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WORKS3 転生社畜、女子高生と見つける
💰実験をはじめよう
しおりを挟む「もう少し丈夫なヤツが欲しいよなあ」
執務室のデスクにはヒビが入ったラウンドシールドが置かれている。
ヒビの原因はシールドを貫通しているモンスターの角。
黄金の毛並みを持つ角の生えた兎、バクラージのものだ。
ジュハがうまく防いでくれたから良かったものの、ミサイルのように角を飛ばしてきたときは、さすがに冷や汗が出た。
ラウンドシールドの素材はベースが木材となっていて、外周のフレームや取っ手にのみ質の悪い金属が使われている。
手に入りやすい素材で大量生産されているから安く買えるのは良いのだけど、モンスターが強力になればなるほどすぐに壊れてしまう。
「しっかし硬いなあ、これ。角って骨なんだっけ? どんだけカルシウム取ったらこんな硬くなるんだよ」
力を入れて角を抜こうとするも、ダリスの腕力ではピクリともしない。
五分ほど一人で格闘していたら横からヒョイと取り上げられた。
「貸して……えいっ」
ダリスの苦戦はなんだったのか。角はあっという間に抜けた。
穴の空いたラウンドシールドと、バクラージの円錐形の角を、左右それぞれの手に持ったチトセがデスクの前に立っていた。
「こんな角を飛ばされたら、盾がいくつあっても足りないね」
「そうなんだよ……。かといって金属製の盾は価格も高いし、何より木製の何倍も重いからなあ」
「ジュハが攻撃を避けられなくなったら、意味ないもんね」
回避型のタンクであるジュハの強みは何をおいても敏捷性だ。
可能な限り装備は軽くし、動きやすさを重視しておきたい。
とはいえ、ひと月に何度も、使い捨てのように盾を買い替えるのは懐に響く。
ダリスはデスクに置かれたバクラージの角を指で転がし、肺の空気を吐き出す。
そのとき、ふと気がついた。
「ん? なんで、角があるんだ?」
「盾に突き刺さったから」
「そうなんだけど。そうじゃなくて。なんで盾に突き刺さったままなんだ?」
「なんでって?」
チトセは気づいていないのか。
もしかしたら、今まで誰も気づいていないのかもしれない。
もしくは、気づいていたとしても気に留めていないのか。
思い返してみれば、レイクサイドバルチャーを倒したときも同じ現象が起きていた。ダリスではショートソードを使っても殺せなくて、羽毛を散らしただけだった。
その後、ジュハがトドメを刺した時、レイクサイドバルチャーは散らした羽毛と魔光石を残してチリになったんだ。
そうだ。あのときも羽毛はその場に残っていた。
「もしかして……。倒す前に本体から離れた部位は、本体が死んでもチリにはならないのか?」
だとすれば。
頭の中で何かが弾ける感覚。
心臓がバクバクを音を立てて、脳に血液を送り込んでくる。
『強烈なイノベーションを起こせる鮮烈なアイデア』
『社会を変えるような目的意識』
『まだ顕在化していないニーズ』
これがそうなのか、はわからない。
ブルーオーシャンではなく、ノーオーシャンなのかもしれない。
だけど、一つだけ確かなことがある。
――やってみたい。
「明日のダンジョンでちょっと試してみたいことがある」
「わかった。……ダリス、いまちょっといい顔してる」
いつものように静かな湖畔のダンジョンに訪れたダリス達は、あまり奥へは進まずなるべく人が少ないエリアを探して歩く。
今回は魔晶石が主目的ではないから、強い敵を倒す必要がない。
というのも理由の一つだが、最も重要なことは他の冒険者に見られないようにすることだ。
どんなダンジョンにだってある不人気な狩場。
この『蛇トカゲの沼地』と呼ばれるエリアも、まさに不人気な狩場の一つである。
●不人気な理由その1
暗くてジメジメしていて、せっかく湖畔のダンジョンに来たのに意味が無い
●不人気な理由その2
足元がぬかるんでいて歩きにくいし、靴やズボンが泥で汚れる
●不人気な理由その3
頻出モンスターであるナーガリザードが硬すぎてウザい
●不人気な理由その4
ナーガリザードが落とす魔光石が小さい
ロケーションの悪さと、モンスターのコスパの悪さ。
相乗効果でほとんど誰も近寄らない、閑散とした場所である。
いつものように、ジュハが飛び出して敵の注意を引きつける。
黒い爪を振り上げて群がってくるナーガリザードを、脇から一匹ずつチトセが真っ二つにしていく。燃え上がる大剣によって、硬質な鱗を持つナーガリザードが気持ち良いくらい綺麗に斬られてた。
次々とチリになって消えていき、小さな魔石が湿った地面に転がる。
そして最後の一匹になったとき。
「ヨミ、頼んだ」
「ほらよ」
矢をつがえて構えていたヨミの手元から、麻痺の魔法を籠めた矢が放たれた。
さほど俊敏でもないナーガリザードの、鱗が生えていない部分にしっかりと命中した。モンスターが、ズンと音を立てて地面に横たわる。
「よし、それじゃ。実験をはじめよう」
💰Tips
【角】
シカやキリンなど、哺乳類の角は骨が変化した器官であるものが多い。サイのように角質や毛が束になった角を持つものもいるが稀である。
カブトムシなどの昆虫の角はこれらとは全く別の構造となっていて、表皮(外骨格)の一部であるため分節構造にはなっていない。
モンスターについても、基本構造は動物と大きくは変わらない。ラウンドシールドを貫通していた角はおそらく骨が変化した器官であると考えられる。
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