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地の契約者
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魔法学院が再び激しく揺れた。天井から水晶の破片が降り注ぐ中、セレンは急いでベルティアを中央の祭壇へと導いた。
「時間がない」セレンは四色の水晶の間に立ち、両手を広げた。「風の契約者よ、我々に残された選択肢は少ない。魔法学院の防御結界を維持するには、あなたの力を借りねばならない」
ベルティアは迷わず前に進み出た。「どうすれば良いのですか?」
「風の水晶に触れ、あなたの力を注ぎ込むのだ。私は他の三つと共鳴させる」
彼女が青い水晶に両手を置くと、温かく優しい感覚が体を包み込んでいく。まるで母の腕の中にいるかのような安心感。風の精霊が彼女を歓迎しているのだ。
ベルティアは目を閉じ、心の内で風の精霊に語りかけた。「力を貸して。大切な人たちを守るために」
青い水晶が明るく輝き始め、その光は徐々に他の三つの水晶へと伝播していった。セレンは複雑な魔法の詠唱を始め、四色の光が魔法学院全体を包み込んでいく。
「これで一時的に結界が強化される」セレンは息を切らせながら言った。「だが長くは持たない。我々には他の契約者の力も必要だ」
その時、魔法学院の入口方向から鋭い叫び声と激しい戦闘音が聞こえてきた。
「戦っている...」ベルティアは耳を澄ました。
「あなたの仲間たちだろう」セレンが答えた。「彼らは魔法学院にたどり着き、敵と交戦しているようだ」
ベルティアの心に勇気が湧いた。ヴァルターたちが無事だったのだ。
「助けに行かなくては」
「待ちなさい」セレンが彼女を制した。「その前に、これを」
老人は台座から古い巻物を取り出し、彼女に手渡した。
「これは『四契約の書』。おそらくは、四大精霊の契約者たちが命を捧げることなく封印を完成させる方法が記されていると睨んでいる。だが、その内容は四人の契約者が揃わなければ解読できない」
ベルティアは恭しく巻物を受け取り、ローブの懐に納めた。「必ずや答えを見つけます」
「行け」セレンは頷いた。「だが覚えておくがいい。混沌の使徒団の真の目的は、サイラス・シャドウハートが第五の力の器となることだ。彼のみが儀式を完遂できる」
ベルティアが広間を駆け出そうとした時、入口の扉が勢いよく開いた。そこに立っていたのは血まみれのヴァルターと、彼に支えられたリーナ、そして若い男性——先ほど見かけた地の契約者だ。
「ベルティア!」ヴァルターが安堵の表情を見せた。
「ヴァルター!」彼女は駆け寄り、思わず抱きついた。「無事だったのね」
「なんとか」彼は苦笑した。「リーナが崖から落ちた後、我々のもとに戻ってきた。そして共に戦った」
リーナは負傷していたが、意識ははっきりしていた。「相変わらず強情な風の契約者だな」
青年は震える手でベルティアに会釈した。「地の契約者、ガルド・テラクレストと申します。お会いできて光栄です...できればもう少し平和的な状況でお会いできれば嬉しかったのですが」
「レイヴンとエレノアは?」ベルティアが周囲を見回した。
ヴァルターの表情が暗くなった。「エレノアは別の道で逃げ延びたはずだ。レイヴンは...奴らの足止めをしている」
彼らの会話を遮るように、魔法学院の外から轟音が響いた。窓から見える空の渦は、さらに大きく、さらに黒く、そしてその中心には赤い光が灯り始めていた。
「第五の力の解放が進んでいる」セレンが警告した。「水の契約者はまだ彼らの手の中だ」
ガルドが弱々しく言った。「ミーナ...彼女は死者の谷にある」
「水の契約者の名前か?」リーナが尋ねた。
「ええ、ミーナ・マリンディア。彼女は...私の婚約者です」ガルドの声には深い悲しみが滲んでいた。「我々は共に捕らえられたが、私は逃げ出すことができた。しかし彼女は...」
セレンが割って入った。「四人の契約者が揃わなければ、封印を完成させることはできない。水の契約者を救出せねばならない」
「死者の谷へ行くんですね」ベルティアは決意を固めた。
「危険だ」ヴァルターが忠告した。「谷はサイラスの本拠地。使徒団の魔術師が大勢いる」
「でも、他に選択肢はありません」ベルティアは強く言った。「母上は次の世代——私たちに希望を託した。私たちが揃えば、命を犠牲にせずに封印を完成させる方法があるはずです」
ガルドが前に出た。「私も行きます。ミーナを見捨てることはできません」
傷ついたリーナも力強く頷く。「私も行く。火の契約者の使命だ」
ヴァルターは一瞬考え込んだ後、剣を抜いた。「では、そういうことだな」
セレンは四人を見つめ、静かに頷いた。「希望はある。四人の契約者がまもなく揃い、そして四人を支える者たちがいる。これこそ、アイリスが信じた未来だ」
彼は杖を掲げ、床に魔法陣を描き始めた。「この転移魔法で死者の谷の入口まで送ろう。だが、それ以上のことは私にもできない」
魔法陣が完成し、青い光が四人を包み込む。ベルティアは母の指輪を見つめた。
「母上...あなたが信じた希望を、私は見つけます」
光が強まり、視界が白く染まる。転移魔法が発動する直前、セレンの最後の言葉が聞こえた。
「風の契約者よ、忘れるな。真の力は犠牲ではなく、結びつきにこそ宿るということを」
光が消え、四人の姿は魔法学院から消えていた。彼らが向かったのは、死者の谷——混沌の使徒団の本拠地であり、第五の力の解放が進む場所だった。
ベルティアの最大の試練が、今始まろうとしている。
「時間がない」セレンは四色の水晶の間に立ち、両手を広げた。「風の契約者よ、我々に残された選択肢は少ない。魔法学院の防御結界を維持するには、あなたの力を借りねばならない」
ベルティアは迷わず前に進み出た。「どうすれば良いのですか?」
「風の水晶に触れ、あなたの力を注ぎ込むのだ。私は他の三つと共鳴させる」
彼女が青い水晶に両手を置くと、温かく優しい感覚が体を包み込んでいく。まるで母の腕の中にいるかのような安心感。風の精霊が彼女を歓迎しているのだ。
ベルティアは目を閉じ、心の内で風の精霊に語りかけた。「力を貸して。大切な人たちを守るために」
青い水晶が明るく輝き始め、その光は徐々に他の三つの水晶へと伝播していった。セレンは複雑な魔法の詠唱を始め、四色の光が魔法学院全体を包み込んでいく。
「これで一時的に結界が強化される」セレンは息を切らせながら言った。「だが長くは持たない。我々には他の契約者の力も必要だ」
その時、魔法学院の入口方向から鋭い叫び声と激しい戦闘音が聞こえてきた。
「戦っている...」ベルティアは耳を澄ました。
「あなたの仲間たちだろう」セレンが答えた。「彼らは魔法学院にたどり着き、敵と交戦しているようだ」
ベルティアの心に勇気が湧いた。ヴァルターたちが無事だったのだ。
「助けに行かなくては」
「待ちなさい」セレンが彼女を制した。「その前に、これを」
老人は台座から古い巻物を取り出し、彼女に手渡した。
「これは『四契約の書』。おそらくは、四大精霊の契約者たちが命を捧げることなく封印を完成させる方法が記されていると睨んでいる。だが、その内容は四人の契約者が揃わなければ解読できない」
ベルティアは恭しく巻物を受け取り、ローブの懐に納めた。「必ずや答えを見つけます」
「行け」セレンは頷いた。「だが覚えておくがいい。混沌の使徒団の真の目的は、サイラス・シャドウハートが第五の力の器となることだ。彼のみが儀式を完遂できる」
ベルティアが広間を駆け出そうとした時、入口の扉が勢いよく開いた。そこに立っていたのは血まみれのヴァルターと、彼に支えられたリーナ、そして若い男性——先ほど見かけた地の契約者だ。
「ベルティア!」ヴァルターが安堵の表情を見せた。
「ヴァルター!」彼女は駆け寄り、思わず抱きついた。「無事だったのね」
「なんとか」彼は苦笑した。「リーナが崖から落ちた後、我々のもとに戻ってきた。そして共に戦った」
リーナは負傷していたが、意識ははっきりしていた。「相変わらず強情な風の契約者だな」
青年は震える手でベルティアに会釈した。「地の契約者、ガルド・テラクレストと申します。お会いできて光栄です...できればもう少し平和的な状況でお会いできれば嬉しかったのですが」
「レイヴンとエレノアは?」ベルティアが周囲を見回した。
ヴァルターの表情が暗くなった。「エレノアは別の道で逃げ延びたはずだ。レイヴンは...奴らの足止めをしている」
彼らの会話を遮るように、魔法学院の外から轟音が響いた。窓から見える空の渦は、さらに大きく、さらに黒く、そしてその中心には赤い光が灯り始めていた。
「第五の力の解放が進んでいる」セレンが警告した。「水の契約者はまだ彼らの手の中だ」
ガルドが弱々しく言った。「ミーナ...彼女は死者の谷にある」
「水の契約者の名前か?」リーナが尋ねた。
「ええ、ミーナ・マリンディア。彼女は...私の婚約者です」ガルドの声には深い悲しみが滲んでいた。「我々は共に捕らえられたが、私は逃げ出すことができた。しかし彼女は...」
セレンが割って入った。「四人の契約者が揃わなければ、封印を完成させることはできない。水の契約者を救出せねばならない」
「死者の谷へ行くんですね」ベルティアは決意を固めた。
「危険だ」ヴァルターが忠告した。「谷はサイラスの本拠地。使徒団の魔術師が大勢いる」
「でも、他に選択肢はありません」ベルティアは強く言った。「母上は次の世代——私たちに希望を託した。私たちが揃えば、命を犠牲にせずに封印を完成させる方法があるはずです」
ガルドが前に出た。「私も行きます。ミーナを見捨てることはできません」
傷ついたリーナも力強く頷く。「私も行く。火の契約者の使命だ」
ヴァルターは一瞬考え込んだ後、剣を抜いた。「では、そういうことだな」
セレンは四人を見つめ、静かに頷いた。「希望はある。四人の契約者がまもなく揃い、そして四人を支える者たちがいる。これこそ、アイリスが信じた未来だ」
彼は杖を掲げ、床に魔法陣を描き始めた。「この転移魔法で死者の谷の入口まで送ろう。だが、それ以上のことは私にもできない」
魔法陣が完成し、青い光が四人を包み込む。ベルティアは母の指輪を見つめた。
「母上...あなたが信じた希望を、私は見つけます」
光が強まり、視界が白く染まる。転移魔法が発動する直前、セレンの最後の言葉が聞こえた。
「風の契約者よ、忘れるな。真の力は犠牲ではなく、結びつきにこそ宿るということを」
光が消え、四人の姿は魔法学院から消えていた。彼らが向かったのは、死者の谷——混沌の使徒団の本拠地であり、第五の力の解放が進む場所だった。
ベルティアの最大の試練が、今始まろうとしている。
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