57 / 102
Ⅴ 雨に濡れた日
マニアックな提案
しおりを挟む朝陽の照らす、街外れの噴水前。
ディガロは呆れ顔で姉の話を聞いていた。
「と言う訳で姉ちゃんは今日から、ラトの護衛をしつつ魔鉱石探しをする事になった」
えっへんと胸を張るネムネム。
「……はぁ。
あの姉ちゃんが珍しく依頼を受けてきたと思ったら、あるかどうかも解らない石ころ探しッスか」
「石ころとはなんだ、石ころとは。
金剛石にも勝る値打ちを秘めた稀少石だぞ。
一攫千金だぞ?!」
「見つからなければ価値なんてないッスよ。
高かった王都行きの馬車券、無駄にする気ッスか?」
弟の言い分はもっともだった。
しかし、ネムネムが依頼を引き受けたのは報酬だけが理由ではない。
「……ディガロ。
イミナットを覚えているか?」
ざわりと風が木々を揺らし、太陽の光を隠した。
ディガロは何か言おうと口を開きかけ、無言で小さく頷いた。
「似てるんだ、ラトは。
特に笑った時の顔なんか、イミナットに生き写しだ」
「でもイミナットは、もう」
「解ってるさ。
でも同じ顔で見詰めてくるあの青年の頼みを、私は断れない。
あいつの、ラトの力になってやりたいんだ」
いつになく真剣な姉の眼差しは、ともすれば悲壮感に満ちているようでもある。
未だに過去を忘れられずにいるのだ。
ディガロは大きな溜め息を吐くと、ビリビリと二枚のチケットを破った。
「あーあ、王都行きは保留ッスね。
でも、この暑いなか石ころ探しなんて俺はごめんッス。
引き続き、領主の館の警備でもしてるッスよ」
「……ディガロ、ありがとう」
「その代わり。
魔鉱石とやらが見つかった暁には、なんか奢って欲しいッス」
ディガロに笑顔で見送られたネムネムは、待ち合わせの門の前に急いだ。
最愛の人の面影を湛えた、人間族の青年が軽く手を上げる。
「待たせたな」
「いや、全然。
それじゃあ行こうか、ネム」
ラトからいきなり愛称で呼ばれ、
「わ、わた、私の名前はネムネムだっ!」
赤面しながら抗議する。
「二回繰り返すのも面倒だし、ネムでいいだろ?」
ネムネムは目を泳がせながらも、観念したようにこくりと頷いた。
この笑顔には逆らえない。
「よし、じゃあネム。
これから宜しくな」
差し出された手を取り、そっと握って応える。
掌の温もりが伝わると胸が苦しくなり、ネムネムは乱暴に握手をほどいた。
「もしかしてお前、汗っかきか?」
「ふにゃっ?!」
緊張で手汗をかいている事に気付き、ネムネムの顔が更に染まる。
「き、き、今日は暑いにゃから……」
酔っている訳でもないのに呂律がまわらない。
「ははっ、さっきから面白いやつだな。
よし、じゃあ今度から猫族らしく、語尾に『にゃ』って付けてくれよ」
「わ、私は誇り高き猫族だぞ?!
そんなマニア受けするような真似、誰がするかっ!」
「そうかぁ?
俺は可愛いと思うけどな。
あ、それって俺もマニアってこと?」
「……くうぅ、イミナットの顔さえしていなければ殴っているところだ。
ふざけてないで、さっさと森に行くぞ!」
「イミナット?」
首をかしげるラトを置き去りに、大股で街の外に出た。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる