なけなしの石で引いたガチャから出てきた娘がただのレアだった件

きゅちゃん

文字の大きさ
19 / 32

第19話 別離

しおりを挟む
「どういうつもりだ…貴様」

「なに、いつぞやの借りを返そうと思ってね」

「…意味がわからんぞ」

「そりゃそうだろうな。もうクリムゾンのことなんぞ忘れちまったか?」

クリムゾン。
ゲームをはじめて間もない俺たちを襲った卑劣なPKギルドの名。
白の騎士団に入って以来、とんと忘れていたが…先方はそうでもなかったようだ。

「あの時コケにされたんで、いつか仕返してやろうと思ってたのさ。俺はしつこいんでね」

「だが、そのアカウントはどうやって手に入れたんだ」

「RMTだよ。金さえ出せば大体のもんは手に入る時代だからな」

RMT…すなわち、リアルマネートレード。
ゲーム内のアイテムや仮想通貨、場合によってはキャラクターのアカウントそのものを現実の通貨で売買する行為。
当然、あらゆるゲームにおいて基本的には絶対禁止の違法行為だ。
しかし…人間がいるところには必ず売買が付いて回る。
その全てを根絶することは事実上不可能で、ルンデスにおいても例外ではなかったようだ。

「どうせそのうち運営に消されるんだろうけどよ。所詮捨て垢だから、ここでお前らと仲良くあの世行きだ」

そう言ってニヤニヤと笑うアベルに、俺は激しい怒りを覚える。

「このエリアでPKはできないぞ」

俺の指摘に、アベルは爆笑した。

「んなこたぁ知ってるよ。だからわざわざトレインしてきたんじゃねぇか」

「…そういうことか」

小野寺さんがギリっと歯ぎしりをしながらも、納得がいったというように目を伏せた。

トレイン。
すなわち列車のように大量のモンスターを引き連れてきて、他のプレイヤーになすりつける行為。
PK不可エリアでも、間接的なPKを可能とする悪辣なテクニックだ。

「さぁて、どうする?俺とアイリスは徹底的にお前らのジャマをするぞ」

そう言ってアベルが抜剣し、俺達に突きつける。
パーティメンバーゆえダメージこそ与えられないが、
当たり判定自体は生じるため、衝撃やノックバックは発生するのだ。

さほど広くない通路で、2人がかりでノックバックを連続発生されたら、
相当な邪魔になることは間違いなかった。
まさしく前門の虎、後門の狼という状況。

「…アイリスさん、あなたもこんなことを望んでいるのですか?」

静かにニアが問う。
先程までの仲間が眼前に立ちふさがっても、焦ってはいないようだ。
…強くなったな、と思う。

アイリスは能面のような表情で答える。

「…望むも望まないも、ない。今のマスターが命じるなら、従うしかない」

アベルは死ぬ気満々だから、アイリスも当然消滅することになる。
覚悟を決めているのか、その顔から感情らしきものは感じられなかった。

「…小野寺さん、ここはやるしかない」

「ああ…リョウキ、お前はアベルとアイリスを何とか突破しろ。後ろの軍団は俺達が食い止めるから、合図をくれ」

「…はい」

「死ぬんじゃねぇぞ」

「そっちこそ」

小野寺さんがぐっと親指を立て、斧を手に歩み去る。
その背後を守るように、アイシャが付き従う。

「あなたなら大丈夫ですよ」

去る間際、そう言ってアイシャが微笑んでくれた。
あれ、この人に微笑みかけてもらうの、はじめてかもな。

「ニアさん、あなたも負けないで」

「はい…絶対に、負けません」

俺は双剣を構え直し、ニアとしばし視線を交わす。

「絶対に、生きて帰ろう」

「はい、必ず」

うなずき合い、アベルたちに向き合った。

「押し通るぜ」

「へっ、やってみな」

「ニア、魔法でアイリスの足を止めろ!俺はアベルを抑える!」

頷いたニアが、氷魔法の詠唱を開始。
それを見たアイリスが、槍を構えてアベルをかばいつつ、俺の方に突撃してくる。
軽やかな足取りでニアの放った氷魔法をかわし、俺の眼前へと立ちふさがった。
アベルは、しばらくは高みの見物のつもりか、剣を手にしたままニヤニヤ笑っている。

