【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん

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蠢動

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「ヴァルター侯爵...なぜここに?」

ベルティアは信じられない思いで問いかけた。帝国随一の軍事貴族であるヴァルター・フォン・クリムゾンが、リーデンという辺境の地に現れるなど、考えられないことだったからだ。

「説明は後だ」ヴァルターは短く答え、鮮やかな動きで闇狼王に立ち向かった。

彼の剣術は圧倒的だった。まるで赤い光の軌跡が描かれるように、魔剣が瞬時に空気を切り裂く。闇狼王が反撃しようとするが、その動きはヴァルターの前では遅すぎたようだ。

「炎の牙を!」

彼が魔剣を振るうと、炎の刃が空中に生まれ、闇狼王の体を貫いた。巨大な魔物は苦悶の声を上げ、その場に崩れ落ちた。

周囲の闇狼たちは首領の死を悟ると、一斉に森の方向へと逃げ去っていく。かくして戦いは終わった。

「無事か?」ヴァルターはベルティアに歩み寄った。

「はい...ありがとうございます」彼女は立ち上がり、服の埃を払った。

レイヴンとエレノアも近づいてきた。特にレイヴンは、ヴァルターを見て驚いた様子だった。

「クリムゾン侯爵か...久しいな」

「ああ、十年ぶりだな、レイヴン」ヴァルターは微かに微笑んだ。「強さは健在のようだな」

「はっ、お前ほどではない」レイヴンは肩をすくめた。「しかし、なぜここに?」

「アルフレッド伯爵から依頼を受けていた」ヴァルターは簡潔に答えた。「ベルティア令嬢の修行の様子を確認するようにと。ちょうど北部国境の視察を終え、帰還途中だったところだ」

ベルティアは父親の計らいに驚いた。父は遠くからも彼女を見守っていたのだ。

「皆さん、話はこの後にしましょう」エレノアが割って入った。「まずは町の負傷者の手当てを」

---

数時間後、町の状況は落ち着きを取り戻していた。遅まきながら帝国軍の援軍も到着し、残りの魔物たちを追跡掃討中だった。ベルティアたちはリーデンの町長の家に招かれ、休息を取っていた。

「本当にありがとうございました」町長は何度も頭を下げた。「特にベルティア様。広場で多くの町民を救ってくださいました」

ベルティアは穏やかに微笑んだ。「お礼は不要です。私にできることをしただけです」

町長が退室すると、ヴァルター、レイヴン、エレノア、そしてベルティアの四人だけが残された。

「さて」ヴァルターが口を開いた。「この魔物の襲撃、不自然だと思わないか?」

レイヴンは頷いた。「ああ。闇狼はこの地方には生息していない。それに、あんな大群で統率された行動をとることも異常だ」

「まるで...誰かに操られていたような」エレノアが付け加えた。

ベルティアは三人の会話に耳を傾けながら考えていた。「侯爵、これは...人為的なものでしょうか?」

ヴァルターは鋭い目でベルティアを見つめた。「鋭いな。実は、北部国境でも似たような事件が続いている。魔物の異常行動...そして、その背後に人間の魔術師の存在が示唆されているんだ」

