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第4話 嘘と真実の境界線
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その日の朝、私は大変なことに気づいた。
カレンダーを見ると、明日は「聖女の魔力測定日」と書かれている。
血の気が引いた。
年に一度行われる公式行事で、聖女の魔力を測定して民衆に報告する日だ。つまり——
「完全にアウトじゃない!」
思わず声に出してしまい、慌てて口を押さえる。侍女のアンナに聞かれたら大変だ。
どうしよう。魔力がほぼゼロの私が測定を受けたら、即座に偽物だとバレてしまう。
(逃げる? でも、どこに?)
ノックの音が響いた。
「ルーナ様、アルベルト様がお見えです」
最悪のタイミングだった。今の私は確実に顔が青ざめている。
「お、お通しして」
アルベルトが入ってきた瞬間、彼の表情が曇った。
「ルーナ様、お顔の色が優れませんが……」
「だ、大丈夫です! ちょっと寝不足で」
嘘だ。心配かけたくないという気持ちは本当だけど。
「実は、明日の魔力測定の件でお話があります」
終わった。完全に終わった。
彼は検証官として、明日の儀式で私の嘘を暴くつもりなのだ。
「あの……アルベルト様」
「はい?」
「もし、もしもですが……聖女が本物でなかったら、どうなるのでしょう?」
アルベルトの表情が険しくなった。
「偽物の聖女は重罪です。最低でも国外追放、場合によっては——」
「死刑、ですよね」
私の声が震えた。演技じゃない。本当に怖い。
「ルーナ様、なぜそのようなことを?」
「い、いえ! ただの好奇心です!」
でも、アルベルトの瞳が鋭くなった。まずい。疑われてる。
「ルーナ様……」
彼が一歩近づく。私は反射的に後ずさりした。
「もしかして、何か隠していることが?」
その瞬間、扉が勢いよく開いた。
「緊急事態です!」
駆け込んできたのは城の侍従だった。
「王都の北門で盗賊団が暴れています! 至急、聖女様の魔法で鎮圧を!」
また、魔法?
でも、これは好機でもある。アルベルトの追及から逃れられる。
「すぐに参ります」
「危険です。私も同行します」
アルベルトが立ち上がった。
北門に着くと、確かに盗賊たちが暴れていた。でも、よく見ると——
(あれって、孤児院の子たちじゃない?)
見覚えのある顔があった。私が昔いた孤児院の、年下の子たちだ。
なぜ彼らが盗賊になってしまったのか。胸が痛んだ。
「聖女様、魔法で一網打尽にお願いします!」
兵士が期待の声を上げる。でも、私にはできない。あの子たちを傷つけるなんて——
「待ってください」
私は前に出た。
「まず、話し合いましょう」
「ルーナ様、危険です!」
アルベルトが制止しようとしたが、私は聞かなかった。
「みんな、どうしてこんなことを?」
私が近づくと、盗賊たちが動揺した。
「せ、聖女様……」
その中の一人、昔トムと呼ばれていた少年が前に出た。
「俺たちは……食べるものがないんです」
「孤児院が閉鎖されて、行く場所がなくて……」
別の少年が涙声で続けた。
私の心が痛んだ。この子たちは悪いことをしたいわけじゃない。生きるために必死なだけだ。
昔の私と同じように。
「わかりました。城で働きませんか?」
咄嗟に口から出た言葉だった。
「え?」
「厨房や庭園の手伝いなら、いくらでも仕事があります。給料も出ますし、住む場所も用意します」
周囲がざわめいた。盗賊を雇うなんて前例がない。
「聖女様、それは……」
兵士が困惑している。
でも、アルベルトが口を開いた。
「素晴らしい提案だと思います」
「え?」
「罰するだけでは何も解決しません。彼らに更生の機会を与える……それこそ真の慈悲です」
彼の言葉に、胸が熱くなった。
