転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴カナリア

文字の大きさ
92 / 102
 Ⅷ 死期と式

 空を見上げて

しおりを挟む

「この足音は……ゴキちゃん!」

ユリカは引き出しから虫取り網を取り出すと、部屋の隅に置いていた紙袋をそっと退けた。
-カサカサカサ。
予想通り、大きな黒ゴキブリの雄が壁を斜めに横切って逃げてゆく。

「甘いっ!」

それを網で難なく捕獲すると、ユリカは宝石でも眺めるかのようにプラケースに入れて観察した。

「この黒光りする全身の艶、ゆらゆら揺れる触角。
かっこいい~!
やっぱりゴキブリは茶羽より黒ゴキよね」

普通の女子なら口から泡を吹いて卒倒ものである。

「よし、八匹目の黒ゴキちゃんだから、貴方の名前はG。
これから宜しくね、G」

それからは両親に見つからないよう、小型のプラケースにGを入れて毎日一緒に過ごした。
暮井戸は相変わらず何度も言い寄ってきたが、Gに愚痴る事でユリカのストレスは緩和されていた。
人に見せても気持ち悪がられるだけなのは十分承知していたので、誰もいない時にだけユリカはGをプラケースから放した。
Gはユリカにすっかりなつき、肩に乗ったり、胸ポケットに入って眠ったり、餌を追いかけて遊んだり、ときおり恥ずかしそうに体をくねらせたり、色々な表情を見せてくれた。
はたから見ればゴキブリを飼うなど、頭がおかしいと思われるだろう。
しかし、ユリカにとっては全ての虫が友達であり、惜しみない愛情を注ぐ対象なのだ。
二人は種族の壁を越え、簡単な意思疏通が出来るほど心を通じ合わせていた。

「ほら、空を見てG。
星に手が届きそうだね」

空気が澄んだ冬の夜。
仕事の帰りに立ち寄った丘の上から、ユリカは星空を見上げていた。
この場所は地元でも有名な観測スポットで、天気の良い日には街灯に霞む事なく満天の星が観れる。

「あの明るい星は何かしら?」

Gと二人。
知識のない者同士、首をかしげる。
と、Gがポケットからカサカサと地面に下りると、捨てられていた雑誌をくわえて戻ってきた。

「……あの星の写真だ。
宵の明星、あれは金星なのね。
教えてくれてありがとう」

嬉しそうに触角を踊らせるG。
その頭をユリカは優しく、そっと撫でた。
Gと出会ってもう半年が経つ。
もうじき小さな友達は寿命を迎え、天に旅立ってしまうだろう。
ユリカのそんな気持ちを察したのか、Gは彼女の掌でくるくると回っておどけて見せた。

「ふふふっ。
くすぐったいよ、G」

指で涙を掬って立ち上がる。
残された僅かな時間、この子と一生分の思い出を作ろう。
Gを再びポケットに仕舞うと、ユリカは明星に見守られて家路を辿ったのだった。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...