転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴金糸雀(KanariKanaria)

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  Ⅱ 愛しき人

 マイペースでいこう

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「おい、獣臭いの。
僕とは少し離れて歩けよ。
そんな臭いが移っては皆の笑い者だからな」

猫族の姉弟をそう皮肉ると、クレードは一人で門の外に出て行った。

女性レディーになんて失礼なやつにゃ。
ネムは酒臭いとは言われても、獣臭いと言われた事は一度だってないにゃよ!」
「……皆さん。
どうかよろしくお願いします」

挨拶を終えた後、Gは仲間達と共に街を出てクレードの後を追った。
その表情は暗く沈み込んだままだ。
本当は直ぐにでもラウォール山に飛んでいき、元凶である不死竜を倒したい。
しかし、いかにチートスキルを持つ身と言えど、四体の古代竜を同時に相手取る事は困難を極める。
一刻を争うこの状況で、他の者に愛する人の命運を託さなければならない事。
それがもどかしく、Gの心は嵐のように乱れていた。

「む~、こっちの男の子はちょっと力み過ぎにゃ」

頬をペロリと舐められ、驚いたGはネムネムの顔を見た。

「そんなに思い詰めてたら、格下相手にも後れをとるにゃ。
恋は焦らず、戦も焦らず。
マイペース、マイペースにゃ~♪」

陽気な声が空へと響き、Gの口元に笑みが戻っていく。

「……そうですね。
猫さんを見習ってマイペースでいきます。
前世では色々ありましたが、この世界では仲良くして下さい」

その言葉に猫族の姉弟は不思議そうに首をかしげた。
古来より、ゴキブリにとって猫は天敵である。
生まれながらの狩人であり、持ち前の俊敏性と鋭い爪を武器に獲物を捕らえる彼らは、動くものに異常な興味を示す反面、止めを刺して動かなくなった相手には見向きもしなくなると言う、非常に気紛れで傍迷惑な存在であった。
Gも前世では何度追い詰められ、命からがら逃げ延びたか解らない。
その時のトラウマが残ってはいるものの、だからこそ味方としての頼もしさも感じていた。

「申し遅れましたが、Gと言います。
転生前はゴキブリでした」

ネムネムとディガロの耳がピクリと反応した。

「ご、ゴキブリさんにゃ?」
「マジッスか、それってマジッスかっ?!」

爛々と輝く二人の瞳にやや気圧されながら、Gはそれを肯定した。

「ゴキブリ大好きにゃ~~っ!」

ネムネムがGに飛び付く。

「ええっ?!
人からそんなこと言われたのは初めてですよっ。
なんだかとっても嬉しいです!
だけど、Gには二本足さんと言う心に決めた女性が……」
「それで、ど、どんな動きッスか?!」
「動き?」

ディガロが興奮気味に身を乗り出した。

「ネムはガサカサ、からのカササッが一番好きにゃ~」
「お、俺は緩急つけたシャカピタに目がないんッス‼」

猛烈なハイテンションでGを囲み、盛り上がる猫族の姉弟。
その前方には地図を確認しながら無言で歩むセツハ、更に五十メートルほど離れて先行するクレードの姿があった。
休む事なく歩き続け、ラウォール山の雄大な景観がようやく眼前に広がった頃。
G一行に運悪く目をつけた男達がいた。
この辺りを縄張りとする山賊団、暁の狼である。

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