私の無茶な提案を理解してくれた。それどころか、支持してくれている。
「ありがとうございます、聖女様……」
トムが涙を流しながら頭を下げた。他の子たちも続く。
結局、全員を城に引き取ることになった。魔法は一切使わなかったけれど、問題は解決した。
帰り道、アルベルトが呟いた。
「あなたは不思議な方ですね」
「え?」
「普通なら、魔法で一掃して終わりです。でも、あなたは違った。彼らの心に寄り添った」
彼の声には、確実に尊敬の念が込められていた。
でも、私は何も特別なことはしていない。ただ、昔の自分を重ねただけだ。
「私は……特別なんかじゃありません」
「いえ、特別です」
アルベルトが立ち止まって、私を見つめた。
「あなたのような聖女に出会えて……私は幸せです」
その言葉に、胸がキュンとした。同時に、罪悪感も深くなる。
彼は偽物の私を褒めている。本当の私を知ったら——
「アルベルト様」
「はい?」
「もし、私が……あなたの期待に応えられない人間だったら?」
彼は首を振った。
「そんなことはありません。今日だって、あなたは完璧でした」
完璧。
その言葉が、胸に突き刺さった。
私は完璧なんかじゃない。嘘つきで、魔力もなくて、偽物で——
「でも、もしも……」
「ルーナ様」
アルベルトが両手で私の肩を掴んだ。
「あなたが何を不安に思っているのかわかりませんが、私の気持ちは変わりません」
「えっ?」
「私は……あなたを愛しています」
世界が止まった。
彼が、私を、愛してる?
「あ……あの……」
頭が真っ白になった。嬉しいような、苦しいような、複雑な気持ちでいっぱいになる。
「お返事は急ぎません。ただ、私の気持ちを知っていてください」
アルベルトが頭を下げて、去っていく。
私は一人、その場に立ち尽くしていた。
(どうしよう……)
彼は偽物の私を愛している。本当の私を知ったら、きっと失望するだろう。
でも、私も彼を愛している。この気持ちだけは、絶対に偽物じゃない。
そして明日は、魔力測定の日。
全てが終わる日かもしれない。
嘘と真実の境界線で、私は揺れ続けていた。
カレンダーを見ると、明日は「聖女の魔力測定日」と書かれている。
血の気が引いた。
年に一度行われる公式行事で、聖女の魔力を測定して民衆に報告する日だ。つまり——
「完全にアウトじゃない!」
思わず声に出してしまい、慌てて口を押さえる。侍女のアンナに聞かれたら大変だ。
どうしよう。魔力がほぼゼロの私が測定を受けたら、即座に偽物だとバレてしまう。
(逃げる? でも、どこに?)
ノックの音が響いた。
「ルーナ様、アルベルト様がお見えです」
最悪のタイミングだった。今の私は確実に顔が青ざめている。
「お、お通しして」
アルベルトが入ってきた瞬間、彼の表情が曇った。
「ルーナ様、お顔の色が優れませんが……」
「だ、大丈夫です! ちょっと寝不足で」
嘘だ。心配かけたくないという気持ちは本当だけど。
「実は、明日の魔力測定の件でお話があります」
終わった。完全に終わった。
彼は検証官として、明日の儀式で私の嘘を暴くつもりなのだ。
「あの……アルベルト様」
「はい?」
「もし、もしもですが……聖女が本物でなかったら、どうなるのでしょう?」
アルベルトの表情が険しくなった。
「偽物の聖女は重罪です。最低でも国外追放、場合によっては——」
「死刑、ですよね」
私の声が震えた。演技じゃない。本当に怖い。
「ルーナ様、なぜそのようなことを?」
「い、いえ! ただの好奇心です!」
でも、アルベルトの瞳が鋭くなった。まずい。疑われてる。
「ルーナ様……」
彼が一歩近づく。私は反射的に後ずさりした。
「もしかして、何か隠していることが?」
その瞬間、扉が勢いよく開いた。
「緊急事態です!」
駆け込んできたのは城の侍従だった。
「王都の北門で盗賊団が暴れています! 至急、聖女様の魔法で鎮圧を!」
また、魔法?
