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第1話 嫁探しの旅がはじまる

満月の夜―――

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 迫り来る朝がこんなに恐怖だと思ったことは一度もなかった。


 ゲーム制作に没頭して朝を迎えてしまったこととは違う。


 時間を刻む秒針の音がやけに耳について離れない。



 くっそ、、、朝ご飯の作り方なんてわかんねー。


 俺は自分のイラ立ちと葛藤を全てゲーム制作に集中させ、キーボードを
   打ち込んでいく。

 まさに現実逃避だ。


 必ず朝は来る―――。


 ―――だが、その朝を迎えるまでにせめて朝ご飯を作ってくれる
           妻だけでもいい、、、どこかにいないか……


  そんな、都合のいい女なんているはずがない。

  
 
  こんなことならになるなら、もっと色んな女と遊んどけばよかったか、、、


  そうすりゃ、交流も深まり、こんな時 一人くらいは助けてくれるだろう、、、
  なんて、俺は期待し、運よくは愛人を4人目の妻に迎え入れるだろう……。

  妄想が俺の頭中をぐるぐる迷走していた。


  金さえあれば何でも手に入ると思っていた。でも、それは大きな間違いだ。

  永遠の愛など金では買えない。


  長くて3年―――ーー。


  短くて半年だ、、、、、。


 最初の妻とは2年と半年で離婚した。亜末が2歳3か月の時に斗真が産まれ、
 斗真の夜泣きがひどく俺は家に帰らず会社の社長室にこもり仕事に没頭していた。

 ある日、妻からメールがあった。
 
 【暫く、家を留守にします。子供達の事を宜しくお願いします。照美】
  
 『!?』

 俺は急いで自宅に戻った。斗真の泣き声が共用廊下まで響いてきた。

 慌てて俺は部屋に入り、ダイニングリビングへ向かった。

 ワンワン泣いている斗真の傍で亜末がキョトンと座っていた。

 その光景を見た俺は体が勝手に動き出していた。気づいたら、俺はその手で
 2人の子供達を包み込むように抱きしめていた。

 俺は暫くベビーシッターを雇い、照美の帰りを待ったが、照美は帰って
 来ることはなく、照美が家を出て3カ月後に離婚届が送られてきた。
 照美の名前はすでに書かれていた。俺は離婚届に自分の名前を書いて
 役所に提出した。照美を探すことも照美と話し合うこともしなかった
 俺の罰だと思った。

 ベビーシッターの彼女はよく子供の面倒を見てくれた。彼女となら上手く
 やっていけると思った俺は亜末が5歳になった時に彼女にプロポーズをし、
 彼女を妻に迎え入れたが、結局、妻になった渡辺史恵わたなべふみえとも
 上手くいかず半年で離婚することとなったーーー。


 それでも俺は子供達の為にと、、、
  

 会社の女子社員である紀本愛也香きもとあやかに契約結婚の話を提案した。

 彼女は即答で俺の提案を受け入れてくれた。



 ―――ーーーが、3年で離婚成立だ、、、、、、



 


   


 深夜0:00―――




「本日は体調不良の為、自宅休養します。皆、通常のゲーム制作に勤めてくれ。
 三宅宗一郎」
 
 取り合えず俺は会社のパソコンにメール配信した。

 社長が会社にいないのはそんな珍しいことではない。

 接待や取引き先での打ち合わせで会社にいないことはちょく、ちょくある。
 それでも、会社は優秀なエンジニア達が上手く稼働してくれている。
 俺より優秀な部下達が面白いゲームを作り上げてくれるだろう。


 俺がいなくてもそれなりに会社は回っていけるはずだ。


 それより、明日の朝ご飯をどうにかせねば……

 今の俺の頭中にあるのはゲームのことより、明日、子供達に朝ごはんを
 食べさせて、無事に学校へ送り出すことだ。

 もはや、俺の頭中はいっばい、いっばいになっていた。


 ―――とその時、カーテンの隙間から光が差し込んできた。

「ーん?」

 俺はその光が気になり、ゆっくりと窓際まで近づきカーテンを開けてみた。

 その目に大きな満月が飛び込んできた。

「今日は満月か、、、見事な綺麗な月だ」

 暫く、俺はその美しい月に目を奪われていた。


 黒夜に光る月は静寂な夜に不思議なことが起こりそうな…そん予感が…

 と、その時だった―――ーーー得体の知らない何かが現れ…

 俺の目にその物体が映るーーー


 はあ?  何だ? あれは…
  
 
 マジか…近づいて来る……。こっちに向かって来る……


 


「はーい♡」

 

―――と思った瞬間、その物体は目の前から消えた!!!

