💰転生社畜と転移JKのダンジョンビジネス合同会社💰 〜奴隷を買いに来たら女子高生が売られていた件について〜

石矢天

文字の大きさ
44 / 48
WORKS4 転生社畜、女子高生とはじめる

💰それぞれの休日

しおりを挟む

 チトセが広場でホークスブリゲイドのメンバーに怖がられていた頃。
 ダリスは一人、自分が生まれ育った邸宅を見上げていた。

「まだ一年も経っていないのに、ずいぶんと久しぶりな気がするな」

 一人前になるまでは戻らない、そう決心して家を出たのに。

 いまだ中途半端なままで、この門を再びくぐらなくてはならない。
 そう思うと、なかなか次の一歩が踏み出せずにいた。

 そんなダリスの気持ちを見透かしたかのように、門の向こう側からこちらに駆け寄ってくる小さな影がひとつ。

「ダリスお兄様!!」 

 可愛い妹、アオハの声だ。
 つい最近、遊びに来てくれたばかりだから、これといって懐かしい感じはしないけど、いつ会ったってアオハは可愛い。

「おかえりなさい、お兄様っ!」

 ダリスが踏み込めずにいた門を軽々と越えてくると、子犬のようなはしゃぎっぷりで、ダリスの胸元へと飛び込んできた。

 アオハをそっと抱きしめ、菖蒲色の長い髪を優しくなでる。
 気持ちよさそうにウットリした顔をするアオハを見て、やっぱりここは自分がいつか帰るべき場所なのだと感じた。

「アオハ、ただい……。いや、今日はこの家に帰ってきたわけじゃないんだ」
「そうなんですの?」

 アオハを静かに地面に下ろすと、乱れた襟を正して深く深呼吸をする。

「ちょっと用事があってね」

 そしてついに。
 ダリスは門の内側へと、足を踏み入れた。

 幼い頃から慣れ親しんだ庭を横目に開放的な長い廊下を歩き、屋敷の奥にある客間へと通される。

 十五年も住んでいたはずなのに、知らない場所に迷い込んでしまったような違和感を覚えた。もしかすると、飾られている絵画や装飾品など細かいところが以前とは違うのかもしれない。
 しっかりと一人前になってこの家の門をくぐったなら、もっと違う印象を抱くのかもしれないけど。

 応接室で待たされること五分。
 静かに扉が開き、懐かしい顔が部屋へと入ってきた。

「よく来たな、ダリス」
「お久しぶりでございます」

 恭しく頭を下げ、おおよそ九カ月ぶりに会った父と挨拶を交わす。

「一人前になったからこの家に戻ってきた、というわけではないのだろう?」
「はい。まだまだ未熟者ですので、もう少々お時間を頂ければと」
「そうか。……二つ名は『奴隷遣い』だったか」
「…………ッ!?」

 その言葉は、まさに青天の霹靂だった。
 まさか貴族である父の耳にまで、ダリスの二つ名が届いていたとは思いもよらず。
 何と答えたらいいのか、どうにも喉から声がでない。

「奴隷を使役して、モンスターを狩る異色の冒険者。武芸を重んじるクラノデア家の当主としては思うところがないわけではないが……。武の才に恵まれなかったダリスが、冒険者として有名になっていることには素直に驚いているよ」
「あ、ありがとう……ござい、ます」

