転生者Ｇ－転生前はゴキブリでした－

Ⅳ 凶禍

転生者

　見覚えのない寝室で目を覚ましたユリカは、ぼんやりとした頭で思考を巡らせていた。
ここはいったい何処なのだろう。
記憶を辿ってみる。
商業都市マラカーンに不死竜が突然現れ、新領主のファランが兵を指揮して懸命に街を護っていた。
自分はその戦闘に巻き込まれて不死竜の爪で傷付き、そのまま意識を失ったのだ。
ならば、ここは領主の舘だろうか。
たしかに豪華な調度品が並んではいたが、ここまで荘厳華麗な内装ではなかった筈だ。
ゆっくりとベッドから下りてみる。
背中に巻かれた包帯が痛々しいが、焼けるようなあの痛みはすっかり無くなっていた。
一歩、二歩と回復を確かめるように窓際まで進み、外の景色を見てユリカは驚いた。
繁栄を極めた王都コンバットの街並みが、眼下に壮大に広がっていたからである。
思わずその場にへたり込む。
と、後ろから扉を開ける音がした。

「あぁ、良かった。
気が付いたんだね」

振り返ると黄金色の髪の少年と目が合った。
空色の瞳に愛しさを湛えた眼差しで、少年がユリカに微笑みかける。
均整の取れた目鼻立ちに、貴族が着るような装飾品の散りばめられた衣服。
街を歩けば誰もが振り返るであろうその容姿は、気高い輝きに満ち溢れていた。

「あ、あの。
失礼ですが、貴方はいったい?」

一目で少年に心を奪われたユリカは、頬を染めながらそう訊ねた。

「あぁ、ユリカ。可哀想に。
恋人である、この僕の事を忘れてしまうなんて」
「恋人っ?!
わ、私は貴方とは初対面の筈ですけど」

逆上のぼせた頬を自ら叩くと、ユリカはすっと立ち上がって後退りした。
騙されるな。
この少年は新手の詐欺か、この前みたいな人拐いかも知れない。
とすれば自分は奴隷として、ルッツベルクの貴族にでも売られてしまったのだろうか。
想像しただけで背筋がゾッとする。

「記憶が混乱しているのも無理はない。
まぁ、転生した当初よりはマシだと思うけどね」

にこやかな表情を浮かべる少年。

「……転生したって。
まさか貴方も転生者なの?」

ユリカは瞳を大きく見開いた。

「僕の名はクレード。
ヴァルサーン王国の第一王子にして転生者。
そして、前世で君の婚約者フィアンセだった者さ」

少年が自分の名を口にした時、僅かに心に引っ掛かるものを感じた。
しかし、それはユリカにとって些細な違和感であり、一国の王子が自分の寝室を訪れた事の方が遥かに大きな謎だった。

「く、く、クレードって、あの白銀の閃光のクレード様?!
どうして王子様が私の寝室なんかに」

クレードは慌てふためくユリカの手を取り、そっと握りしめた。

「ここは王城だよ、ユリカ。
優秀な魔導師に診て貰う為に、僕が君を城まで運んだんだ。
僕は転生してからずっと君の事を探していた。
どうか、僕の妻になって欲しい」