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Ⅳ 凶禍
見知らぬ害虫
しおりを挟む熱の籠った瞳に見詰められ、ユリカの胸がときめく。
王子様が、この私に愛の告白を-。
幼い頃からずっと夢見ていた憧れのシチュエーション。
白馬に乗ったイケメンの王子様と結婚し、贅沢で幸せな毎日を送ること。
転生してからそれだけを願って生きてきたユリカにとって、それは願ってもない申し出だった。
「……あの、私なんかで本当にいいんですか?」
クレードの蒼い瞳に問い掛けながら、二人の唇が重なりあう程に近付いてゆく。
「もちろんさ。
僕の花嫁は君以外に考えられない」
ユリカが目を閉じ、その肩を抱かれた時。
蠢くものに気付き、クレードの動きがピタリと止まった。
「……忌々しい」
「え?」
そう言って眉根をつり上げると、クレードはベッドのシーツを捲りあげた。
カサカサと四肢を動かし、黒い物体が横切る。
「きゃあっ、ゴキブリ?!」
ベッドの傍から飛び退くユリカ。
「大丈夫。
ただの害虫だ」
逃げ惑うゴキブリを手で捕まえると、クリードはそれを握り潰した。
ゴキブリの触覚がちぎれ、内臓が指の間から垂れ落ちる。
「……可哀想」
言ってからユリカは慌てて口を閉じた。
自分はどうしてゴキブリに対して、そんな風に思ったのだろうか。
「ゴキブリなんて、あのG同様。
すべて死んでしまえばいい。
ユリカだってそう思うだろう?」
まるで人が変わったようなクレードの口振りに、ユリカは当惑した。
「クレード様。
そのGと言うのは、いったい誰の事ですか?」
僅かに不審な表情を見せるクレード。
しかし、何かに思い当たると急に口元を押さえて笑い始めた。
「……ククク。
ハハハ、アーハッハッハ!」
狂ったように哄笑するクレードを、心配そうに見守るユリカ。
「これはまた、なんと言う神の采配だ!
ユリカ、もう一度確認させてくれ。
君は弟を、あのゴキブリの事を本当に忘れてしまったと言うのか?」
ユリカはおそるおそる頷いた。
クレードは本当にどうしてしまったのだろう。
そしてGとは?
前世でもこの世界でも、そんなおかしな名前に心当たりはない。
「ユリカ。
これで二人の愛を邪魔する者はいない。
そうだ、式だ、結婚式だ。
五日後の君の誕生日に合わせて、国をあげて盛大な結婚式を挙げようじゃないか!」
「でも、まだ私達。
出会って間もないし」
「何を言っている。
僕はこの日が来るのを十六年も待ち続けていたんだよ。
大丈夫、ユリカの事は必ず幸せにする。
口づけは式当日までお預けとしよう」
クレードのその言葉には抗えない魔力が宿っていた。
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