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WORKS2 転生社畜、女子高生に学ぶ
💰朝日に照らされる奴隷紋
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『いいか、千年。起業をすることがスタートアップなんじゃない、強烈なイノベーションで新しい市場を生み出す、鮮烈なアイデアがなくちゃダメなんだ』
今は亡き父の言葉。
チトセは「わかってるよ」と返した自分の声で目を覚ました。
カーテンを開けると、ちょうど朝日が昇ってきたところだった。
太陽の眩しさから逃れようと、右手を顔の前まで上げると、〇やら△やらが複雑に組み合わさった幾何学模様が目に飛び込んでくる。
手の甲に、まるでタトゥーのように刻まれたそれは『奴隷紋』という。
毎朝、この紋様を目にする度に『ここは自分のいた世界ではない』と思い知らされて、目頭がグッと熱くなる。
起業家だった父の薫陶を受け、自身も中学生にして起業。
十数年前ならいざ知らず、中学生女子の起業家など近年ではさして珍しくはない。
そのまま事業を軌道に乗せると、さっさと売却して投資した資金を回収した。
それがこの世界に飛ばされる三ヶ月くらい前のことだ。
『もう一年くらいかけて事業を伸ばしていれば、もっと高値で事業を売却できたハズだ。それくらいのガマンもできないあたり、まだまだ子供だな』
なんて上から目線の言葉を、わざわざチトセのSNSアカウントに送りつけるヒマ人が寄ってくるくらいには有名になった。
印鑑証明を取得できる十五歳の誕生日に起業したから、大体二年くらいかけたことになる。周りの大人は「たった二年でイグジットするなんて凄いね」と言うけれど、チトセの感覚では「貴重な二年を費やした」という気持ちが大きい。
休日に友達と遊ぶ時間もなく、学校と塾と仕事をサイクルするだけの生活。
起業したのは自分の意志だから、そのことを後悔しているわけではないけれど。
これ以上、続けていく気にはなれなかったのだ。
余計な荷物を下ろして身軽になったチトセは、やっと『普通の女子高生』の生活を送れるようになった。――このファンタジーな異世界に送り込まれるまでは。
「⦅こんなところに来るために、イグジットしたんじゃないんだけどなあ⦆」
※⦅⦆内は日本語です
イグジットしようがしまいが、この世界に飛ばされるという結末に変化があるわけではないのだけど。
「⦅三ヶ月前まで社長やってたボクが今は奴隷とか。皮肉が利きすぎだよ⦆」
奴隷紋は、この世界独自の技術である魔法契約によって、奴隷としての従属を課せられた者に刻まれる印、だそうだ。主人に対して意図的に危害を加えることができず、主人は奴隷の居場所が感覚的にわかる仕組みになっているらしい。
…………さっぱり意味がわからない。
ただ、この世界において、元の世界でいうところの『科学』が発達しない理由はよくわかった。
この世界は、魔法とかいう技術が便利すぎる。
奴隷の権利は全て主人に付随している。
そのため奴隷は、住むことも、働くことも、自身の自由にはできない。
一方で、主人以外の人間が奴隷に命令したり、危害を加えることも許されていない。正真正銘、奴隷とは個人の所有物なのだ。
「⦅ダリスも元は日本人とか言ってるけど、どこまで信用できることやら⦆」
言葉もわからないまま、気づけば奴隷として売られていたチトセを買い取って、檻から出してくれた少年。本人曰く、この世界の貴族令息に異世界転生した日本人のオジサンらしい。
実際に日本語も喋っているから、ウソをついているわけではないようだけど。
残念なことに打算的な下心が透けて見えている。
きっと彼は隠しごととか下手なタイプだ。浮気したらすぐわかりそう。
だからこそ、確信できてしまう。
「⦅ボクのステータスが全部Fだったら……、彼はきっと、助けてくれなかった⦆」
見て見ぬふりをしていたんじゃないだろうか。
会話の内容はわからなかったけど、最後にダリスが奴隷商にお金を支払っているところが見えた。多分、金貨を4、5枚くらい渡していた。
今回の狩りはたまたま良い結果で、その稼ぎが金貨5枚と銀貨3枚。
ダリスは相好を崩して大喜びしていた。
金貨5枚とは、それだけの価値があるお金だということ。
彼はチトセを買うために同じくらいのお金を支払い、さらに武器と防具まで買い与えた。
それはなぜか。
もちろんチトセに、いやチトセのステータスに利用価値があるからだ。
「⦅じゃあもし、ボクに利用価値がなくなったら……⦆」
チトセは昨日、狩りの最中に大きすぎる欠点を晒してしまった。
ほかに使い勝手の良い奴隷が見つかって、チトセが要らなくなったら、彼はどうするだろう。
「⦅そりゃ、売るよね。奴隷は所有物なんだし⦆」
それは困る。この世界の言葉もわからないのに放り出されてはたまらない。
今、手放されるわけにはいかない。元の世界への帰り方がわからないうちは……。
おそらく彼は、チトセが狩りで使える間は手元に置いておくはず。
「⦅さて、と。そろそろ準備しないと⦆」
今日はダリスと一緒に新しい仲間を探しに行く予定になっている。
この家に新しい人が増えるのならば、チトセにとっても一大事。
暑苦しい体育会系マッチョマンとか、無口で神経質なナルシストとか、生理的に無理なタイプを連れてくることのないように、しっかりと目を光らせておかなくては。
💰Tips
【イノベーション】
新しい考え方や技術を取り入れることで、新たな価値を生み出し、社会に変革を起こすこと。スタートアップでは特に、既存の市場やルールを破壊、超越し、業界構造を覆すほどの変化をもたらす『破壊的イノベーション』が求められる。
概念を提唱したのは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏。
今は亡き父の言葉。
チトセは「わかってるよ」と返した自分の声で目を覚ました。
カーテンを開けると、ちょうど朝日が昇ってきたところだった。
太陽の眩しさから逃れようと、右手を顔の前まで上げると、〇やら△やらが複雑に組み合わさった幾何学模様が目に飛び込んでくる。
手の甲に、まるでタトゥーのように刻まれたそれは『奴隷紋』という。
毎朝、この紋様を目にする度に『ここは自分のいた世界ではない』と思い知らされて、目頭がグッと熱くなる。
起業家だった父の薫陶を受け、自身も中学生にして起業。
十数年前ならいざ知らず、中学生女子の起業家など近年ではさして珍しくはない。
そのまま事業を軌道に乗せると、さっさと売却して投資した資金を回収した。
それがこの世界に飛ばされる三ヶ月くらい前のことだ。
『もう一年くらいかけて事業を伸ばしていれば、もっと高値で事業を売却できたハズだ。それくらいのガマンもできないあたり、まだまだ子供だな』
なんて上から目線の言葉を、わざわざチトセのSNSアカウントに送りつけるヒマ人が寄ってくるくらいには有名になった。
印鑑証明を取得できる十五歳の誕生日に起業したから、大体二年くらいかけたことになる。周りの大人は「たった二年でイグジットするなんて凄いね」と言うけれど、チトセの感覚では「貴重な二年を費やした」という気持ちが大きい。
休日に友達と遊ぶ時間もなく、学校と塾と仕事をサイクルするだけの生活。
起業したのは自分の意志だから、そのことを後悔しているわけではないけれど。
これ以上、続けていく気にはなれなかったのだ。
余計な荷物を下ろして身軽になったチトセは、やっと『普通の女子高生』の生活を送れるようになった。――このファンタジーな異世界に送り込まれるまでは。
「⦅こんなところに来るために、イグジットしたんじゃないんだけどなあ⦆」
※⦅⦆内は日本語です
イグジットしようがしまいが、この世界に飛ばされるという結末に変化があるわけではないのだけど。
「⦅三ヶ月前まで社長やってたボクが今は奴隷とか。皮肉が利きすぎだよ⦆」
奴隷紋は、この世界独自の技術である魔法契約によって、奴隷としての従属を課せられた者に刻まれる印、だそうだ。主人に対して意図的に危害を加えることができず、主人は奴隷の居場所が感覚的にわかる仕組みになっているらしい。
…………さっぱり意味がわからない。
ただ、この世界において、元の世界でいうところの『科学』が発達しない理由はよくわかった。
この世界は、魔法とかいう技術が便利すぎる。
奴隷の権利は全て主人に付随している。
そのため奴隷は、住むことも、働くことも、自身の自由にはできない。
一方で、主人以外の人間が奴隷に命令したり、危害を加えることも許されていない。正真正銘、奴隷とは個人の所有物なのだ。
「⦅ダリスも元は日本人とか言ってるけど、どこまで信用できることやら⦆」
言葉もわからないまま、気づけば奴隷として売られていたチトセを買い取って、檻から出してくれた少年。本人曰く、この世界の貴族令息に異世界転生した日本人のオジサンらしい。
実際に日本語も喋っているから、ウソをついているわけではないようだけど。
残念なことに打算的な下心が透けて見えている。
きっと彼は隠しごととか下手なタイプだ。浮気したらすぐわかりそう。
だからこそ、確信できてしまう。
「⦅ボクのステータスが全部Fだったら……、彼はきっと、助けてくれなかった⦆」
見て見ぬふりをしていたんじゃないだろうか。
会話の内容はわからなかったけど、最後にダリスが奴隷商にお金を支払っているところが見えた。多分、金貨を4、5枚くらい渡していた。
今回の狩りはたまたま良い結果で、その稼ぎが金貨5枚と銀貨3枚。
ダリスは相好を崩して大喜びしていた。
金貨5枚とは、それだけの価値があるお金だということ。
彼はチトセを買うために同じくらいのお金を支払い、さらに武器と防具まで買い与えた。
それはなぜか。
もちろんチトセに、いやチトセのステータスに利用価値があるからだ。
「⦅じゃあもし、ボクに利用価値がなくなったら……⦆」
チトセは昨日、狩りの最中に大きすぎる欠点を晒してしまった。
ほかに使い勝手の良い奴隷が見つかって、チトセが要らなくなったら、彼はどうするだろう。
「⦅そりゃ、売るよね。奴隷は所有物なんだし⦆」
それは困る。この世界の言葉もわからないのに放り出されてはたまらない。
今、手放されるわけにはいかない。元の世界への帰り方がわからないうちは……。
おそらく彼は、チトセが狩りで使える間は手元に置いておくはず。
「⦅さて、と。そろそろ準備しないと⦆」
今日はダリスと一緒に新しい仲間を探しに行く予定になっている。
この家に新しい人が増えるのならば、チトセにとっても一大事。
暑苦しい体育会系マッチョマンとか、無口で神経質なナルシストとか、生理的に無理なタイプを連れてくることのないように、しっかりと目を光らせておかなくては。
💰Tips
【イノベーション】
新しい考え方や技術を取り入れることで、新たな価値を生み出し、社会に変革を起こすこと。スタートアップでは特に、既存の市場やルールを破壊、超越し、業界構造を覆すほどの変化をもたらす『破壊的イノベーション』が求められる。
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