運命と運命の人

なこ

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第6章

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⚠️BL感ゼロの回です。BL作なのに。話しの流れで必要な回です。ごめんなさい⚠️




「お前には、今までお前が享受すべきだったものを全て与える。この先、ここに居場所を作れるかどうかは、お前次第だ。」

見据える王の瞳を、まだ10歳のカイゼルは漆黒の瞳でただじっと捉えていた。





学園へと入学したカイゼルは、その身体の大きさ、褐色の肌に漆黒の髪色、その瞳、鋭い眼光、王弟という地位、全てで他の学生たちを圧倒した。

年頃になると、カイゼルの雄々しい見た目や、その地位に心惹かれる者たちが、こぞってカイゼルを陥落しようと試みるようになった。

カイゼルは誘われるままに、男女問わず誰でも抱いた。


「また、あの時のように抱いてくださいませ。」


あの女がいつも言っていた。

あの女があれほど求めていたそれは、一度経験してしまえば、何ということもない、ただの行為だった。

熱がこもれば、その時々で誘われるままにその行為を繰り返す。ただ、カイゼルが同じ相手を2度抱くことは一度もなかった。

何かとカイゼルに構い、いつのまにか友人という存在になっていたセレンだけが、いつも苦言を呈していた。




卒園後、王都の騎士団に所属し、めきめきと力をつけると、23歳という異例の若さで辺境伯の地位を与えられた。

「これを機に、お前もそろそろ妻を娶ってはどうだ?丁度縁談の話しが来ている。」

王からの言葉に、カイゼルは断る理由もなかった。

いずれこうなるだろうと、その時が来たのだと思い、すんなりとその縁談を受け入れた。

相手は、2大公爵家の一つ、その公爵家の長女で、カイゼルより3つ年下の女だった。

婚約期間をおかず、カイゼルの辺境入りと共に女も辺境の地へと嫁いできた。

女にしては、すらりと背の高い、カイゼル同様に寡黙な、感情の読み取れない女だった。

「カイゼル様、わたくしは婚姻の儀もお披露目の場も、そういったものは何も望みません。」

「お前がそう言うなら構わんが。わたしとしては、ないに越したことはない。」

女はほっとした様子で、さらに続けた。

「わたくしとカイゼル様は、政略の婚姻と言う事でよろしいでしょうか?」

「まあ、そのようなものだろう。」

「では、わたくしの役目はカイゼル様の子を宿すこと。それだけで、よろしいでしょうか。もちろん、辺境伯夫人としてのお勤めは果たします。」

女の言わんとしてることが今ひとつ理解し難かったが、カイゼルはそれで構わなかった。

子も、特段必要とは思わなかったが、そんなものかと、その程度にしか思わなかった。

「構わん。名は、フィーネと申したか。」

「はい。不束ものですが、よろしくお願いいたします。」

よくよく考えれば、公爵家の長女が辺境入りし、婚姻の儀も披露目の場も不要と言うのはおかしな話しだったが、その時のカイゼルは気が付かなかった。

王からは、何もないとはいかがなものかと催促が来ていたが、フィーネがそれでいいのだと言い張り、公爵家からも咎められることはなかった。

「これからは、子の成しやすい日に限り、それでよろしいでしょうか。」

形式的な初夜を終え、カイゼルが部屋に戻ろうとすると、女は寝台の上で背を向けたまま問うてきた。

初夜すら必要ないと思っていたカイゼルに、これは必要なことだとフィーネが言い張るので、それを成した後だった。

「子にこだわる必要はない。無理にせずとも構わん。」

なぜかそこだけは頑なに譲らないフィーネに最終的にはカイゼルも仕方なく同意した。

カイゼルが部屋を出たあと、フィーネは声を殺して静かに泣いていた。




フィーネはカイゼルにとって、妻と言うより、仕事上の相棒のような、そんな存在になった。

2人の間には、新婚の甘い雰囲気など微塵もない。

子の成しやすい日に、形式的にそれを行う。ただ、それだけだ。

1年が過ぎても子を授かることはなかった。

フィーネは、騎士達の訓練場をよく眺めていた。

初めは、無意識にただ眺めているような印象だったが、1年が過ぎた頃からその表情には、苦悶する様子が窺えるようになっていた。

フィーネが嫁いで来るより少し前、フィーネの実家である公爵家からの推薦状により、辺境には1人の騎士が見習いとして来ていた。

フィーネがその騎士を見つめる目は、あの女のそれに似ていると、カイゼルは感じていた。

心はあの時と同じ。何も感じない。

カイゼルはただそれを、まるで他人事のように眺めるだけだった。











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