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Ⅴ 雨に濡れた日
階級札
しおりを挟む見ると確かに少女の袖口が僅かに変色していた。
男達が顔を見合わせて爆笑する。
「そいつは悪い事をしたな、嬢ちゃん。
帰ってママにでも洗ってもらいな」
頭を撫でようとした男の腕を掴むと、少女はそれをねじ上げた。
途端に男の口から悲鳴が上がる。
「聞こえなかったのか、三下。
私は『弁償しろ』と言ったんだ」
「この餓鬼ィ!」
反対側の腕で殴ろうとした男の拳を体を捻ってかわし、今度はその顔面に強烈な膝蹴りを見舞う。
ごろつきの歯が欠け落ち、白目を剥いて崩れ落ちた。
「払うのか、払わないのかはっきりしろ。
後日、病院にまで取り立てに行くのは面倒なんでな」
腕力、速さ、身のこなし、どれを取っても只者ではない。
一度は抜いたナイフを鞘に納め、リーダー格の男は改めて少女を観察した。
首から下げられた金色に輝く階級札。
「なるほど、道理で強い訳だ。
まさか、こんな餓鬼がS級冒険者とはな」
その言葉で酒場の中にどよめきが起きる。
気絶からようやく目覚めた青年は、まだ立ち上がれずに事の成り行きを見守っていた。
「ほらよ、持っていきな」
床に投げられた勢いで、革袋の口から数枚のコインが溢れる。
「ま、待ってくれ、イディアム。
それじゃあせっかく手に入れた金が」
「黙れ、もう行くぞ」
イディアムはごろつき達を従え、静かに店を出ていった。
拾い上げた袋の中身を確かめると、少女は散らかった店内を歩いて青年の前に立った。
「あんたは馬鹿か。
あんな悪党が真面目に依頼なんて受ける訳ないじゃないか」
その手に革袋を握らせ、カウンターに座る。
慌てて礼を言うと、青年はその隣に腰掛けた。
盛り上がっていた客達がすっかり自分の席に戻り、呑み直しを始めた頃。
「……普通の冒険者を雇えるだけの金がなくてな。
仕方無かったんだよ」
肩を落としてそう呟くと、青年は事の経緯を少しずつ話し始めた。
「俺はラト。
田舎での長い修行を終えて、一人前の武器職人になる為にマラカーンにやってきたんだ。
でも、都会じゃ頼れる伝もなく、武器の売り上げも全然伸びなくてさ。
そろそろ荷物をまとめて田舎に帰ろうかと、昨日までは思ってた」
そこまで話すと青年は葡萄酒に口をつけた。
「それは奇遇だな。
私もこの街での稼ぎを諦めて、弟と一緒に王都にでも向かおうと思っていたところさ。
なんでも近々、なんとかって言うお祭りがあるらしいじゃないか」
「一月後の聖鍛祭の事か?
あの祭りのメインは、ヴァルサーンでもっとも優れた武器職人を決める大品評会さ。
優勝すれば特級職人の栄誉と大金が手に入り、王家のお墨付きで城下に店を出す事が許される。
どうだ、すげーだろ?!」
ラトは舞い上がった様子で興奮気味に言うと、再び萎んだ風船のように項垂れた。
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