49 / 102
シュヴァイゼルの思惑
47
しおりを挟む
ノアがおかしな事を言い始めた。
ユリウスと婚約したい?
空耳であって欲しい。
初めて顔合わせをしたあの晩、急に倒れこんだノアを抱き留めたことすら許しがたいと言うのに、二人だけの部屋で…。
他の護衛は望めないため、仕方なく彼奴を護衛に付けているが、早めに手を打たねばならない。
ノアはユリウスで良いと言っている。
まだ大丈夫だ。
ノアの相手については、吟味に吟味を重ね、ようやく見つけたのだ。
他国にも良さそうな相手はいたが、やはり近くに置いておくのが1番いい。
王宮から程近い所に、ノアとその相手を住まわせる手筈を整えている。いずれノアが王になってもいいだろう。その時はわたしがその別棟に移り住めばいい事だ。
ユリウスがいいと言い始める前に、迅速に事を進めねば。
「…何を考えているんだ。」
「そりゃあ勿論、ノアの事だ。」
「…ユリウスを罰するのか?」
「できるならそうしたいが、ノアが怒るだろう。仕方なく我慢しているんだよ、これでも。」
臣下然として立っていたルドルフが、どかっと目の前に腰を下ろした。本来なら許されないことだろうが、注いでやったリキュールを遠慮なしに飲み干すルドルフのことを親友として気に入っている。
「…ユリウスに、そんな気はない。ノア様がユリウスの事を、」
「まさか、ノアがユリウスに気があるとでも言うんじゃないだろうね。」
「……とにかく、ユリウスはよくやっている。ユリウスを責めるな。」
分かっている。あれはどう見ても、ノアが一方的に抱きついていただけだ。引き剥がそうにも、首を振ってなかなか離れようとしなかった。抱き合っていた訳ではない。
「其方も妃らも、随分とユリウスを信頼しているようだな。妃らは、ノアが望むならユリウスでいいじゃないかと言い始めている。」
「…駄目なのか。信頼している部下だし、生家だって辺鄙な場所にはあるが貴族だ。」
空になったグラスに無言でリキュールを注ぎ込み、二口三口で飲み干す。年代ものの奥深くいい味だ。量を重視するルドルフには勿体ない代物だ。
「先日ニイナの事を知らせていなかったことをお前は責めてきたが、お前はどうだ?」
ニイナが渡り人であったことを伝えていなかった事に対し、ルドルフは何度も不平を漏らしていた。ニイナが自由に動き回るためには、極力秘めておく必要があったのだからしょうがない。
ルドルフに知らせていれば、やれ護衛が必要だなんだともっと大事になっていただろう。だから知らせなかったのだ。
変装したニイナに気がつく者は誰もいなかった。とても面白い女だ。
「急に、何のことだ?」
ルドルフは全く心当たりがないと言う顔をしている。
「…ユリウスは、生家と言われているあの家の本当の子ではないだろう?」
「調べたのか?」
「ふん。当たり前だ。ノアを預けているのだからな。何故黙っていた?」
「それは……、ユリウス自身知らない事だ。本当にあの家の子だと思っている。生まれてからこの方、本当の親という者は誰一人現れなかった。怪しげな者が訪ねてくるようなこともなかったと聞いている。」
「…本人も知らないのか。詳しく聞かせろ。」
ユリウスは本当の親が誰かも分からない、恐らく捨て子だろうとの事だった。
そんな者をノアの護衛につけていたとは。
「出自の怪しい者をノアの婚約者、いや伴侶とすることなど、尚更できないであろう。ルドルフ、子を産める王族が皆幸せに生涯を過ごせたと思っているのか?」
ルドルフの手は、グラスを強く握りしめたまま離さない。あれではグラスが割れてしまうかもしれない。
貴重なグラスだと言うのに…。
翌日、ルドルフを含め妃らを全員王宮へと呼び寄せた。
ノアの婚約についてだと、そう思って集まっている事だろう。
十人も揃うと、我ながら壮観だなと思う。十人ともなると幾ばくかの杞憂はあったが、ナターシャは上手くやっているようだ。後宮で揉め事など面倒でしょうがない。
ノアを任せたのも大きいか?
ノアがいなければ、十人がここまで纏まることはできなかった筈だ。
「さて、皆んな集まったね。どうしてわたしがノアを君たちに託していたのか。秘匿し続けていたのか。そろそろ話してもいい頃だろう。ニイナもね、初めは反対していたんだよ。他の王子たちと同じように過ごさせたいとね。」
ニイナは今日はまた、先日の晩餐会とは打って変わり、奇妙な出立ちをしている。
こちらの姿の方が見慣れてしまった。
奇妙な出立ちのニイナは、長い歴史と共に飴色に変色した古めかしい綴り本を妃たちの目の前に差し出した。
ユリウスと婚約したい?