でも、これは好機でもある。アルベルトの追及から逃れられる。
「すぐに参ります」
「危険です。私も同行します」
アルベルトが立ち上がった。
北門に着くと、確かに盗賊たちが暴れていた。でも、よく見ると——
(あれって、孤児院の子たちじゃない?)
見覚えのある顔があった。私が昔いた孤児院の、年下の子たちだ。
なぜ彼らが盗賊になってしまったのか。胸が痛んだ。
「聖女様、魔法で一網打尽にお願いします!」
兵士が期待の声を上げる。でも、私にはできない。あの子たちを傷つけるなんて——
「待ってください」
私は前に出た。
「まず、話し合いましょう」
「ルーナ様、危険です!」
アルベルトが制止しようとしたが、私は聞かなかった。
「みんな、どうしてこんなことを?」
私が近づくと、盗賊たちが動揺した。
「せ、聖女様……」
その中の一人、昔トムと呼ばれていた少年が前に出た。
「俺たちは……食べるものがないんです」
「孤児院が閉鎖されて、行く場所がなくて……」
別の少年が涙声で続けた。
私の心が痛んだ。この子たちは悪いことをしたいわけじゃない。生きるために必死なだけだ。
昔の私と同じように。
「わかりました。城で働きませんか?」
咄嗟に口から出た言葉だった。
「え?」
「厨房や庭園の手伝いなら、いくらでも仕事があります。給料も出ますし、住む場所も用意します」
周囲がざわめいた。盗賊を雇うなんて前例がない。
「聖女様、それは……」
兵士が困惑している。
でも、アルベルトが口を開いた。
「素晴らしい提案だと思います」
「え?」
「罰するだけでは何も解決しません。彼らに更生の機会を与える……それこそ真の慈悲です」
彼の言葉に、胸が熱くなった。
私の無茶な提案を理解してくれた。それどころか、支持してくれている。
「ありがとうございます、聖女様……」
トムが涙を流しながら頭を下げた。他の子たちも続く。
結局、全員を城に引き取ることになった。魔法は一切使わなかったけれど、問題は解決した。
帰り道、アルベルトが呟いた。
「あなたは不思議な方ですね」
「え?」
「普通なら、魔法で一掃して終わりです。でも、あなたは違った。彼らの心に寄り添った」
彼の声には、確実に尊敬の念が込められていた。
でも、私は何も特別なことはしていない。ただ、昔の自分を重ねただけだ。
「私は……特別なんかじゃありません」
「いえ、特別です」
アルベルトが立ち止まって、私を見つめた。
「あなたのような聖女に出会えて……私は幸せです」
その言葉に、胸がキュンとした。同時に、罪悪感も深くなる。
彼は偽物の私を褒めている。本当の私を知ったら——
「アルベルト様」
「はい?」
「もし、私が……あなたの期待に応えられない人間だったら?」
彼は首を振った。
「そんなことはありません。今日だって、あなたは完璧でした」
完璧。
その言葉が、胸に突き刺さった。
私は完璧なんかじゃない。嘘つきで、魔力もなくて、偽物で——
「でも、もしも……」
「ルーナ様」
アルベルトが両手で私の肩を掴んだ。
「あなたが何を不安に思っているのかわかりませんが、私の気持ちは変わりません」
「えっ?」
「私は……あなたを愛しています」
世界が止まった。
彼が、私を、愛してる?
「あ……あの……」
頭が真っ白になった。嬉しいような、苦しいような、複雑な気持ちでいっぱいになる。
「お返事は急ぎません。ただ、私の気持ちを知っていてください」
アルベルトが頭を下げて、去っていく。
私は一人、その場に立ち尽くしていた。
(どうしよう……)
彼は偽物の私を愛している。本当の私を知ったら、きっと失望するだろう。
でも、私も彼を愛している。この気持ちだけは、絶対に偽物じゃない。
そして明日は、魔力測定の日。
全てが終わる日かもしれない。
嘘と真実の境界線で、私は揺れ続けていた。
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