わり、ミアが息を整えて言葉を発した。
「ありがとうございました! ワタシはVTuberとしてまだまだこれからですが、みんなを元気にできるようなVTuberになって、いつかWensのエースになってみせます! 皆様、これからもよろしくお願いします!」
コメント欄からスパチャが大量に流れ込み、アオイは三人の清々しい表情を見て、満足感に浸っていた。そして配信が終わり、スタジオに静寂が戻った。
◆◆◆
「やあやあ、お疲れー! 最高の歌声だったよー!」
西園寺が興奮気味に言うと、アオイは少し涙ぐみながら呟いた。
「ほんとに……なんというか……感動しました」
「表見くん、泣いてるのー?」
西園寺がニヤニヤしながらからかってくると、アオイは慌てて涙を拭った。
「なっ、泣いてませんよ!」
すると、モモハが清々しい表情でアオイを見てきた。
「本当にありがとうございました。全部出しきれました! いいデビューだったって胸を張って言えます!」
彼女の言葉に、アオイの胸が強く締め付けられた。
――だから尊すぎるってぇええ!
「わだじも感動じまじだぁ」
ミドリが号泣しながら叫ぶと、ミャータが呆れた様子で言った。
「ミドリさん、泣きすぎや~。まぁ、ぼくも楽しかったけどな」
その様子にアオイが微笑むと、ミャータが近づいて腕を組んできた。
「それにアオイさん、やるやん。ますます気に入ったで」
その瞬間、ミドリが笑顔ながらも険しい表情でこちらを睨んでるのに気がついた。アオイが冷や汗を流すと、ミャータが苦笑いを浮かべた。
「あはは、ミドリさん、顔怖いで」
「べっ、別に何でもないですよ!」
ミドリが慌てて誤魔化すと、西園寺が割って入ってきた。
「カオルちゃんから撮り直したMVアップできたって連絡きた! さてさて、どうなるかね~」
「それでも負けませんよ!」
アオイは自信満々に言う。
「アオイさんっていつも、自分のことみたいに言うやん~」
ミャータの言葉に、アオイは思わず目を見開いた。
「まっ、マ――」
「マネージャーとしてな~!」
ミャータに遮るように言われ、アオイは苦笑いを浮かべる。すると、西園寺が手を叩いた。
「じゃあ、もう夜遅いから解散しよう! 僕はこれから代表のとこに説明に行かなきゃだからねー」
嫌そうな顔で言う西園寺に、アオイが申し訳なさそうに呟いた。
「ほんと申し訳ないです……」
西園寺がふっとため息をつき、軽く微笑んだ。
「まぁ、これもプロデューサーの仕事だからね。骨は拾ってくれよ」
「こっ、怖いこと言わないでくださいよ……」
「冗談だよ。じゃあ、みんなさっさと帰りなさーい」
「みなさん、改めて本当にありがとうございます」
モモハが頭を下げると、西園寺が満面の笑みで応えた。
「うん! これから一緒に頑張ろうね!」
モモハが涙ぐみ「はい!」と大きく返事をする。
「じゃあ俺は軽く片付けてから帰るので、みなさん先に行ってください!」
アオイがそう言うと、ミドリが手を挙げた。
「わっ、わたしも手伝います!」
そして二人以外がスタジオを後にした。
***
「どうなりますかね……」
ミドリが呟くと、アオイは静かに答えた。
「分かりません。でも、どっちが勝っても悔いはないと思います」
「わっ、わたしはどうしても勝ちたいです!」
ミドリがおどおどしながら言うと、アオイは首をかしげた。
「まぁ、アニメの主題歌って大きい仕事ですもんね」
「違います!」
「へ?」
「お食事の件です……」
ミドリが顔を赤らめて呟くと、アオイも顔が熱くなった。
「あっ、えっと、はっ……はい……」
彼女の顔がさらに赤くなり、湯気でも出そうな勢いだ。アオイは続けて言葉を放った。
「とっ、とりあえず結果を待ちましょ!」
「でっ、ですね!」
気まずい沈黙が落ちた。
「……」
「…………」
何か言わなければと焦り、アオイは思わず口を開く。
「かっ、帰りますか!」
「はっ、はい!」
ぎこちなく並び、スタジオの出口へ向かう。彼女を意識しすぎて、歩調がうまく合わない。無理に合わせると余計にぎこちなくなる。
扉を開けると、廊下のひんやりとした空気が肌を撫でる。ほてった顔を冷ますように、アオイは小さく息を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる