💰転生社畜と転移JKのダンジョンビジネス合同会社💰 〜奴隷を買いに来たら女子高生が売られていた件について〜

石矢天

文字の大きさ
25 / 48
WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける

💰あなたにラブコール

しおりを挟む

「これも買い替えないとダメだな」

 屋敷にいくつもある客間の一つを改良した、ダリスの執務室。
 デスクの上には、ボロボロになったハードレザーアーマーが横たわっている。

 針のような形状の固形物が刺さっていたり、モンスターの体液らしきものが染みて革が溶けている部分もある。破損に汚損、モンスターとの戦闘には付きものだ。
 つい最近、ショートソードも買い替えたばかりだし、ラウンドシールドに至ってはすでに三代目。

「あの、あの。ごめんなさい」

 肩を落としたジュハが体を小さくして申し訳なさそうに謝るのを、ダリスは右手を出して止めた。

「いや、謝る必要はない。ジュハはパーティーの盾役という重要な役目を担ってるんだから、装備品が消耗するのは当たり前のことだ。これからもパーティーを頼む」

 ダリスの言葉にジュハは目をキラキラと輝かせ、元気よく「はい!」と返事を返してくれた。体と一緒に丸まっていた耳もピンと立ち上がっている。

 よしよし。これで次のモンスター狩りも大丈夫だろう。
 防具が傷つくのを嫌がって、敵の攻撃を避けられないような状態になられては困るからな。

 パーティーメンバーの様子には常に気を配り、時には彼らの気持ちを持ち上げてやらなくてはならない。フィジカルも、メンタルも、彼らのコンディション次第でダンジョンでの狩りの成果は大きく違ってくる。

 …………って、なんだこれ。

 奴隷を買って、奴隷を働かせていれば、楽にお金が手に入るんじゃないのか。
 今度こそ、寝てても稼げるような搾取する側になってやろうと思っていたのに。
 社畜だった頃より考えることは多いし、ストレスで胃はキリキリするし。

「はあ……。思ってたのと全然違う」

 お金の管理、奴隷たちのケア、生活の世話、かさむ装備品の補修費、えとせとら、えとせとら。兎にも角にも、やることも考えることも多すぎる。

 理想と現実の間に、山より高く海より深い壁がそびえていた。

「眉間にシワができるよ」
「おわっ……と。チトセ、いつの間に?」

 いつ部屋に入ってきていたのだろうか。
 席に座ってため息をつくダリスの顔を、チトセが横から覗き込んでいた。

 もしかして、さっきの独り言も?

「ジュハと入れ替わりで。……ねえ、思ってたのと違うってなに?」

 めっちゃ聞かれてた。
 恥ずかしいから、聞かなかったふりをしてくれればいいのに。

「…………なんでもない」

 そう答えることしか、ダリスにはできなかった。
 チトセもジュハもヨミも頑張ってくれているのはわかっている。
 もっと稼ぎたい、なんて彼女に言うことじゃない。


 ダリスが家を出てから三ヶ月が経った。
 モンスター狩りはとても順調で、パーティーは街でもそれなりに有名になった。

 黒い衝撃 チトセ=コウガサキ
 神速 ジュハ=シュタイン
 魔女の射手 ヨミ=ノツーガ

 そして、奴隷遣い ダリス=クラノデア。

 戦闘には一切参加していないのに、いつの間にか二つ名がついていた。
 気がついたら街中で「おっ、奴隷遣いじゃねえか」なんて呼ばれるようになった。

 それにしても……こういう二つ名って、誰が付けているんだろうか。


 この『奴隷遣い』という二つ名を気に入っているわけではない。
 けれど、自身の名が上がるということは、クラノデア家の伝統に基づいた『独り立ち』を成し遂げるのに重要な要素だ。

 この『独り立ち』というやつだが、ただ一人で漫然と生きていくだけでは認められない。一人前の人間として、クラノデア家を代表する者として、他人からも良い評価を貰えるような人物にならなくてはならないからだ。

 考えてみれば、前世を過ごした世界だって同じだった。
 一人で生きていたって、バイト生活をしているようじゃ世間様からは落ちこぼれ扱いされる。
 なんとか正社員になれたとしても、みんなが知っているような大企業じゃないと認められたりはしない。

 ほかには医者だとか、官僚だとか、ジャンプ作家とか、直木賞作家とか。とにかく誰でもわかるようなラベルが求められていた。

 二つ名は冒険者に貼られるラベル。
 映像メディアも音声メディアもないこの世界では、人から人へと伝わる噂こそが最大のメディアである。その多くは吟遊詩人たちの歌声と音楽に乗せて伝えられる。

 ダリスたちの成果は二つ名と共に広がっていく。
 同時に、ダリスの名前も、クラノデアの家名も、人から人へと伝わっていく。

 お陰で最近はちょっと変わったヤツにも絡まれるようになった。

 ドタドタを大きな足音がする。
 今日も変わったヤツがやってきた。

 バンッと執務室の扉が開き、体格の良い濃い顔イケメンが威勢よく入ってきた。
 向日葵色の髪と、笑顔の口元から覗く真っ白な歯が眩しい。

「やあ! 奴隷遣いのダリスさん。今日こそは良いお返事を頂きに来ましたよ」
「またアンタか。人の家に突然入ってくるなよ」

 眉間のシワを伸ばしながら、ダリスがいつものように邪険にあしらう。
 だが、イケメンは気にする様子もなく、どんどんダリスに近づいてくる。

「ハッハッハッハ! サプライズ、というやつですよ」

 サプライズ。イヤな響きだ。
 約束もせずノンアポで人の家に上がり込んでくることを『サプライズ』とか言い出したら何でも有りだろ。一時期流行ったフラッシュモブより質が悪い。

「⦅この世界でもあるんだな、サプライズ⦆」
「⦅ほんと。最悪の共通点だね⦆」

 横にいたチトセに、あえて日本語で話しかける。
 二人だけが使える暗号のようなものだ。

「ああ、チトセ。早くあなたと一緒にダンジョンへ行きたいものです。さあ、新しい一歩を踏み――」
「うちのメインアタッカーを堂々と引き抜こうとしてんじゃねぇよ」

 唐突にチトセにラブコールをはじめたイケメンの言葉をダリスがさえぎる。
 油断も隙もありゃしねえ。

「ノンノンノン。私はを我がクランに勧誘してるんですよ、奴隷遣いのダリス=クラノデアさん」

 そう。このイケメンはクランのリーダーなのだ。
 それもこの街で最大規模のクラン『ホークスブリゲイド』のリーダー。
 名をショウ=ハショルテという。



〇現時点の収支報告(2ヵ月分)
  資金:金貨19枚と銀貨2枚(192万円)
  収入:金貨40枚と銀貨3枚(403万円) ※魔光石売却益
  支出:▲金貨3枚(30万円) ※2ヵ月の生活費(奴隷3名含む)
     ▲金貨4枚(40万円) ※2ヵ月の消耗品費・雑費
     ▲金貨3枚(30万円) ※2ヵ月の装備補修・買い替え費
     ▲金貨20枚(200万円)※奴隷購入費の分割払い 2ヵ月分
 残資金:金貨29枚と銀貨5枚(295万円)

 買掛金:▲金貨90枚(▲900万円) ※奴隷購入費の支払い残額(負債)



💰Tips

【二つ名】
 ダリスは知らなかったが、実は冒険者に二つ名をつけているのは吟遊詩人と呼ばれる旅の楽士である。ダンジョンで誰それが活躍した、という話を歌にすると街での評判が良く、おひねりをたくさん貰える。そのため、彼らは酒場で情報を収集しては冒険者の活躍を歌にして日銭を稼ぐ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...