「お前のそのショボいレアで、一応はSRのアイリスを止められるわけ無いだろ」

「レアリティなんて関係ない…」

短槍とはいえ、双剣よりは遥かにリーチの長い槍、しかも双槍使いとの相性ははっきり言って悪い。
だが、ダメージは受けないから、とにかくノックバックを発生させて吹き飛ばすしかない。

ガチン、ガキンッ!
双剣と双槍がぶつかり合い、火花が散る。
アイリスの槍捌きは相当なものだが、先程までモンスターを相手にしていたときとは違い、
殺気がないように思えた。

「アイリス…お前だって、本当はこんなことをしたくないんだろ」

「…どうせ消えるから、どうでもいい」

槍を凌ぎながら説得を試みるが、聞く耳を持たない。
けれど、先程のスケルトンから俺を救ってくれたアイリスを、俺は信じたかった。

「…それでも、俺には頼むことしかできないんだ。俺たちを通して欲しい」

「…別にあなたは死んだって、たかだかデスペナルティで済む。ニアは消えるかもしれないけど、レアなんてすぐ引けるわ」

「…俺の好きなニアは、今ここに居るニアなんだ。代わりはいない…だから、絶対に死なせない」

「所詮私たちはデータよ。好きと言ったって、すぐに忘れるわ」

「…俺の想いを…お前が量るなッ!」

「…!」

アイリスの言葉に激しい怒りが湧き上がり、必要以上に剣に力が入った。
他方、アイリスの槍捌きからは次第に力が失われていく。
その機を逃さず、槍を弾き飛ばす!

「…あの人だって…そう言ったのに、アカウントを売った」

宙を舞い、地面に突き刺さった槍はそのままに。
力が抜けたように座り込んだアイリスは、そう呟いた。

「…前のマスターか」

アカウントを売ったという、そいつと何があったかはわからない。
ただ、能面のようなアイリスの顔に、少しだけ表情が戻った気がする。
そこには、在りし日を愛おしむような感傷があった。

「わたしのことを好きだと言った。…わたしだって…でも、戻ってこなかった」

「…そうか」

「わたし、あなたたちが羨ましかった。妬ましかった。だから道連れにしてやろうと思った」

堰を切ったように、アイリスが感情をぶちまける。
座り込んだままのアイリスに、そっとニアが近づいて、抱きしめた。

「アイリスさん…わたし、リョウキのことが好きです」

「…それは、よくわかるよ、見てれば」

「アイリスさんとも、友達になれたらいいなって思ってました」

「…それはもう…無理だね」

「だから、わたしたちのわがままです。ここを通して欲しいというのは、私たちの勝手な望みです」

そう言ってニアが立ち上がった。
そして、まっすぐにアイリスを見つめる。

「だから、ここに立ちふさがるということが、あなたの望むことなら仕方がありません。戦います」

「…」

「でも、もう一度だけ考えてみてくれませんか?それが、本当にあなたが望むことなのかどうか」

うつむくアイリスの眦に、みるみるうちに涙が溜まっていた。

「…さっきの発言、取り消すよ」

ぽたり、ぽたりと、透明なしずくが零れ落ちる。

「今からでは遅すぎるかもしれないけど…わたし、あなたと友達になりたい」

そう言って、アイリスが泣きながら微笑む。

「はい…よろこんで」

そうして、ニアはもう一度アイリスを抱きしめた。

「…リョウキ」

アイリスが俺に向き直り、びしっと指をさしてくる。

ニアともだちを泣かせたら、絶対許さない」

「…わ、わかった」

「アベルはわたしが抑える。…だから、行きなさい生きなさい

そう言ってアイリスは槍を拾い上げ、気合をいれるようにしならせた。
両の手にふたたび槍を構え、アベルの前に立つ。

「さっきからわけのわからんことを…お前、たかだかSR止まりのくせにマスターに逆らうのか?」

突然の反抗に驚いたアベルが、口汚くアイリスを罵る。

「…わたしのマスター愛した人は、もういない。どこにも…走って、二人とも!」

アイリスの叱咤に我に返り、俺とニアは手をしっかりとつなぎ、アイリスの横を駆け抜ける。
同時に、後方で奮戦しているであろう小野寺さんとアイシャに向かって叫んだ。

「今なら突破できます!早く!」

歯ぎしりと共に襲いかかるアベルの剣戟を、二本の槍がしっかりと受け止めてくれていた。

「…幸せにならないと、許さないから」

それが、ニアの初めての友達の、最期の言葉だったー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...