空耳であって欲しい。
初めて顔合わせをしたあの晩、急に倒れこんだノアを抱き留めたことすら許しがたいと言うのに、二人だけの部屋で…。
他の護衛は望めないため、仕方なく彼奴を護衛に付けているが、早めに手を打たねばならない。
ノアはユリウスで良いと言っている。
まだ大丈夫だ。
ノアの相手については、吟味に吟味を重ね、ようやく見つけたのだ。
他国にも良さそうな相手はいたが、やはり近くに置いておくのが1番いい。
王宮から程近い所に、ノアとその相手を住まわせる手筈を整えている。いずれノアが王になってもいいだろう。その時はわたしがその別棟に移り住めばいい事だ。
ユリウスがいいと言い始める前に、迅速に事を進めねば。
「…何を考えているんだ。」
「そりゃあ勿論、ノアの事だ。」
「…ユリウスを罰するのか?」
「できるならそうしたいが、ノアが怒るだろう。仕方なく我慢しているんだよ、これでも。」
臣下然として立っていたルドルフが、どかっと目の前に腰を下ろした。本来なら許されないことだろうが、注いでやったリキュールを遠慮なしに飲み干すルドルフのことを親友として気に入っている。
「…ユリウスに、そんな気はない。ノア様がユリウスの事を、」
「まさか、ノアがユリウスに気があるとでも言うんじゃないだろうね。」
「……とにかく、ユリウスはよくやっている。ユリウスを責めるな。」
分かっている。あれはどう見ても、ノアが一方的に抱きついていただけだ。引き剥がそうにも、首を振ってなかなか離れようとしなかった。抱き合っていた訳ではない。
「其方も妃らも、随分とユリウスを信頼しているようだな。妃らは、ノアが望むならユリウスでいいじゃないかと言い始めている。」
「…駄目なのか。信頼している部下だし、生家だって辺鄙な場所にはあるが貴族だ。」
空になったグラスに無言でリキュールを注ぎ込み、二口三口で飲み干す。年代ものの奥深くいい味だ。量を重視するルドルフには勿体ない代物だ。
「先日ニイナの事を知らせていなかったことをお前は責めてきたが、お前はどうだ?」
ニイナが渡り人であったことを伝えていなかった事に対し、ルドルフは何度も不平を漏らしていた。ニイナが自由に動き回るためには、極力秘めておく必要があったのだからしょうがない。
ルドルフに知らせていれば、やれ護衛が必要だなんだともっと大事になっていただろう。だから知らせなかったのだ。
変装したニイナに気がつく者は誰もいなかった。とても面白い女だ。
「急に、何のことだ?」
ルドルフは全く心当たりがないと言う顔をしている。
「…ユリウスは、生家と言われているあの家の本当の子ではないだろう?」
「調べたのか?」
「ふん。当たり前だ。ノアを預けているのだからな。何故黙っていた?」
「それは……、ユリウス自身知らない事だ。本当にあの家の子だと思っている。生まれてからこの方、本当の親という者は誰一人現れなかった。怪しげな者が訪ねてくるようなこともなかったと聞いている。」
「…本人も知らないのか。詳しく聞かせろ。」
ユリウスは本当の親が誰かも分からない、恐らく捨て子だろうとの事だった。
そんな者をノアの護衛につけていたとは。
「出自の怪しい者をノアの婚約者、いや伴侶とすることなど、尚更できないであろう。ルドルフ、子を産める王族が皆幸せに生涯を過ごせたと思っているのか?」
ルドルフの手は、グラスを強く握りしめたまま離さない。あれではグラスが割れてしまうかもしれない。
貴重なグラスだと言うのに…。
翌日、ルドルフを含め妃らを全員王宮へと呼び寄せた。
ノアの婚約についてだと、そう思って集まっている事だろう。
十人も揃うと、我ながら壮観だなと思う。十人ともなると幾ばくかの杞憂はあったが、ナターシャは上手くやっているようだ。後宮で揉め事など面倒でしょうがない。
ノアを任せたのも大きいか?
ノアがいなければ、十人がここまで纏まることはできなかった筈だ。
「さて、皆んな集まったね。どうしてわたしがノアを君たちに託していたのか。秘匿し続けていたのか。そろそろ話してもいい頃だろう。ニイナもね、初めは反対していたんだよ。他の王子たちと同じように過ごさせたいとね。」
ニイナは今日はまた、先日の晩餐会とは打って変わり、奇妙な出立ちをしている。
こちらの姿の方が見慣れてしまった。
奇妙な出立ちのニイナは、長い歴史と共に飴色に変色した古めかしい綴り本を妃たちの目の前に差し出した。
262
あなたにおすすめの小説
ギャルゲー主人公に狙われてます
一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!
椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。
ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。
平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。
天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。
「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」
平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる