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大冒険への序章
酒場にて
しおりを挟む夜もすっかり更けた頃、ユリカの姿は冒険者達の集う酒場のなかにあった。
「ゴキブリ男と旅らんてねぇ、冗談じゃないわよぅ。
わらしは前世も現世も人間のっ、素敵な美少年と旅がしたーいのっ!」
馴れない葡萄酒に泥酔してくだを巻くユリカに、背後から声が掛かる。
「隣、空いてるかい?」
「はへ?
G以外なら、ね」
気の抜けた返事をして振り向くと、そこには冒険者風の青年が立っていた。
端正な顔立ちからは、そこはかとなく育ちの良さが感じられる。
「なら良かった」
青年はカウンターに座るなり、グラスの酒を一気に飲み干した。
「おっ、兄ちゃん。
いい呑みっぷりだな」
「そりゃ、どうも」
「おいマスター、火蜥蜴酒おかわり」
ユリカを挟んで反対側の席に魔導師風の男が座り、マスターに酒を追加注文した。
客もまばらな店内で、二人の男の雑談に付き合わされたユリカが居心地悪そうにしていると、
「なぁ、お前達。
俺と組むつもりはないか?」
ハロルドと名乗った魔導師が唐突にそう切り出した。
「生憎、旅の仲間なら間に合ってるよ」
答えたのは金髪剣士のジェイルだ。
「いや、組むと言っても今晩だけの即席パーティーでいいんだ。
実はとっておきの儲け話があってな」
ちびちびと安酒を啜りながらハロルドは声をひそめた。
「今晩だけ?
いったいどんな仕事なんだ」
ジェイルが微かに眉を上げて聞き返す。
「おっと、ここから先は話せねえ。
確実に手を貸すって保証がない相手にはな」
ハロルドは答えを催促するように二人の顔を眺めた。
「内容が話せないのなら、後は報酬次第だな」
ジェイルはあくまで慎重な態度を崩そうとしない。
しかし、それも当然の話だった。
いくら酒が入っていても普通の冒険者なら、危険が付きまとう事の多い依頼の安請け合いはしない。
それはこの業界で生き残る為の鉄則なのだ。
「……チッ、しっかりしてやがる。
いいか、誰にも言うなよ。
報酬は均等に分けて五千ジュラずつだ」
「五千っ?!」
ユリカは思わず立ち上がって叫んだ。
すぐさま周囲の視線に気付いて口に手を当てる。
五千ジュラもあれば当面の冒険資金には事欠かない上、腕のたつ護衛も何人か雇えるだろう。
「たまげたろ?」
「たまげはしたが、怪しさも増した。
竜退治でもしようって言うのか?」
「いいや、少しばかりの力仕事さ。
ただし、少ない人数で手早く済ませるって条件付きだ。
それを考慮して三人が妥当だと俺は考えた」
「……いいだろう。
一枚噛ませて貰うぜ」
商談成立の証として、二人はグラスを傾けて乾杯した。
「さて、先着あと一人だ。
嫌なら他の奴を当たるが俺も時間が惜しい。
嬢ちゃんはどうするね?」
「それって女の私でも出来る事なの?」
質問を質問で返しながら自分のグラスへと手を伸ばす。
金欠病の身としては有り難い申し出だが、足手纏いになるのは御免だった。
「勿論だとも。
むしろアンタにしか出来ない仕事もちゃんとあるぜ」
腕の立ちそうなこの二人が一緒なら、万が一何か起きても大丈夫だろう。
ユリカは報酬額に負け、ハロルドの誘いを承諾した。
店内にグラスを交わす音が鳴り響くと、三人はその場でパーティー登録を終えたのだった。
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