神の暇潰し~装飾品の中の霊獣達~

羽人

文字の大きさ
6 / 7
一章

6話

しおりを挟む
『主人、契約者が近づいてきます』

ロゼが指輪から現れ、周りを警戒し始める。
朝霧が戻ってきたのか、そう思ったがロゼの険しい表情を見る限りそうじゃないらしい。

「君、契約者だよね?」

通りの路地から急に黒いコートを着て黒いハットを被るよく表情が見えない男が現れる。
俺とロゼは一気に臨戦態勢に入り男から距離を取る。

「その反応と装飾品の反応は間違いじゃないみたいだね。フロッグの言ったことは間違いじゃなかったわけだ」   
『うわ酷いな!信じてなかったのかよ』

男の首元が一瞬光ると、男の隣に毒々しい色、オレンジや緑、赤や青といった模様の蛙が現れる。
体長は約一メートル強。普通の蛙でさえ気持ち悪いのに余計に気持ち悪さが倍増している。

「さて、ここで戦う気はないんだ。場所を移すから着いてきてもらえるかな?」
「わかった……」

どうやら逃げることは出来ないらしい。
俺は前を歩き出す男に黙ってついていく。

男に着いて歩き出して数十分、周りに人の影はない。そして俺達を囲むように建設途中のビルがそびえ立つこの場所はビルの側に大きな広場があり戦うにはちょうどいい場所なのだろう。

「先ずは自己紹介。俺は黒沼孝太、歳は35歳で趣味は人間観察」
「九重正人、普通の高校一年生だ」
「九重君ね。九重君はもう願いは決めているのかな?」
「……まだだ」
「そっか……ならここで僕の生け贄になってもらうよ」

男、黒沼孝太がそう言うとビルの骨組みの影から目に見えない速度で何かが近づいてくる。
 それをロゼが剣で弾き飛ばすと、弾き飛ばした先には毒々しい蛙。黒沼の契約獣がいた。

『今のを弾かれるのかよ……。俺っち攻撃手段あんまないんだぜ?」

毒々しい蛙が余裕のありそうな声で愚痴を吐いている。

「さっきも思ったけど君ズルいよね。俺は蛙で君は可愛い女の子。凄く羨ましい。そしてそれ以上に妬ましいよ」
『蛙で悪かったな!でもあの女より使えるってとこ見せればその考えも変わるだろ?』

蛙はそう言うと、体の色が徐々に変わり始め完全に周りの色と同化する。
蛙の中には外敵から身を隠すため色を変え、他の物のに擬態する種類の蛙もいるらしい。

『これはやっかいですね……』

さすがに完全に周りと同化し姿の見えない相手ではロゼも厳しいのか険しい表情で周りを警戒している。

『そんなよそ見してると、横っ腹ががら空きだぜ!』

その声と共に俺の脇腹へトラックに引かれたかのような衝撃に襲われる。
その衝撃は俺を軽々と吹き飛ばし、ビルの骨組みへと激突させた。

「ゲッホゲホ……俺が狙いかよ……」

衝撃と共に聞いた自らの体の中で何かが折れる音。あばらの二、三本は完全に折れているだろう。
たった一撃でこの結果と思うべきか、これだけでよかったと思うべきかはわからない。
そして唯一の武器である、ロゼから渡された木刀が先程の攻撃でどこかに飛ばされてしまった。
もはや言えることは一つ、初めての戦いからハードモードだということ。

『主人! 大丈夫ですか!?』

慌てたように俺の側に駆けてくるロゼ。顔は青ざめ、自分を責めるような表情をしている。

『私がもっとちゃんとしていれば……』
「大丈夫……ゲホゲホ……ロゼは自分のやるべき事をやってくれ」

ロゼの肩を借り立ち上がる。脇腹に鋭い痛みが走るが歯を食い縛り我慢する。
目の前には契約者と契約獣。目の前にいる敵を倒さなければ怪我を治すこともままならない。

「いいかロゼ、お前はあの蛙をどうにか倒してくれ。俺は死なない程度にあの男を抑える」
『しかし主人のその怪我では……!』
「勝たないとどっちみち死ぬんだ。ならやることは一つだ」
『……わかりました』

