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第15話 「ニヴェルガルド」
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フローズンレイクを出立すること数時間。
森の奥深く、人々の記憶から忘れ去られたその場所は静かに、そしてどこか荘厳に佇んでいた。
崩れかけた入り口に、しかし壮麗に刻まれた彫刻の造形は、よくよく見れば高度で洗練されている。
今となっては見る影もなく荒廃しているが、かつては崇敬をあつめた神殿に違いないと思えた。
「エレナ嬢、本当にこの中へ?」
カイルがやや心配そうな口調で私に尋ねた。
確かに、中にはどうにか入れそうだが、いつ崩壊してもおかしくはないほどに荒廃している。
「....はい。精霊たちの呼びかけには何か意味があると思います。それに...誰かが私を呼んでいる、そんな気もするのです」
ニヴェルガルドに近づくにつれ、誰かに呼ばれている、という感覚が次第に強くなっているのだった。
アキュラも力の残滓を感じるという。
「わかりました。...お前たちはこの入り口を固めよ。万一の際は伝令で知らせるのだ。有事の際は退路の確保を最優先せよ」
「了解いたしました!」
カイルの鋭い指示が飛ぶと、部下の騎士たちのうち半数程度が整然と守備陣形を組んだ。
残る半数は、私たちに同行して護衛することになった。
昨日の襲撃もあったせいか、護衛の数は昨日より増やされていた。
(ここってどんなところだったのかしら...)
(精霊の力...そのものというよりは、名残のようなものを強く感じるね)
アキュラとそんな会話をかわしながら、神殿の奥深くへと足を踏み入れていく。
当然ながら明かりが灯されているということもないから、騎士たちの灯す魔法による光だけが頼りだ。
「これほどの神殿なのに...どうして忘れ去られたのでしょうか」
先ほどから気になっていたことをカイルに聞いてみる。
「ここが見つかったのはごく最近のことなのです。我らで調査してみようかという話もあったのですが、発見の前後から魔物の襲撃が増えたので、お恥ずかしながらそこまでは手が回らなかった」
「なるほど...」
(神殿の発見と魔物の襲撃...それってただの偶然なのかしら?)
(鋭いな。この力の痕跡は、相当大掛かりな術が展開されていたんじゃないかな。だから人目にもつかなかった)
(つまり...それが何らかの理由で崩壊した?)
(その可能性は大いにある)
やがて私たち一行は主祭壇と思しき大きな広間に到着した。
あちこち朽ち果ててはいるが、巨大な石像が林立して見るものを圧倒する。
明らかに大きな力が働いていたであろう...そんな気配が色濃く残っている場所だった。
「まさかこんな壮大な神殿だとは...」
そこには騎士たちも言葉を失うほどに荘厳な空間が広がっている。
その奥には一段高くなった祭壇が設けられており、ひときわ壮麗な女神と思しき巨大な石像が佇んでいた。
どこか物憂げにも見えるその表情は、しかしよく見れば慈愛に満ち溢れ、見るものを包み込むような気配があった。
(アキュラ...これって)
(ああ...呼んでいるのは彼女だね)
(やっぱり...)
「カイル様、あの女神の石像...彼女が私を呼んでいるような気がします」
「...わかりました。我らは念のため周囲を固めます。心ゆくまでお調べなされよ」
そう言ってカイルは配下の騎士たちに臨戦体勢を取らせた。
まだ何かが起きたわけではないが、何かが起こっても不思議ではない。そんな緊張感があたりを支配している。
高まる緊張で、胸の鼓動がうるさいほどだった。
しかし、ここまで来た以上引き返すわけにはいかない。
意を決して、女神像の前へと少しずつ足を進めた。
近づくほどに、微かだった呼び声がはっきりと伝わってくるような気がする。
(...の女...る...よ...)
気がつけば、自然と跪いて祈るような姿勢をとっていた。
なぜだかわからないが、そうするのが正しいような気がしたからだ。
(よく来てくれました...精霊の女王たる子よ...)
精霊の女王?
聞き慣れない言葉に疑問符が湧いてくる。
(精霊の女王って...)
(この流れ的にどう考えても君のことでしょ...)