「魔術師が魔物を操る...?」ベルティアは眉を寄せた。「そんな高度な術があるのですか?」

「禁忌の魔術だ」エレノアが厳しい表情で言った。「魔物操術。数百年前に禁止された危険な術よ。でも、まさかそれが復活しているとは...」

「そして、この術を使う者がこのリーデン地方を標的にした...」レイヴンが低い声で言った。「なぜだ?」

沈黙が流れた後、ヴァルターがベルティアに視線を向けた。「ベルティア令嬢、今回の戦いぶり、見事だった」

「ありがとうございます」彼女は丁寧に答えた。「ですが、まだまだ未熟です。闇狼王には太刀打ちできませんでした」

「三ヶ月前の君なら、普通の闇狼一匹にも苦戦していただろうな」ヴァルターは真剣な表情で言った。「君の成長は驚異的だ。アルフレッド伯爵に報告しておこう」

彼は次に、レイヴンとエレノアに目を向けた。「二人とも、素晴らしい指導をありがとう。特にレイヴン、お前が表舞台から退いた後も、その剣の冴えは衰えていないな」

レイヴンは無言で頷いただけだった。心なしか、嬉しそうではあったが。

「さて、私は明日、帝都に戻る」ヴァルターは立ち上がった。「ベルティア令嬢、社交界に戻るまであと三ヶ月。最後の仕上げをしっかりやるといい」

彼は扉に向かう途中で立ち止まり、振り返った。「そうだ、令嬢。一つ助言がある」

「はい?」

「今回の事件は偶然ではないかもしれない。君が狙われている可能性も考慮したほうがいい」

「私が...?」ベルティアは驚いた。「なぜですか?」

「考えてみろ」ヴァルターは静かに言った。その瞳には微かに面白がるような光が宿っているようにも見えた。「君は帝国五大貴族の令嬢で、今は辺境で力をつけている。そして、帝都では王太子に背かれた身...君の存在は、誰かにとって脅威になりうる」

彼の言葉は、冷たい水のようにベルティアの背筋を走った。

「気をつけるがいい」ヴァルターは最後にそう言って、部屋を後にした。その言葉に優しさがこもっているように感じたのは、自惚がすぎるだろうか。

---

「もっと速く!」

翌朝から、レイヴンの訓練はさらに厳しさを増した。ベルティアは全力で木刀を振るい、レイヴンの攻撃をかろうじてかわす。

「魔物との戦いで学んだはずだ」レイヴンは容赦なく攻撃を続けた。「実戦では一瞬の隙が命取りになると」

ベルティアは息を切らしながらも必死に応戦した。確かに昨日の戦いは彼女に多くを教えていた。理論と実践の違い、そして本当の危機における判断力の重要性を。そして何といっても、命はただ一つしかないということを。

午後の魔法訓練では、エレノアも同様に要求のレベルを上げていた。

「より少ない魔力で、より効果的な魔法を」エレノアは指示した。「昨日、あなたは強大な魔法を使いすぎて魔力を消耗しすぎたわ」

ベルティアは真剣に頷いた。「無駄なく、効率的に...理解しました」

夕食後、彼女は書庫で魔物に関する古い書物を調べていた。闇狼の特性、弱点、そして魔物操術についての記述を探している。

「お嬢様、お休みになられては?」メリッサが心配そうに声をかけた。

「ありがとう、メリッサ。でも、もう少し調べたいの」ベルティアは目を本から離さずに答えた。

メリッサは主人の姿を見つめ、感慨深い表情を浮かべた。かつては社交ダンスや刺繍に熱中していた令嬢が、今は戦術書や魔法書に没頭している。変化は一目瞭然だった。

「お嬢様は本当に強くなられました」メリッサは静かに言った。

ベルティアは顔を上げ、柔らかく微笑んだ。「ありがとう。でも、まだ道半ばよ。帝都に戻るまでに、もっと多くのことを学ばなければ」

彼女は窓から夜空を見上げた。星々が煌めいている。「不思議ね、メリッサ。半年前の私なら、魔物と戦うなんて想像もしなかったでしょう」

「ですが、お嬢様は見事に戦われました。町の人たちは皆、あなたを英雄のように慕っています」

ベルティアは静かに首を振った。「英雄なんかじゃないわ。ただ...守るべき人たちがいたから、行動しただけよ」

彼女はふと、ヴァルター侯爵の言葉を思い出した。「私が狙われている可能性...か」

「お嬢様?」

「何でもないわ」ベルティアは微笑んだ。「さあ、もう少し調べてから休みましょう」

その夜、彼女は一つの決意を固めた。残された三ヶ月で、さらに強くなること。そして、帝都に戻った時には、クレインやエリーゼが彼女を見下すことはもうできないようにすること。

かつての「悪役令嬢」は、真の力を身につけ、自らの物語を紡ぎ始めていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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