転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴カナリア

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 Ⅴ 雨に濡れた日

 飲み物の恨み

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 この街とも明日でお別れか。
大剣を背中に携えた少女は、商人の荷馬車が行き交う夜の大通りを室内から眺めていた。
大陸有数の大都市の割に依頼クエストの数が少ないのは、王国軍が定期的に実施している魔物討伐が芳しい成果を挙げているからだろう。
しかし、多くのヴァルサーン国民の喜びとは裏腹に、戦いを生業とする傭兵や冒険者にとってはありがた迷惑な話である。

「親父ぃ、もう一杯」
「お客さん、そろそろ止めといた方が」
「うるせー。
稼がせてやろうってんだ。
つべこべ言わずによこせ」

少女は酒場の親父マスターの手から葡萄ジュースを引ったくり、あっという間に飲み干した。

「ぷはーっ。
五臓六腑に染みるねぇ」
「そんなに飲んでると、また弟さんに叱られちまうぜ?
……うん?
どうも、ありゃあ喧嘩だな」

客同士の揉め事に気付いた親父が、カウンターを出てフロアの片隅に歩いてゆく。
チラリと目をやると、この辺りで幅を利かせているごろつき達と腰に前掛けを巻いた青年が睨み合っていた。

「話が違うじゃないか!」

顔を真っ赤にして青年が怒鳴る。
その剣幕に動じる事なく、砂色の髪をしたリーダー格の男がとぼけた口調で答えた。

「世間知らずの坊っちゃんが吠えるんじゃねえや。
俺たちゃ、前金を貰えれば考えてやってもいいと言っただけだ。
依頼を受けるなんて一言も言ってねえぞ」
「なんだとっ!」

掴みかかろうとするもひょいとかわされ、床へと転倒する。

「なんだァ、喧嘩か?」
「いいぞ、ぶっ殺しちまえ!」

酔っ払った客達から無責任な野次が飛び交う。
仲裁に入ろうとした酒場のマスターは、ごろつきの一派に拘束されていた。
だが、青年が懐から短銃を取り出して構えると、銃口を向けられた男達の顔から一斉に笑みが消えた。

「撃たれたくなかったら、僕の金を返せ」
「止せやい。
手が震えてるぜ、坊や?」
「うるさい!
この距離なら目を閉じてたって外さないぞ」
「……金ならここに入ってる。
持っていくなら好きにしな」

ごろつきはそう言うと自分の懐を指し示した。
警戒しながらじりじりと近付き、青年が男の懐をまさぐる。
そのとき背後から重い一撃を受け、青年の体がカウンターまで投げ飛ばされた。
ごろつきの仲間の大男が雄叫びをあげて胸を叩く。
ぶつかった衝撃で台の上の酒が飛び散り、埃っぽい床を枕に青年は気を失った。

「ガッハッハッハ。
残念だったな、坊や。
こいつは勉強代として頂いていくぜ」

男達が店を出ようとした時。

「……待て」

大剣の少女が後ろから呼び止めた。

「なんだ、テメエ。
ここは餓鬼の来るところじゃねえぞ」

ごろつきの一人が少女に向かって酒臭い息を吐く。

「なぁに、すぐ終わるさ。
さっきの騒ぎで飲んでいた葡萄ジュースが溢れて、服を汚してしまってな。
私はその代金を請求しに来ただけだ」

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