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Ⅲ 竜殺しの英雄
儚き微笑
しおりを挟むセツハが声を絞り出すと、不死竜を囲む東西南北の結界から四色の帯が天空に伸び、中央で交わった。
「黄龍招来」
無数の閃光が弾け飛び、空を裂く稲妻が獣の姿へと形成されてゆく。
徐々に光が収まった後、そこには黄金色の鬣を靡かせて地上を睨む光の龍が座していた。
目映いばかりの姿を見せたのも一瞬。
黄龍は一筋の光矢となって不死竜の胸の核を貫いた。
「土剋水……滅」
紡がれた言の葉と共に、骨の巨躯が音を立てて沈んでゆく。
「セッちゃん!」
痛めた足の事も忘れ、空中に投げ出されたセツハの体を無我夢中でキャッチするディガロ。
ふわりと真珠草の香りが漂う。
そうか、この匂いは-。
見事に着地に失敗し、二人の体が重なり合うように倒れた。
「いててっ。
なんとか倒せたみたいッスね」
「……はい」
黄龍の残した細かな光の粒子が、勝利を祝うように空から降り注いでいた。
「最後のあれ、物凄い強さだったけどなんだったッスか?」
ゆっくりと体を起こすセツハにディガロが訊ねた。
「四方の結界によって召喚が可能となる聖獣達の王、黄龍です」
「ふへぇ、姉ちゃんが勝てない訳ッス」
「少し休んだら足を治療します」
「セッちゃんの後でいいッスよ。
俺はそれまで花の香りでも嗅いでるッス」
「……」
二人は並んで湖畔に腰を下ろした。
溶けきらなかった氷が水面に点々と浮かんでいる。
激しい戦闘による影響で、森の地形はすっかり変わっていた。
だが、その甲斐あって致死ダメージを受けた不死竜が再生を終えるまで、相当の時間を必要としそうだった。
(湖班、一体を撃破しました)
(さすがセッちゃんにゃ~!)
セツハの言葉にネムネムは声を踊らせた。
(お、俺も頑張ったッスよ!)
(それは嘘だと思うにゃ~。
どうせ足でも挫いて死ぬ死ぬ言ってただけにゃ)
「ど、どっかで見てたッスか、姉ちゃんっ?!」
ディガロが辺りをキョロキョロと見回した。
(帰ったらおしおきにゃ!)
(では、それまでに歩けるようにしておきますね)
(むむ、やっぱり役立たずだったぽいにゃ)
(……そうでも、ありません)
夕暮れの光に照らされたセツハの口許が、少しだけ微笑たように見えた。
きっと、錯覚だろう。
感情のないこの娘が笑う事など、有り得ないのだから。
「姉ちゃんに言うなんて酷いッス。
内緒にしといて欲しかったッス」
「それより、もうすぐ夕陽が沈みます」
湖から風が吹き、セツハの髪を巻き上げた。
そこにあったのはいつもと同じ無表情だ。
「こんなのをあと三体も、本当に倒せるッスかねぇ」
セツハの治療を受けながら、ディガロは大きな溜め息を洩らした。
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