転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴カナリア

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  Ⅰ 父と子

 やっぱりダメなんだ

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 ファランは僅かに動揺したが、すぐに反論した。

「そ、そんなものは偶々であろう。
第一、あれは私をあの穴に落っことした張本人なんだぞ!」
「あの子はそんな野蛮な事はしていないと思いますよ。
ファラン様が逃げる蝶を追い掛けている内に、それこそ偶々転落したのではないですか?」
「……ぐ。
ゴキブリ風情が蝶ごときを庇いおって。
もう良いっ。
私は一人でも領主の責務を全うするのみだ!」

ファランは背中の虫取網を手に取ると、隠れていた茂みから勢いよく飛び出した。

「待って下さい!」
「きゃんっ」

思わず伸びたGの手がスカートの裾を掴み、ファランはあられもない姿で転んだ。
慌てて捲れた部分を隠すも既に手遅れだった。

「……二度も見たな。
父上にも見られた事ないのにっ!」
「ごめんなさい、うちのゴキ男がとんだ粗相を?!」

泣き出したファランの元に駆け寄り、頭を下げるユリカ。

「も、もう、お嫁にいけない……ヒック。
やっぱりダメなんだ。
こんな奴にまで足を引っ張られて。
私、父上が居ないとなんにも出来ない。
何一つ上手く出来ない……!
父上ぇ、うわぁーーーーんっ」

その時、泣きじゃくるファランの鼻先に月光蝶が止まった。

「……これ、は?」
「きっと慰めてくれてるんですよ。
さっき僕にしてくれたように」
「この私を慰める?
お前を捕まえようとしていた私を、慰めるだと?
……ふざけるな。
嘲笑っているの間違いであろうがっ‼」

涙を拭おうともせず立ち上がり、落ちていた虫取網を拾いあげる。
そして-。

「この、愚か者が!」

渾身の力を両手に込めると、ファランはその柄を真っ二つにへし折った。

「……愚か者……私の、愚か者め」

ポロポロと大粒の涙が溢れ落ちる。
月光蝶は動じる様子もなく、ファランの上で羽を休め続けていた。

「私はいつの間にか、過去の自分を月光蝶に重ねていた。
自由で無垢な存在を殺める事で、これまでしがらみの意味すら知らなかった己と決別し、立派な領主として認められようと必死だった。
すべてはマラカーンの民の為、ロズラファエル家の威信の為、亡き父上の誇りを守る為に。
……でも、やはり無理みたいだ。
領主と言う立場は、十五の私には荷が重すぎる。
何をやっても失敗ばかり、皆にさんざん迷惑を掛け、私はいつも期待を裏切ってばかりなのだ。
必死になればなるほど、どうして物事とは上手くいかないのだろうな。
名ばかりの領主と貴族達の間では悪評も立っている。
それでも私は父上の愛したこのマラカーンを護りたい……どんなに無能と笑われようと、この手で護りたいのだ」

ファランの頬を濡らす雫が、月に照らされて淡く光っていた。
彼女が己を月光蝶だと言うのなら、その涙は思いのままに羽ばたく為の羽なのかも知れないとユリカは思った。
そして自分にも、その羽があればと願った。


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