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WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける
💰スモールビジネス
しおりを挟む「ダリスはさ。どうして今、思ったようにお金を稼げていないのか、ちゃんと考えたことある?」
鼻先に向けられていた串が、今度は額の方へと向けられる。
一体どういうつもりなのだろう。仮にもダリスは、前世で十年以上も社会人経験を積んできた大人だ。女子高生が何をどうやって助けようというのか。
正直、ちょっと腹が立ってきた。いくらなんでもナメ過ぎだ。
口にはするまいと思っていたけど、この際だから全部言ってやろう。
「どうしてって……。チトセ達が一カ月に稼げる魔光石には限界があって、でも奴隷を増やすようなお金はないし、消耗品にも装備品にもお金はかかるし、それに――」
「はい、ストップ、ストーーップ。それはただの愚痴」
まだまだ言いたいことがあったのに、串を振って止められた。
ちょっ、危ない。串をこっちに向けて振り回さないでくれ。
持ち手側だから刺さってもオーケーとかないからな。
「いや、チトセが言えって――」
「ボクは『考え』を聞いてるの。そうだなあ……、じゃあ、どうして一カ月の稼ぎには限界があるの?」
「そりゃ、チトセたちの体力だってあるし、ダンジョンに行けるのは月に十回ちょっとだろ。他の冒険者がいるからコスパがいいモンスターは獲り合いだし――」
「はい、ストップ、ストーーップ。また愚痴になってるよ。じゃあ、それを一言で言うと?」
「一言でって……、え?」
チトセは何が言いたいのだろう。いや、言わせたいのだろう。
先ほどからダリスは、自分なりに『どうして稼げないのか』を説明しようとしている。なのに、それはただの愚痴だと彼女は言う。
わけがわからず口ごもっていると、チトセの目が可哀相な人を見るときの眼差しになっていった。
「うーん。ダリスってば、よくそれで……。まあ、いいや。つまりさ、『ダンジョンでモンスターを倒していても稼ぎに限界がある』ってことでしょ」
「ああ。それはまあ、うん」
呆れ顔を通り越して、すっかり諦め顔の女子高生。
ここまでは、何を当たり前のことを言っているのだろうかと思っていたのだけど。
そこから先は、彼女の話についていくのが精いっぱいになっていった。
「もう少し掘り下げるよ。さっきダリスも言ってたけど、ダンジョンに出てくるモンスターの数は一定で、冒険者たちは獲物を獲り合って生活している。これは俗にいう競合過多市場ってことなんだけど、聞いたことはある?」
「えっと……血の海?」
急に任侠映画に出てきそうなフレーズが飛び出してきた。
獲物を獲り合う、とはいっても冒険者同士のマナーで、先に攻撃を仕掛けたパーティーが優先されるから、流血沙汰になるようなことはない。
「激しい争いがあるという意味では間違ってないね。レッドオーシャンっていうのは市場規模が大きくて、ニーズもある魅力的で栄養豊富な海。だけどライバルが多いから、基本的に規模が大きいプレイヤーが勝つようにできているんだ。ショウのクラン『ホークスブリゲイド』みたいな、ね」
うーん。だんだん難しくなってきた。
ダンジョンでモンスターを倒して、魔光石を手に入れれば儲かる。
という事実は多分、子供でも知っていて。儲かることがわかっているからライバルの冒険者が多くなる。
そうなれば次は、冒険者同士で協力した方が効率が良くなるってことで、クランが結成されるようになったわけだから……。チトセの話は間違っていない気がする。
「クランは戦力面、戦略面での効率化はもちろんだけど、ダンジョンの貴重な情報をすぐに共有できるのが一番のメリットだって聞いたことがある」
「そんな中にダリスは『真・鑑定』という自分だけの特別な武器を持ち込んで、優秀な奴隷を安価に手に入れることで、他の冒険者とは違う優位性を持って市場に参入した。これはとてもいい考えだったと思う」
褒められた。いい考えだって。ヤバい。すごく嬉しい。
さっきまで『女子高生なんかに何がわかるんだ』とか思っていたのに。
「十五年も考えたからな。…………でも、だったら、なんでイマイチ稼げないんだ?」
これが一番の疑問だ。
さっきチトセはダリスの計画を『いい考え』と言ってくれた。
それなら、もっと稼げなくちゃおかしい。
いいビジネスはバンバン儲かるものじゃないのか。
「それはね、ダリスがやっているのが『スモールビジネス』だから」
「スモールビジネス?」
ちっちゃな商売ってことだろうか。
そりゃあ、ダリスを入れてもメンバーは四人しかいないわけだから、会社の規模で考えたらすごく小さい。
でも、それじゃあ結局のところ、奴隷をもっと買うしかなくて、そのためにはお金が必要で……ああ、また最初の問題に戻ってしまった。
「定義は人によって様々だから、あくまでボクなりの定義だけど。『すでに存在しているニーズに対してライバルよりも効率よく解決する』のがスモールビジネス。別にスモールビジネスだからダメってことはなくて、これはそこそこのリターンを着実に得て、じわじわ成長していく手堅いビジネスだ。実際、ダリスは毎月ちゃんと黒字を出してるし、ヨミ達を買ったときの分割払いが終われば、さらに奴隷を増やして売り上げを伸ばしていくことだってできると思う」
うわあ。もうそろそろ、ついていけなくなりそう。
すでに存在しているニーズ、っていうのがダンジョンでモンスターを倒すことでしょ。で、ライバルよりも効率よく解決する、っていうのが『真・鑑定』のスキルってことだよな。
ダリスがやっていることは、そのままチトセの言う『スモールビジネス』に当てはまる。
「それはそうだけど……。ビジネスの成功者って、もっと短期間にドカンと儲けを出すものじゃないのか?」
「ああ、それは『スタートアップ』だね」
これは流石に聞いたことがある。
でも……『スタートアップ』って起業のことじゃないの?
💰Tips
【スモールビジネス】
ニーズが顕在化している市場をターゲットにするため、リサーチとマーケティングを怠らなければ、比較的小さな投資でも、短期間でそこそこのリターンを得ることができる。ほとんどの場合、起業とはスタートアップではなく、スモールビジネスである。
(参考文献:『起業の科学(著・田所雅之)』)
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