アキュラがそう答えた瞬間だった。
「そう、君だよ君。ってか堅苦しいノリはもうここまで。時間もないしちゃちゃっと伝えるわ。騎士のみなさんも耳かっぽじってよーく聞いとくように」
突然、私の頭の中でだけ響いていたはずの声が、ハキハキした女性の大音声となって響き渡った。
女神像がぼんやりと光り、声はその光から放たれているようだった。
「な、何の声だ!」
騎士たちがざわめくが、声はまったく気にする様子もなく話を続けた。
「私ははるか昔のめっちゃえらい精霊術師、人呼んで精霊女王セレスーまぁもう死んでますけど。で、長いことこの国はこの神殿と精霊の術式でで守られてきたわけ。だがそれが破られたのよね。だから私が生前施した術式が起動して、こうしてあんたらに話しかけているって寸法よ」
何だか話し方がところどころ古めかしいのは、すごく昔の人だからか...などと妙に納得してしまう。
尚も話は止まらない。
「術式が破られたら、私の生まれ変わりの魂に呼びかけてここへ連れてくる。そんな都合のいい術式が、天才たる私セレスによって施されていたのよ。えーめっちゃ説明口調でごめんね?」
どうやら精霊女王セレスは独特の諧謔精神を持っているらしかったが、私たちは目の前の出来事に圧倒されてしまし、ただその話を呆然と聞くしかないのだった。
森の奥深く、人々の記憶から忘れ去られたその場所は静かに、そしてどこか荘厳に佇んでいた。
崩れかけた入り口に、しかし壮麗に刻まれた彫刻の造形は、よくよく見れば高度で洗練されている。
今となっては見る影もなく荒廃しているが、かつては崇敬をあつめた神殿に違いないと思えた。
「エレナ嬢、本当にこの中へ?」
カイルがやや心配そうな口調で私に尋ねた。
確かに、中にはどうにか入れそうだが、いつ崩壊してもおかしくはないほどに荒廃している。
「....はい。精霊たちの呼びかけには何か意味があると思います。それに...誰かが私を呼んでいる、そんな気もするのです」
ニヴェルガルドに近づくにつれ、誰かに呼ばれている、という感覚が次第に強くなっているのだった。
アキュラも力の残滓を感じるという。
「わかりました。...お前たちはこの入り口を固めよ。万一の際は伝令で知らせるのだ。有事の際は退路の確保を最優先せよ」
「了解いたしました!」
カイルの鋭い指示が飛ぶと、部下の騎士たちのうち半数程度が整然と守備陣形を組んだ。
残る半数は、私たちに同行して護衛することになった。
昨日の襲撃もあったせいか、護衛の数は昨日より増やされていた。
(ここってどんなところだったのかしら...)
(精霊の力...そのものというよりは、名残のようなものを強く感じるね)
アキュラとそんな会話をかわしながら、神殿の奥深くへと足を踏み入れていく。
当然ながら明かりが灯されているということもないから、騎士たちの灯す魔法による光だけが頼りだ。
「これほどの神殿なのに...どうして忘れ去られたのでしょうか」
先ほどから気になっていたことをカイルに聞いてみる。
「ここが見つかったのはごく最近のことなのです。我らで調査してみようかという話もあったのですが、発見の前後から魔物の襲撃が増えたので、お恥ずかしながらそこまでは手が回らなかった」
「なるほど...」
(神殿の発見と魔物の襲撃...それってただの偶然なのかしら?)
(鋭いな。この力の痕跡は、相当大掛かりな術が展開されていたんじゃないかな。だから人目にもつかなかった)
(つまり...それが何らかの理由で崩壊した?)
(その可能性は大いにある)
やがて私たち一行は主祭壇と思しき大きな広間に到着した。
あちこち朽ち果ててはいるが、巨大な石像が林立して見るものを圧倒する。
明らかに大きな力が働いていたであろう...そんな気配が色濃く残っている場所だった。
「まさかこんな壮大な神殿だとは...」
そこには騎士たちも言葉を失うほどに荘厳な空間が広がっている。
その奥には一段高くなった祭壇が設けられており、ひときわ壮麗な女神と思しき巨大な石像が佇んでいた。
どこか物憂げにも見えるその表情は、しかしよく見れば慈愛に満ち溢れ、見るものを包み込むような気配があった。
(アキュラ...これって)
(ああ...呼んでいるのは彼女だね)
(やっぱり...)
「カイル様、あの女神の石像...彼女が私を呼んでいるような気がします」
「...わかりました。我らは念のため周囲を固めます。心ゆくまでお調べなされよ」
そう言ってカイルは配下の騎士たちに臨戦体勢を取らせた。
まだ何かが起きたわけではないが、何かが起こっても不思議ではない。そんな緊張感があたりを支配している。
高まる緊張で、胸の鼓動がうるさいほどだった。
しかし、ここまで来た以上引き返すわけにはいかない。
意を決して、女神像の前へと少しずつ足を進めた。
近づくほどに、微かだった呼び声がはっきりと伝わってくるような気がする。
(...の女...る...よ...)
気がつけば、自然と跪いて祈るような姿勢をとっていた。
なぜだかわからないが、そうするのが正しいような気がしたからだ。
(よく来てくれました...精霊の女王たる子よ...)
精霊の女王?
聞き慣れない言葉に疑問符が湧いてくる。
(精霊の女王って...)
(この流れ的にどう考えても君のことでしょ...)
アキュラがそう答えた瞬間だった。
「そう、君だよ君。ってか堅苦しいノリはもうここまで。時間もないしちゃちゃっと伝えるわ。騎士のみなさんも耳かっぽじってよーく聞いとくように」
突然、私の頭の中でだけ響いていたはずの声が、ハキハキした女性の大音声となって響き渡った。
女神像がぼんやりと光り、声はその光から放たれているようだった。
「な、何の声だ!」
騎士たちがざわめくが、声はまったく気にする様子もなく話を続けた。
「私ははるか昔のめっちゃえらい精霊術師、人呼んで精霊女王セレスーまぁもう死んでますけど。で、長いことこの国はこの神殿と精霊の術式でで守られてきたわけ。だがそれが破られたのよね。だから私が生前施した術式が起動して、こうしてあんたらに話しかけているって寸法よ」
何だか話し方がところどころ古めかしいのは、すごく昔の人だからか...などと妙に納得してしまう。
尚も話は止まらない。
「術式が破られたら、私の生まれ変わりの魂に呼びかけてここへ連れてくる。そんな都合のいい術式が、天才たる私セレスによって施されていたのよ。えーめっちゃ説明口調でごめんね?」
どうやら精霊女王セレスは独特の諧謔精神を持っているらしかったが、私たちは目の前の出来事に圧倒されてしまし、ただその話を呆然と聞くしかないのだった。
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