転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴カナリア

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 Ⅴ 雨に濡れた日

 涙の理由

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「だろうな。
お前、顔は可愛いのになんか恐いもん」
「女の子に向かって怖いとは何事かっ?!」
「ほら、恐いだろ」
「……そ、そう言う自分はどうなんだ」

ネムネムは拗ねたような口調で言った。

「……いるよ。
前の戦争で死んじまったけどな」

ラトの言葉に止めどなく、涙が溢れた。
理由は解らない。

「あ、おいっ。
なんでお前が泣くんだよ?!」
「……解らない。
だけど、私も大好きだった人。
イミナット、戦争で死んじゃったから」
「……そっか」

大切な人を失った痛みを知っている者同士だからなのか、その頭を撫でる手が優しかった。
ネムネムは語った、昔の事を。
彼女がいかにイミナットを愛し、イミナットがいかに彼女を愛してくれたかを。
ただ、切々と語った。
その話が終わるまで、ラトはずっと頭を撫でてくれていた。
それは愛した人の分身ではなく、一人の人間としてネムネムがラトに心を許した瞬間だった。

「俺が武器職人になろうと思ったのはさ。
最強の武器を作って、悲しみしか生まない戦争を一刻も早く終わらせたかったからなんだ。
だから今は、武器が恋人。
人生の大事な場面ではいつも持ち歩くようにしてるのさ」
「ず、ずいぶん重い恋人だ……にゃ」

反応を伺うように横目でラトを見ると、彼は少し驚いた表情を浮かべて、笑った。

「うん、これで恐くなくなった。
やっぱ俺、マニアなのかもな」

再びネムネムの頭をぐりぐりと撫でる。

「い、言っておくけど、お前が傍にいる間だけだからな!
傭兵って言う商売は、嘗められたら終わりなんだ」
「にゃ、だろ?」

ラトに見詰められ、

「……にゃ」

ネムネムは赤い顔で小さく呟いた。
休憩を終えた二人は更に森の奥へと進んだ。
二日、三日、一週間、二週間。
来る日も来る日も魔鉱石の探索は続いた。
飽きっぽい性分の姉が愚痴一つ溢さないのを不思議に思いながら、ディガロは毎晩汗と泥塗れになって帰ってくるネムネムを陰ながら応援していた。
そして、聖鍛祭まで残り一週間と迫った、ある日。
諦めかけていた二人の前に、七色の羽の蝶が姿を見せたのである。

「ラト、あれって……」
「あぁ、月光蝶だ」

初日の探索で打ち解けて以降、二人は古くからの友人のような関係になっていた。
元々、互いに遠慮のない性格だ。
同じ苦労を味わう事で時に励まし合い、時に喧嘩をし、仲直りを繰り返す事でその絆は短時間で急速に深まっていった。
ネムネムは心のどこかで、このまま魔鉱石が見付からなくてもいいと考え始めていた。
もしもこの依頼が達成されれば、もう大好きなラトの傍にいられなくなる。
別れの瞬間を思うと、ネムネムの胸は張り裂けそうだった。
ラトは確かに優しくしてくれる。
でもそれはあくまで、雇った冒険者を依頼主として気遣っているに過ぎない。
恋愛感情では、ない。
こんなおかしな耳と尻尾の生えた自分の事など、普通の人間であるラトが好きになってくれる筈もないのだ。

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