ロゼの背中を押し、脇腹の痛みを無視して男に駆け出す。
こちらはあばらが折れている。それに比べて目の前の男は無傷。

「ちょっと厳しいなこれ……」



ーーー
主人に背中を押され、私は契約獣に向け駆け出す。
あの契約獣は厄介だ。姿が見えなくなるのに加え主人を体当たりであれだけ吹き飛ばすということは、それ相応の力があるということ。

『準備は整ったか?』
『準備など主人が攻撃されたときから出来ています!』

私の右手には造り出された当初から使っている剣、ロゼリアがある。自分の半身のように扱えるこの剣で必ず目の前にいる主人の仇を討って見せる。

右手にもつロゼリアを上段から振り下ろす。しかし敵は跳び跳ね時には舌を使い私から距離を取る。どんなに愛剣ロゼリアを振るおうが敵には当たらない。

『ほらほら、そんな剣じゃ俺っちには当たらないぜ!』
『……黙れ』
『俺っち戦闘は得意じゃないんだぜ?そんな相手に当てられないってその剣はオモチャなのか?』
『黙れ黙れ黙れ!』

必ず殺す、そんな気持ちが胸に渦巻く。
目の前にいる敵は主人に怪我を負わせた。そんな相手を倒せず何が主人の契約霊か。縦横無尽に駆け回り徐々に敵を逃げ場のない場所に追い詰める。

『ここで死ね!』

周りは壁、上にも逃げ場はない。
そして私の目の前には敵がいる。右手にもつ剣を両手で握り最速の一撃を放つ。

『ダメダメだな。そんなんじゃ俺っちには当たらない』

目の前の敵は一瞬で姿を消す。勿論剣に相手を切った手応えはない。

『お前を相手するより、お前の契約者を倒した方が楽そうだ』

嫌な予感がして主人が戦っているであろう方向に振り返る。
嫌な予感は当たった。主人は満身創痍の状態で男と対峙していた。


ーーー
「ゲホゲホ……糞っ!」

どんなに拳を振るおうが、どんなに蹴りを放とうが目の前の黒沼にはかすりもしない。

「脇腹を痛めているんだろ。無駄な抵抗はやめて、俺の願いのために生け贄になったらどうだ?」
「俺はま……ゲホゲホッ……死にたくないんだよ!」

口からは血が溢れ、脇腹の痛みはどんどん強くなっていく。そんな中がむしゃらに振り回した拳が黒沼の頬を捉える。

「そんな攻撃が効くわけないだろ」

がむしゃらに振り回しようやく当たった拳は黒沼にダメージすら与えていない。

「俺はな娘を生き返らせたいんだ。だからここで……死ね!」

黒沼がポケットからナイフを取り出す。標的は俺。もう避ける力すら残っていない。黒沼はナイフを俺に向け突きを放つ。
もう駄目だ、目を閉じ少しでも死に対する恐怖を薄れさせようと努力する。
しかしいつまで経っても刺される感覚がない。

『主人を殺させはしません!』

そんな声が聞こえてきた。目を開くと俺の目の前にはナイフを弾いた体勢で剣を握るロゼの姿があった。

「邪魔だなぁ、邪魔だな、邪魔だよお前!俺の邪魔をするな!」

黒沼は怒りで顔を真っ赤にし地団駄している。少し遅れ契約獣である蛙が目の前の黒沼の横に現れる。

『主人を殺させる訳にはいきません。貴方達の相手は私がします!』
『俺っちに手も足も出ないお前が二人相手に何ができるんだ?』
「フロッグは戦闘が得意じゃないのに、それすら相手に出来ないって、お前の契約霊、雑魚じゃないか!」

ロゼが雑魚というより、相性が悪い。
相手の契約獣は周りの景色と同化するうえに見えない攻撃を放ってくる。

『私は雑魚かもしれません。でも私は必ず貴方達を倒します!』

そう言うと自分の腕に剣を突き刺すロゼ。

「ロゼ!?」
『どんな手を使ってでも倒すので安心してくださいね……。肉を切らせて骨を断つというやつです』

滴り落ちる自らの血を腕を振り、相手の契約獣、フロッグに付着させる。

『自分の物ではないものまでは同化する事はできませんよね?』
『ちっ……。マスター、一刻も早く契約者を倒した方がいいかもしれねぇな』
「わかっている。お前は相手の契約霊を警戒しつつ援護しろ!」

相手は焦るように、俺に向かい駆け出す。
対峙するように契約者に剣を振るうロゼ。しかし舌で絡めとられた剣は黒沼を切るには至らず、振り下ろす寸前で止まっている。

「ふふ……ふはははは!俺の勝ちだ!」

黒沼はそう言いもう一本のナイフを俺に向かい投擲する。

『主人、必ず避けてください!』

ロゼは俺にそう言うと、剣を絡めとっている舌を掴み、フロッグに高速で移動し始める。

俺は飛んでくるナイフが致命傷にならない場所に当たるように体を動かす。
ナイフは肩に刺さり、刺された場所から血が流れ出る。
その痛みを堪えていると、絶叫が聞こえてきた。そちらに顔を向けると、体を切られ臓物が飛び散っているフロッグの姿が目に写る。

『主人!避けてくださいと言ったではないですか!』

ロゼが慌てたように近づいて来ると、肩に刺さったナイフを見て顔を青ざめさせる。

「無理言うなよ……。致命傷にならない場所に当てただけ頑張ったろ……」
『それは称賛しますが、怪我を治した後の特訓はもっと厳しくします』

ようやく慣れてきた特訓が厳しくなることを考えると、痛みを忘れるほど気分が滅入る。

「なに勝ったと思ってんだよ……。まだ負けてない……まだ俺は負けてないんだよ!」

黒沼が新しくナイフを取り出し、こちらに向け駆け出す。

『それはルール違反だ』

俺の前に飛び出そうとしたロゼの体が止まり、またも少年のような声が聞こえる。

『契約者が死ぬか霊獣が死ぬか。どちらか一方が死んだ時点で勝敗は決まる。そして敗者に待つのは死だよ』

神がそう言うと、臓物を飛び散らしていた蛙が徐々に消え始める。それと比例して黒沼の体も足先から徐々に消えている。

『さて、君は初めての契約者殺しだ。一番最初に僕を楽しませてくれたことを評して君の契約する契約霊、ロゼの能力を二つ程解放してあげようか』
「それはいい。代わりに質問に答えてくれ」
『まぁどっちでもいいよ。質問は?』
「まず一つ、命を失わずに勝敗を決めることはできるのか?」

そう言うと、ロゼの体で顎に指を当て考え始める神。

『そうだね。降参した時点で、霊獣も契約者も死んでいなければ命は失わないようにしようか』
「降参ね。二つ目、何故今この瞬間、俺達の前に姿を現した」
『一つ目の理由は霊獣が死んでなお、君を殺そうとしていたから。二つ目は一番最初に契約者を倒した人の前には出ようと思ってたから』
「三つ目、この戦いは何のために始めたんだ」
『自分の欲望を叶えるために人間が殺しあう。それを暇潰しに見る。神の道楽とでも言っとこうかな』
「……クズだな」
『まぁ神とはそんなもんさ。さて質問には答えたから僕は帰るとするよ。能力を二つ解放はしてあげれないけど、これは僕を楽しませてくれたことに対するおまけだ』

神はそう言うと指先から小さな光を俺に飛ばす。その光が体に触れた瞬間、痛みの走っていた脇腹は痛くなくなり、肩に刺さったナイフが地面に独りでに抜けると流れていた血が止まっていた。

『これからも僕を楽しませてくれることに期待しているよ』

神がロゼの体から消えたのか、ロゼは指輪の中に戻った。
神が出てきた事には驚いたが、命を失わないように出来る事がわかっただけでも御の字だ。
だが、わかったからと言って戦いにならないわけじゃない。何があってもいいように、また明日から特訓だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...