 言葉が喉につっかえて、思ったように言葉がでない。
 気づけば、熱を持った雫が頬を伝って落ちていった。

「あれ……? なんだ、これ。おかしいですね」

 ハンカチを取り出して目元を拭う。
 こうして親に認められることが、これほど感極まるものだとは思わなかった。
 
 思えば前世では、認められるどころか心配をかけてばかりだった。
 結局、ブラック企業に過重労働で殺されているのだから親不孝も甚だしい。

 今度こそ、自慢の息子だと思って貰えるような人生を歩みたい。

 そのためにも、ホークスブリゲイドとの勝負は絶対に勝たなくてはならないのだ。
 今日だって、そのためにここを訪れたのだから。

「本日は父上にお願いがあって参りました」


💰 🪙 💰 🪙 💰 🪙 💰 🪙 💰


 ダリスが父の言葉に涙をこぼしていた頃。
 ジュハは平原の街ザンドを囲む壁の外にいた。

 もちろんダンジョンへと向かっているわけではない。
 戦闘力Eの回避型タンク一人では、ダンジョンの入り口にいる黒リスすら仕留められないのだから。

 向かっているのはクレイヤンド王国とキディール帝国の国境を越えたあたり。
 今いる林を抜ければ、目的地はもうすぐだ。

 ジュハは帝国にある小さな村の出身だ。
 その村には亜人と呼ばれる種族だけが住んでいる。

 国境近く、という場所は大前提としてとても治安が悪い。
 隣国からの度重なる侵攻(もちろん王国から侵攻することもある)によって、生命も財産も常に危険に晒されている。
 そんな場所では野盗や奴隷狩りといった犯罪集団による被害も多い。

「こうやって外を歩くのも久しぶりだなあ」

 ジュハが奴隷になったのは、例に漏れず奴隷狩りにあったためだ。
 そのまま囚われて、牢に入れられて、ダリスに買われて冒険者になって。
 右手に浮かんだ奴隷紋に縛られ、自由に行動することは叶わなかった。

 そして今、ジュハの右手にはあの忌々しい奴隷紋は影も形もない。
 思わずニヤニヤしてしまう。

 チトセが『奴隷契約を解消して』と言い出したことにも驚いたけれど、それを承諾してしまうダリスにはもっと驚いた。

 ジュハとヨミにいたっては、まだ代金を払い終えていないとも聞いた。
 つまりダリスには借金だけが残ったわけだ。


 ジュハの長い耳がピクリと動いた。
 その耳は、普通の人間よりもちょっとだけ遠くの音が聞こえる。

 
 ダリスから貰った赤黒いグロテスクなうろこの盾と、ショートソードを構えて敵襲に備える。

「おいおい。このウサギ野郎、生意気にも剣と盾なんて持ってやがるぞ」
「どうせ見掛け倒しだろ」
「おい、ウサギ野郎。抵抗しない方が身のためだぞ」

 ろくに手入れもされていない剣、ボロボロになった革の胸当て。
 日頃、ジュハが相手にしているモンスターに比べれば恐ろしくもなんともない。

 以前、自分を攫っていった奴隷狩りの男たちも、思い返せば彼らとそう変わらない格好をしていたような気がする。

 あの頃は、剣を向けられただけで恐怖のあまり足がすくんでしまったが、今のジュハは三人の無法者たちを観察する余裕があった。

 連携の取れていない動きで襲い掛かってきた男たちの剣を、ジュハは盾でいなし、剣で牽制する。
 三人を追い払うのに、さして時間も体力も使わなかった。

「僕はあんな奴らに自由を奪われたのか……」

 過去の自分を振り返り、ジュハの口から乾いた笑いが零れ落ちる。
 しかし、考えてみれば奴隷に身をやつしたからこそ、今の成長があるともいえる。
 禍福はあざなえる縄の如し。

 林を抜けた先に、ジュハは懐かしい景色を見た。
 そこには、彼の生まれ育った故郷があった。


💰 🪙 💰 🪙 💰 🪙 💰 🪙 💰


 ジュハが奴隷狩りを撃退していた頃。
 ヨミは一人で屋敷にいた。

「……………………ヒマすぎる」

 何もやることがない休日の留守番。
 時間を持て余したヨミは、奴隷紋が消えた真っ白な手をカップに伸ばす。
 来客用のちょっと高価な紅茶はいつもより少しいい匂いがした。



💰Tips

【亜人の村】
 亜人は被差別人種である。奴隷などを除き、その多くは都市に住む権利を持たないため亜人たちだけの集落を形成する。
 その集落でさえも、人間たちの村に押されて都市近郊には作ることができない。
 結果的に、危険地帯である国境周辺に亜人たちの集落ができることになる。
 王国の兵士も、敵国が攻めてくれば出兵するが、亜人が被害に遭っている程度では助けに出てくることもない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...