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第2章「仮面の下の顔、愛は誓いか呪いか」
第14話「王子様、愛とは予定どおりに進むものですわ」
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翌朝、学院の中庭では、春の名残を乗せた風が薔薇を揺らしていた。
王太子アレン=ヴァルフォードは、ひとり、石造りのベンチに腰掛けていた。
昨夜の舞踏会の余韻はまだ身体に残っている――けれど、気持ちは静かにさざ波を立てていた。
彼は昨夜、リリアーナと誓いのワルツを踊った。
誰もが羨む美しき夜――そう言われるべき時間だった。
けれど心には、どうしても拭えない“違和感”が残っている。
「……仮面がなければ、もっと笑えたかもしれないな」
彼はぽつりと呟いた。
そのとき、風に乗って花びらと共に、リリアーナの声が届いた。
「おやめになって。王子様のそのお顔、わたくしが仕立てた未来の中で一番似合わない表情ですもの」
振り返れば、白い日傘をさしたリリアーナ=エグレアが立っていた。
制服の胸元には、昨日と同じ青いリボン。そして手には、真新しいスケジュール帳。
「……リリアーナ」
「ごきげんよう、王子様。お身体に不調はございませんか?
舞踏会の後は、心も体も緊張しますもの。
ですがご安心を。今日もすべて、予定どおりに進んでおります」
彼女はにこやかに言った。
そして、当然のように彼の隣に腰を下ろし、スケジュール帳を開いた。
「本日、午前の予定:
第1講義・魔導史→出席(座席:隣同士)
昼食:中庭東ベンチにて二人でお弁当(内容:昨日の好物を再現)
午後:図書館・閲覧室での合同課題準備
夕刻:舞踏会後の“感想交換会”にて、王子様の社交的評価を支援する発言を三件行う予定」
「……まるで、完璧な予定表だな」
「当然ですわ。王子様との未来を縫い上げるには、誤差など一糸たりとも許されませんもの」
リリアーナはスケジュール帳を閉じ、優しく微笑んだ。
「愛とは、そういうものですわ。
“予定どおりに進んでこそ”、幸福なのです」
アレンは言葉を失った。
けれど、完全に否定することもできなかった。
なぜなら、リリアーナのその“整えられた世界”は――どこまでも居心地がよく、
そして何より、彼女自身が心から信じているからだ。
「……リリアーナ。君は、誰かに予定を壊されたら、どうする?」
「壊れませんわ」
間髪入れず、即答だった。
「なぜなら、“壊される前に整える”のがわたくしですから。
ですから、王子様。心配などご不要です。
あなたの人生が破綻することなど――この世界のどこにも、ありえませんの」
風がまた吹いた。
青いリボンが揺れる。
そして、その揺れの先に――一羽の青い蝶が舞い降りた。
その翅はかすかに破れていた。
まるで、“未来の綻び”を知らせるかのように。
だがリリアーナは、それを見てなお微笑む。
「直して差し上げますわ、蝶さんも。
王子様も、すべての“想定外”も。
わたくしが縫えば、元通りですもの」
それは、未来に対する絶対的な支配宣言。
リリアーナ=エグレアにとって、愛とはただの感情ではない。
**愛とは、設計であり、予定であり、完成された“構造物”**なのだ。
だからこそ、彼女は言い切れる。
――「王子様。愛とは予定どおりに進むものですわ」
そして彼女のスケジュール帳には、次の行がすでに記されていた。
*明日:セシリア嬢、再接触の兆候。
→午後に再調整。
→必要であれば、“記憶の縫合処理”を申請。
そのページに、ひとつ蝶のシールが貼られていた。
それは、もう飛べない翅の色をしていた。
王太子アレン=ヴァルフォードは、ひとり、石造りのベンチに腰掛けていた。
昨夜の舞踏会の余韻はまだ身体に残っている――けれど、気持ちは静かにさざ波を立てていた。
彼は昨夜、リリアーナと誓いのワルツを踊った。
誰もが羨む美しき夜――そう言われるべき時間だった。
けれど心には、どうしても拭えない“違和感”が残っている。
「……仮面がなければ、もっと笑えたかもしれないな」
彼はぽつりと呟いた。
そのとき、風に乗って花びらと共に、リリアーナの声が届いた。
「おやめになって。王子様のそのお顔、わたくしが仕立てた未来の中で一番似合わない表情ですもの」
振り返れば、白い日傘をさしたリリアーナ=エグレアが立っていた。
制服の胸元には、昨日と同じ青いリボン。そして手には、真新しいスケジュール帳。
「……リリアーナ」
「ごきげんよう、王子様。お身体に不調はございませんか?
舞踏会の後は、心も体も緊張しますもの。
ですがご安心を。今日もすべて、予定どおりに進んでおります」
彼女はにこやかに言った。
そして、当然のように彼の隣に腰を下ろし、スケジュール帳を開いた。
「本日、午前の予定:
第1講義・魔導史→出席(座席:隣同士)
昼食:中庭東ベンチにて二人でお弁当(内容:昨日の好物を再現)
午後:図書館・閲覧室での合同課題準備
夕刻:舞踏会後の“感想交換会”にて、王子様の社交的評価を支援する発言を三件行う予定」
「……まるで、完璧な予定表だな」
「当然ですわ。王子様との未来を縫い上げるには、誤差など一糸たりとも許されませんもの」
リリアーナはスケジュール帳を閉じ、優しく微笑んだ。
「愛とは、そういうものですわ。
“予定どおりに進んでこそ”、幸福なのです」
アレンは言葉を失った。
けれど、完全に否定することもできなかった。
なぜなら、リリアーナのその“整えられた世界”は――どこまでも居心地がよく、
そして何より、彼女自身が心から信じているからだ。
「……リリアーナ。君は、誰かに予定を壊されたら、どうする?」
「壊れませんわ」
間髪入れず、即答だった。
「なぜなら、“壊される前に整える”のがわたくしですから。
ですから、王子様。心配などご不要です。
あなたの人生が破綻することなど――この世界のどこにも、ありえませんの」
風がまた吹いた。
青いリボンが揺れる。
そして、その揺れの先に――一羽の青い蝶が舞い降りた。
その翅はかすかに破れていた。
まるで、“未来の綻び”を知らせるかのように。
だがリリアーナは、それを見てなお微笑む。
「直して差し上げますわ、蝶さんも。
王子様も、すべての“想定外”も。
わたくしが縫えば、元通りですもの」
それは、未来に対する絶対的な支配宣言。
リリアーナ=エグレアにとって、愛とはただの感情ではない。
**愛とは、設計であり、予定であり、完成された“構造物”**なのだ。
だからこそ、彼女は言い切れる。
――「王子様。愛とは予定どおりに進むものですわ」
そして彼女のスケジュール帳には、次の行がすでに記されていた。
*明日:セシリア嬢、再接触の兆候。
→午後に再調整。
→必要であれば、“記憶の縫合処理”を申請。
そのページに、ひとつ蝶のシールが貼られていた。
それは、もう飛べない翅の色をしていた。
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