 
 一瞬、女のような気もしたが…気のせいか…


 確かに空を舞いながら向かって来ていた。



 俺は何度も瞬きを繰り返す。


 だが、その視線の先に見えるのは綺麗な満月だけだった―――ーーー。


 ああ、やっぱり、気のせいか……


 相当、疲れているのかも、、、俺…。


 そりゃそうだろ、バツ3になって、残されたのは2人の子供達だけなんだからな。


 明日、家政婦協会にでも電話して『家政婦でも雇うか…』
 と、振り向いた瞬間ーーー、

 「!?」

 俺は再び瞬きをする。
 
 その視線の先には見知らぬ女がダイニングテーブルの前に座り俺のパソコンを
 凝視している。

「ねぇ、これどうやって遊ぶの?」

「さ、さわるな」
 
 俺は慌ててすぐにノートパソコンを閉じる。


「お前は誰だ? どこから入ってき?」

「え? どこからって?」

「どこでも入れるわよ」

 そう言うと、女は最上階のタワーマンションの大きな窓をスゥーッと入ったり、
 出たりと通り抜けしている。

「!?」

 幽霊か…いや、体はちゃんとあるみたいだ…

「幽霊じゃないよ」

「え」

「私は気楽きらく。一応、174歳ね」

「え…174歳? おばあちゃん通り越して化石か?
ミイラか?」

「失礼だね、まったくアンタは…だから、3回も結婚に失敗するんだよ」

「なんで…そのこと…」

「ほんとアンタはラッキーだったよ」

「何が?」

「満月の夜に私に会えたことさ」

「なんで?」

「アンタが一番望んでいることを私が叶えてあげれるからだよ」

「何言ってんだよ、お前…」

「お前じゃないよ。気楽さんとお呼び。アンタより年上なんだからよ」

「おばあちゃん通り超してるくせに、見た目は女子高校生みたいな格好してるのな。
顔も幼いし、、、ホントに174歳か」

「私の国じゃ、年に2回誕生日があるんだけど、全然、歳をとらないんだよ」


「へぇ、いいな、それ」


「私は17歳の時に人間の大きな願いを叶えてあげたから、神様が特別ご褒美に
歳を取らない薬をくれたんだよ。見た目と実年齢が異なるのはそのせいさ」

「もしかして君は神様系の何か? ゲームのネタにできそうだ」

「それはいずれわかるさ」

「俺の願いを叶えにきたのか? じゃ、子供達の朝ご飯作ってくれるのか?」

「私はあいにく料理は得意じゃないもんでね」

「じゃ、俺のお嫁さんになってくれるとか? でも、174歳じゃな、、、」

「私だって嫌だよ。ゲームを作ることしか脳がない男なんてな。家事も育児も
全て妻任せで、夜の営みさえも怠っているバカ男なんてよ」

「お前…どこから見てたんだよ」

「アンタの事は調査済みさ」

「へ!?」

「さあ、行くよ」

「行くって…どこへ?」

「私の腰にしっかりと掴まってな」

 そう言うと、女は俺の手をグイッっと掴み、自分の腰に回すと
 突っ走しっていった。


「…おい、、、ま…まど…」


 窓に近づいて…あ、当たる!!


 あぶ…ない!!!  俺は、窓ガラスに当たる瞬間、瞼を閉じた。


「!?」

 目を開けた時にはもう黒夜を舞っていた。

 振り向く俺の視線に遠くなるタワーマンションが映る。

 窓ガラスは割れてはいない。もしかして、通り抜けしたのか?


 この女は何者だ!?


「おい、どこ行くんだよ」



「ここからアンタの娯楽の旅が始まるのさ」


「へ!?」


「嫁探しに行くよ」

「はあ?」


「別に旅に出なくても、嫁ならすぐに見つかるし…」

「アンタの嫁はこの街にはもう一人もいないよ」

 
「はい!? どういうことだよ…」


「3人目の嫁がアンタにとって最後の嫁だった。アンタはその嫁さえも
手放したんだよ」

 そう言って、女は嬉し気にあざ笑い自由奔放に空を舞う。

「あっはっはっはっ……」 

 女は興奮するも上機嫌に笑っている。

 酔いしれるほど目が回っているはずなのに、俺の目にはニッコリと
         笑う女の笑みが頭に焼きついて離れずにいたーーーーー

















 







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