転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴カナリア

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 Ⅴ 雨に濡れた日

 波紋

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「姉ちゃーん?
俺の新しい歯ブラシ……」

滞在中の宿屋の隣室をノックしてみるも、姉からの返事はない。

「またラトさんの工房ッスか。
もう依頼は終わったって言うのに、ちょっと嫉妬ジェラシーッス」

お姉ちゃん子のディガロは頬を膨らませたが、廊下からの視線に気付いて慌てて表情を戻した。

「ええと、たしか」
「セツハです」

無表情に少女が答える。

「そ、そうだ。
セツハさん、俺に何か御用ッスか?」

女性慣れしていないディガロは、視線を合わさずに訊ねた。

「領主様からの伝言です。
本日予定していた鷹狩りは、雨天のため中止にするとの事です」
「あぁ、そうッスよね。
この雨じゃあ鷹もタカくは飛べない、なんて」
「それでは、私はこれで失礼します」

セツハが立ち去った後。

「なんて無愛想な女ッス。
あら面白い、の一言も無しッスか!」

己のセンスのなさを棚にあげ、悪態をつくディガロだった。
その頃、食料の買い出しから戻ったネムネムは、昼食を共にしようとラトの工房の扉を開けた。
瞬間、押し出すような熱気に圧倒される。
煉瓦で組まれた高炉から泥々に融けた鉄を鋳型へと注ぎ込み、その変化をじっと見守るラトの表情には鬼気迫るものがあった。
どんな小さな部品も自分の拘りを元に型を作り、一から完璧に仕上げてゆく。
そこに一切の妥協は許さない。
当然その分コストも時間も掛かるが、物作りにおいて品質の向上を目指さないのは死んでいるのと同じ、と言うのが彼の持論だった。
全身から噴き出す珠のような汗を拭う事も忘れ、銃造りに没頭するラト。
何度も鍛練を繰り返し、数時間かけてようやく出来た一丁の銃を見て、彼は落胆した。
俺が造りたいのはこんな欠陥品じゃない。

「ラト……また駄目だったにゃ?」

ネムネムから遠慮がちに声を掛けられ、ラトは窶れた顔で頷いた。
森から戻った翌日から、もう五日間も不眠不休で作業を続けている。
とりつかれたように炉の前に立つラトは満身創痍だったが、一言も弱音を吐かなかった。
ここはラトの戦場なのだ。
どれだけ心配だとしても、門外漢の自分が手を貸す事は出来ない。
ネムネムに出来るのはラトを励まし、せめて美味しい食事を作って支える事だけだった。
しかし、今日中に完成させなければ聖鍛祭には間に合わない。
ラトの体力と精神は限界に達していた。

「……魔鉱石のストックがもう。
それに鉄が、鉄がないんだ」

初めて、悲観的な声が工房に洩れた。
彼の工房には魔鉱石を売った金で購入した、最上級の鉄鉱石が並んでいる。

「鉄ならそこにも、ここにもいっぱいあるにゃ」
「違う!
こんな屑鉄じゃ、魔鉱石のエネルギーには耐えられない!」

人が変わってしまったように声を荒げるラト。

「……怒鳴ってごめんな。
あとは素材だけなんだ。
もっと強くて、しなやかな鉄じゃないと駄目なんだよ」
「そんな鉄、今から探してる時間はないにゃよ。
……でも、これなら」

ネムネムは自分の愛剣を鞘から抜き放つと、ラトの前に差し出した。

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