『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第1章:優等生令嬢は、完璧で、恐ろしい

第1話:「ようこそ、リリアーナ=エグレアの世界へ」

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 白百合の咲き誇る中庭で、リリアーナ=エグレアは今日も完璧だった。

王立セント・リュミエール魔術学院――貴族子女たちの頂点が集うこの学び舎において、彼女ほど“理想の令嬢”と評される存在はいない。

淡雪のごとき銀髪。氷を溶かすような微笑。
礼儀作法は完璧、魔力量は王太子を凌ぐと噂され、社交界では“白き女王”の愛称で語られていた。

だが――その瞳の奥を覗き込む者はいなかった。
誰も、踏み込もうとしなかった。いや、できなかった。

「おはようございますわ、セシリア嬢。……あら、そのリボン、とても可愛らしいですこと」

「えっ……あ、ありがとう、ございます……」

声をかけられたセシリア=ロートベルクは一瞬戸惑いながらも、礼儀正しく頭を下げた。

リリアーナの微笑みは、薔薇の香のように甘やかで、それでいて――どこか毒を含んでいる。

「あら、ごめんなさい。お似合いすぎて、つい見惚れてしまいましたの。……ですが、王子様のお好みは“青”でしたわよね?」

「…………っ」

一拍遅れて、セシリアの指先が、自身の赤い髪飾りに触れる。

それは確かに、王太子アレン=ヴァルフォードが“好きだ”と語っていた色ではなかった。

「わたくし、お手伝いしましょうか? 明日、お揃いのものをお持ちいたしますわ。……わたくしたち、王子様をお慕いする者同士ですもの」

リリアーナの笑顔は変わらない。完璧なまま、感情の揺れひとつ見せず――ただ静かに、静かに、踏み潰すように。

セシリアは、笑って頷くしかなかった。

***

その日の放課後。学院の資料室にて、リリアーナはひとり、日記帳を開いた。

“王太子殿下、本日は十七回目の微笑み。セシリア嬢とは四秒以上の会話、距離は推定70cm。明日以降の対策:衣類管理強化、視線誘導。”

彼女はページの隅に、小さくリボンの絵を描いた。

それは、アレンの袖口に結ばれた“契約色のリボン”と、まったく同じ意匠だった。

「……あの方の目が、他の誰かに向いてしまうのは、わたくしの努力不足ですわね。ふふ、明日はもう少しだけ……近くにいましょうか」

日記帳を閉じると、リリアーナは立ち上がった。

彼女の背後――影のように控えていた黒髪の少女・マルシェが、静かに頭を垂れる。

「リリアーナ様。明日の準備は、すでに整っております」

「ええ。ありがとう、マルシェ。――彼女の制服、裾の糸がほどけていたわ。少し、お裁縫をしましょうね?」

リリアーナの微笑みが、夕暮れの陽を浴びて輝く。

それは学院中が羨望する、美しい令嬢の姿。
だがその背後に――誰も知らない、ひとつの真実が潜んでいる。

愛は、狂気と呼ばれる直前が、いちばん美しい。

彼女自身が、それをよく知っていた。
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