あまのじゃくの子

神宮寺琥珀

文字の大きさ
上 下
6 / 59
第5話

~母からの手紙~

しおりを挟む
Dear 萌衣へ


この手紙を読んでいる頃、萌衣は20歳ハタチになっているのかな。

萌衣、20歳ハタチのお誕生日おめでとう。

一緒に祝ってあげれなくてごめんね。

萌衣は今、どんな仕事をしているのかな?
萌衣の夢はなんだろう?

萌衣の夢もどんな仕事をしてみたいのかも、ゆっくりと聞いて
あげれなくてごめんね。

私はそんなに料理は上手じゃなかったけど、私が作ったご飯を
食べてくれてありがとう。

私は仕事に没頭すると周りのことが見えなくて、いつも萌衣には
寂しい思いをさせてしまっていたと思います。
家事一般、生活のこと、何も教えてあげれなくてごめんなさい。



私はね、本当は絵本作家になんかなりたくなかったのよ。
実は、好きな人のお嫁さんになりたかったの。
でも、私は好きな人に好きだって言えなかったんだ。
好きな人の前ではいつも自分の気持ちとは反対のことをしてしまってね。
結局、想いを伝えられないまま、その人とはそれっきりになってしまったの。
康介さんはそんな私を丸ごと受け止めてくれて「結婚しよう」って言ってくれたの。
だけど、康介さんと結婚しても、心の奥には彼の存在がいて、消えることはなかったわ。
でもね、萌衣が産まれて、日々の生活が穏やかで、とても充実していたことは本当よ。

萌衣は夜泣きが激しくてね、そんな時、本屋さんで一冊の絵本を買って読んであげたの。
そしたら萌衣ってばすぐにぐっすりと眠ってくれたの。
萌衣の寝顔を見てると可愛くてね、愛しくて…
それから私は色んな絵本を買うようになったの。
こんな可愛い寝顔が見れるならって、私も絵本を描いてみようと思ったのが絵本作家に
なったきっかけです。
だから、萌衣、今はやりたいことがなくても夢がなくても、何かのきっかけさえあれば
きっと萌衣にも見つかるはずだから前を向いて自立した女になってください。

そして、もしもこの先、本気で誰かを好きになるようなことがあれば

好きな人に「好きです」って言える子になって欲しい。

それがお母さんからのお願いです。


それと、もう一つ、もしも康介さんが再婚しても許してあげて下さい。

その人のことをお母さんと思ってたくさん甘えてあげてね。



                                 母より――――


しおりを挟む

処理中です...