【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第23話 「思いやり」

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レイン隊長と兵士たちは、突然現れた私の申し出に明らかに面食らっていたようだ。
が、レイン隊長は職業軍人らしくすぐ状況に適応した。
私の方に向き直り、貴族の儀礼に則って恭しくお辞儀をする。

「...これはローズウッド伯爵令嬢。私は王都警備隊の中隊長を務めるレイン・エルヴェスタ子爵です。いつぞやの舞踏会で貴女をお見かけしたことがあります。...その、色々とご事情がおありのことと推察しますが」

もの柔らかな口調で、少しも敵意を感じさせないその物腰は、張り詰めていた私を安心させる。

「...はい、王国や陛下への叛意など誓ってございませんが、今ここで申し上げてもせんのないことですから...ただ、事情があってアイアンメイデンに囚われたくはないのです。お手を煩わせて恐縮ですが、王都警備隊のみなさまに宮廷までお送り願えませんか」

レイン隊長も部下の兵士たちも微かに誇らしげな表情になって、私に力強く頷いてくれた。

「私も...一個人としては何かの間違いでしかないと思っております。我らの名誉にかけて、無事にお届けしましょう」

部下の兵士たちも口々に、

「アイアンメイデンには指も触れさせませんよ!」

「我らにおまかせください!」

などと頼もしい気勢を上げている。やはりアイアンメイデンの横槍に鬱屈が溜まっているらしかった。

「では...参りましょうか」

そう促す私に向かって、レインが「ちょっとだけお待ちいただきたい。ここでお茶でも飲んでてください」と言うなりどこかへ走り去っていった。緊張し切っていた私は、その言葉にありがたく甘えることにして、兵士たちが淹れてくれたお茶をいただいて一息つくことにした。家で飲んでいた高価な茶葉とは違って、質実剛健な飲料という感じだったが、彼らが心底私に同情してくれているのが伝わってきて、それが心に沁みた。
ちょうどお茶を飲み終わったころに、息を切らしてレインが戻ってきた。小脇に何かを抱えながら、侍女らしき女性をともなっている。

「エレナ嬢...これを!」

差し出された布包の中には、若い貴族女性の正装が丁寧に収められていた。

「まことに失礼かとは思いましたが...ちょうど私の姉と同じぐらいの背丈かなと。それに姉がいちばん気に入っている侍女も連れてきたので...本当に余計なお世話だとは思いますが、よろしければお化粧直しのお手伝いにお使いください」

恐るべき手回しの良さと気遣いだった。
私は何度も礼を言ったが、レインはにこにこと「いやぁ、姉がいるというのは...自然に色々と鍛えられまして」などと飄々としていた。その自然な態度も私には本当にありがたかった。

「...こちらで、いかがでしょうか」

レインの姉の侍女だというその寡黙な若い女性は、しかし化粧の技術に関しては恐るべきものを持っていた。

「...これ、ほんとうにわたしかしら...」

「おお、実に盛れ...お美しい」

レインも細い目を一層細めてうんうんと頷いている。

「もれ?」

「あーいえ、どうかお気になさらず。エレナ嬢の気品を、うちの侍女がしっかりと引き出してくれたなと」

「...ありがとうございます」

なんか微妙にちょっとディスられた気がしなくもないが、レインの如才ない笑顔の前にはどうでもよくなった。
何より、叛逆の疑いをかけられている女にここまでしてくれるのは、彼の純粋な厚意だ。
みじめな格好で宮廷に行くことを覚悟していたが、レインのおかげで外見だけはしっかり整えることができた。
あとは、私の気概と勇気の問題だ。

「では、我ら王都警備隊一同がローズウッド伯爵令嬢にお供いたします!」

そうしてレインが貸してくれた馬に跨って、堂々と正門を通っていくことになった。
門を進んでいくと、たちまち私に気づいたアイアンメイデンの騎士たちが騒然と駆け寄ってきた。

「ま...待たれよ!エレナ・ローズウッドだな?!」

剣に手をかけて立ち塞がろうとする騎士たちの機先を制するように、レインがすっと前に出た。

「我らは勅令によって、王都警備に関する全権を委嘱されている。我らの判断で、エレナ嬢を宮廷までお送りし、司法大臣の指示を仰ぐのだ。無用の干渉は差し控えられたい」

「むむっ...しかし、我らも命令を受けているのだ」

「それは貴殿らへの命令であって、我らを縛るものではなかろう。もし我らの行動に疑念があるならば、アイアンメイデンの師団長から王都警備司令官へ直接申し上げられたい」

「ううむっ」

法的な理屈としてはレインの主張通りで、アイアンメイデンは王直轄の部隊とはいえ、王都警備に関する権限はない。何らかの手段でミリアが無理やり展開させているに違いなかった。アイアンメイデンの騎士たちも、多少の傲慢さはあっても元を糺せば栄誉を重んじる騎士たちだから、正論をかざされては引き下がるしかないようだった。いずれにせよミリアの元へ知らせはいくだろうから、宮廷での対決は避けられないに違いないが。

「さぁ、今のうちに急ぎましょう。奴らが本気で我らの司令官に談判する前に」

「ええ...ありがとうございます」

私たちは馬の歩みを早め、何事かと見守る王都の民たちを尻目に、王城へと急いだ。
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