【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん

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混沌神殿

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転移魔法の白い光が消え、四人は死者の谷の入口に立っていた。辺りは異様な静寂に包まれ、生気のない黒い岩肌と枯れた木々が広がっている。谷の奥からは、不気味な赤い光が漏れ出していた。

空を見上げると、黒い渦が天を覆い、その中心に赤い光の輪が形成されつつある。四大精霊の均衡が崩れ、第五の力の封印が解かれる前兆だった。

「間に合うだろうか...」ガルドが震える声で呟いた。

ベルティアは母の指輪を握りしめ、風の精霊に問いかけた。すると、かすかな風が彼女の髪を撫で、進むべき道を示すように谷の奥へと流れていった。

「道を教えてくれているわ」彼女は前に踏み出した。「ミーナさんを助け、第五の力の解放を止めましょう」

四人は谷の奥へと進んでいった。岩肌の間を縫うように伸びる細い道は、次第に下り坂となり、地下へと通じているようだった。周囲の温度が徐々に下がり、呼吸が白く霧となって舞う。

「生気を感じない」リーナが警戒するように周囲を見回した。「この谷全体が死んでいる」

「かつてここは豊かな森だったそうだ」ヴァルターが静かに言った。「千年前、第五の力が最初に解放されようとした時、この地は混沌の力によって枯れ果てた」

道は狭く曲がりくねり、やがて彼らは巨大な洞窟の入口に辿り着いた。入口の周りには異様な形の彫刻が並び、何か禍々しい儀式を表現しているようだ。

「混沌神殿...」ガルドの顔が青ざめた。「ミーナはこの中に...」

彼らが洞窟に足を踏み入れたとき、突然の冷気と共に黒い霧が渦巻き始めた。霧の中から姿を現したのは、黒いローブの魔術師たちだ。彼らの警戒網に引っかかったのだろう。

「侵入者を確認」冷たい声が響いた。「四人...そのうち三人が契約者」

「ライゼルの声...」リーナが身構えた。

霧が晴れ、彼らの前にライゼルが姿を現した。彼の背後には十数人の魔術師が控えている。

「よく来たな、風の契約者よ」ライゼルは冷笑を浮かべた。「お前が自ら進んで来るとは、手間が省けた」

「ミーナを返しなさい!」ガルドが叫んだ。

「水の契約者か...」ライゼルは無視するかのように言った。「彼女はすでに儀式の中心にいる。今頃はほとんど命を吸い取られているだろう」

ガルドが怒りに震える中、ベルティアは冷静さを保とうとした。「儀式を止めることはできる。まだ終わっていない」

「止める?」ライゼルは高らかに笑った。「もう遅い。サイラス様はすでに第五の力の一部を取り込んでいる。あとは風の契約者の血だけだ」

彼が手を振ると、魔術師たちが一斉に動き始めた。彼らの手から放たれる黒い魔力の弾が四人に向かって飛んでくる。

「陣形を組め!」ヴァルターが叫び、彼らは瞬時に背中合わせの円陣を組んだ。

リーナの火の壁がいくつかの攻撃を防ぎ、ガルドは地面から岩の壁を立ち上げて盾とした。ヴァルターは炎の剣で黒い弾を切り裂き、ベルティアは風の盾を展開した。

しかし、敵の数は多く、彼らの防御にも限界があった。じりじりと防御魔法が削られ、四人は次第に押されていく。

「このままでは突破できない!」リーナが苛立った声で叫んだ。

ベルティアは瞬時に判断した。彼女は母の指輪に力を集中させ、風の精霊に強く呼びかけた。できるだけ力を温存したかったが、ここで足止めをされてはそれも意味がない。

「風よ、道を切り開け!」

轟音と共に猛烈な竜巻が彼女の周りに形成され、敵の魔術師たちを吹き飛ばした。

「今だ!」ヴァルターが叫び、彼らは開いた道を一気に駆け抜けた。

ライゼルが怒りの声を上げるのを背に、四人は洞窟の奥へと走り続けた。通路は次第に広がり、やがて彼らは巨大な地下空間に出た。

壮大な地下神殿——黒い石で作られた柱が天井まで伸び、中央には巨大な円形の祭壇があった。祭壇の上には四つの石台が等間隔に配置され、そのうちの一つに青い髪の若い女性が横たわっていた。

「ミーナ!」ガルドが叫んだ。

意識を失っているミーナの体から青い光が吸い上げられ、祭壇中央の黒い球体へと流れ込んでいる。球体の前には一人の男が立っていた——サイラス・シャドウハート。

「なんとか間に合ったようね...」ベルティアは安堵のため息をついた。

彼らが前に進もうとした瞬間、サイラスが振り返った。王族の血を引く威厳ある顔立ちだが、その瞳は禍々しい赤色に染まっていた。

「ようこそ、風と火と地の契約者たち」サイラスの声は低く響いた。「あとは風の力だけだ。これで儀式は完成する」

四大精霊の揺らぎを感じ取ったのか、ミーナがかすかに身動きした。彼女の目が微かに開き、周囲を探るように視線を動かした。

「ミーナ!」ガルドが再び叫び、前に出ようとした。

しかし、サイラスの放った黒い光の鎖が四人の周りを取り囲み、動きを封じた。

「まぁそう焦るな」サイラスは不気味なほど穏やかに言った。「お前たちには大切な役目がある。残りの契約者の力を全て吸収することで、私は完全な混沌の器となるのだからな」

「やめて!」ベルティアは必死に風の力で鎖を断ち切ろうとした。「あなたは分かっていない!第五の力は世界を滅ぼす!」

「滅ぼす?」サイラスは首を振った。「違う。わかっていないな。生まれ変わらせるのだ。混沌から新たな秩序が生まれる。それが真の均衡だ」

サイラスが両手を広げると、祭壇から黒い柱が立ち上がり、空間が歪み始めた。

「儀式は最終段階に入った」彼は高らかに宣言した。「今、第五の封印が解かれ、新たな世界の幕が開く!」

天井が崩れ落ち、黒い渦が地下神殿に直接繋がったかのように、赤い光が降り注ぎ始めた。

この危機的状況の中、ベルティアは懐から四契約の書を取り出した。四大契約者の一人であるミーナが捕らえられている今、彼らは完全な力を発揮できない。しかし、彼女の目に書の上に刻まれた文字が輝き始めるのが見えた。

「契約者たちを結びつけよ」その言葉の意味を、ベルティアは直感的に理解した。

母が信じた希望——それは、四大契約者を解放してその命を犠牲にすることではなく、彼らを「結びつける」ことだったのだ。
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