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Ⅴ 雨に濡れた日
ネズミと小石
しおりを挟む「今年こそ、今年こそはいけると思ったんだけどなあ」
徐にカウンターに小銃を置く。
「お、お客さん!
そんな物騒な物、引っ込めて下さいよ」
「大丈夫だって。
こいつの弾倉はこの通り、空っぽさ」
リボルバーの回転式弾倉をカラカラと回すと、ラトは馴れた手付きで銃を分解した。
中央部に蒼翠色に輝く小石が嵌め込まれている。
「珍しい石だな」
それは世界中を旅する少女でさえ、初めて見る石だった。
「魔鉱石ってんだ。
俺が考案した新しい武器の核になる……予定だ。
今朝の骨董市で破格だったこいつを見付けた時は飛び上がったが、古老の話じゃ一昔前まではこの辺りでよく採れたらしい。
稀少価値がついて、今では欠片一つで十万ジュラは下らない激レアなんだぜ」
「へえ。
十万もあれば、それで商売を続けていけるんじゃないか?」
「いや、せっかく手に入れた魔鉱石を手離すつもりはないよ。
俺は金なんかより、こいつを使ってあっと驚くような最高の武器を作りたいだけなんだ」
「それは職人気質と言うやつか?
生活に困窮して田舎に帰ろうかと言う男が、よくもまあ。
金より大事なものなんて、命くらいしか無いだろうに」
少女は達観したようにジュースを啜った。
背中の剣が鈍く光る。
「……そうだ。
そう言えば、お前も冒険者なんだよな?!」
「お前じゃない。
私の名前はネムネム、猫族の傭兵兼冒険者だ」
種族の特徴の一つである獣の耳をピンと尖らせ、ネムネムは不機嫌そうに反論した。
「ラット、と言ったか。
私が冒険者なら、なんだと言うんだ?」
「ラト、な。
ラットってたしかネズミだろ」
「ネズミは大好きだぞ。
あのペタペタからのトタタタッがたまらん」
「……うん。
ちょっと何を言ってるのか解らない。
ええと、突然なんだけどネムネム。
少しの間、俺の護衛として雇われてみるつもりはないか?」
ネムネムはラトの顔をじっと見た。
酔った勢いで冗談を言っている訳ではなさそうだ。
「私は仮にもS級だ。
安い依頼は受けないぞ?」
先程の革袋がカウンターの上に置かれる。
「こんなはした金じゃ足りないだろうが、前金として受け取ってくれ。
もし、引き受けてくれるなら成功報酬としてこれの百倍を支払う」
「……ぷっ」
思わず吹き出してしまった。
「貧乏職人にそんな大金、工面できる訳がないだろう?
私を担ぐつもりなら」
その手を握りしめられ、ネムネムはハッとなる。
「頼む、俺を信じてくれ!
お前さえ協力してくれれば、最高の武器が作れるんだ。
オーケーなら明日から、ラカーサの森に同行して欲しい」
「ラカーサ?
この街の外に広がる森林か。
あんな場所になんの用がある?」
「……こいつを探すのさ」
ラトは妖しく光る魔鉱石に視線を落とした。
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