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第3章:歪んだ契約と、選ばれなかった少女たち
第25話「そして、彼女は“妹”になる」
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それは、敗北の演技ではなかった。
それは、再構築の幕開けだった。
***
翌日、学院は妙な静けさに包まれていた。
昨日の告白劇が大きな話題となり、誰もがその余波に揺れている。
リリアーナが沈黙を守っていることも、また奇妙な不安となって空気に混じっていた。
「……あの方が“何も動かない”なんて、不気味だわ」
「まさか……本当に負けたとか?」
「いや、あの人は“黙ってるときこそ一番怖い”って……」
噂はささやかに広がっていく。
けれど当のリリアーナ=エグレアは、笑顔のまま登校していた。
淡い桜色のリボン。
わずかにウェーブをかけた髪。
そして、今日の彼女は――誰よりも“可憐”だった。
「ごきげんよう、王子様。……あら、セシリア嬢も」
その声には、毒も針もなかった。
アレンとセシリアが思わず顔を見合わせると、リリアーナはにっこりと微笑んで――こう言った。
「昨日のことは、すべて聞いておりますわ。……ですけれど」
彼女は、ふわりとスカートを揺らして一礼する。
「王子様とセシリア嬢の“幸せ”を、わたくし、心から願っておりますの」
その瞬間。
時間が、止まったように感じた。
けれど、それは甘い罠だった。
「だから……今日からわたくし、“妹”としてお仕えいたしますわ。
おふたりが正式にお付き合いを始める日が来るそのときまで――わたくしは、おふたりの幸せの縫い目を、そっと支えてまいります」
その笑顔には、一片の曇りもなかった。
だが、セシリアは寒気を覚えていた。
“妹”――それは、好意の放棄ではない。
むしろ、より深く、より無垢に入り込む“役割の再設定”。
「ねぇ、王子様。わたくし、妹らしく、何をしたらよろしいかしら?
お弁当? 魔法の筆記? それとも……“手紙の代筆”?」
「リリアーナ……君は……」
アレンの声に、リリアーナは小さく首を傾げた。
「おや? いけませんわね。
“妹”なのですから、呼び方も変えていただかなくては」
そして――彼女は、いたずらを含んだ声音で言った。
「これからは、“お兄様”とお呼びしてもよろしいですか?」
*
セシリアは、はっきりと理解した。
これは、“後退”でも“敗北”でもない。
リリアーナは、ただ“立場を変えただけ”だ。
正面から愛せないのなら、背後から、内側から“縫い直す”つもりでいる。
彼女は、愛する者の恋人にはなれなかった。
だから、“家族”として残る道を選んだ。
「……あなたは、どこまでも……」
セシリアが呟いたその言葉に、リリアーナは、にこっと無邪気な笑顔を見せた。
「だって、“家族”は縫い捨てられませんもの。
どれほど遠くなっても、どれほど心が離れても――
お兄様は、わたくしの大切な人ですから」
その瞳は、涙のひとつも浮かべず、ただ澄んでいた。
そして、誰にも気づかれないように――
彼女のスカートの裏地には、青い糸で刺された一文が隠されていた。
『妹』の仮面は、いずれ最も深い場所へ届く針となる。
蝶は、まだ飛んでいる。
今度は、誰の背後を舞っているのかもわからぬままに――
それは、再構築の幕開けだった。
***
翌日、学院は妙な静けさに包まれていた。
昨日の告白劇が大きな話題となり、誰もがその余波に揺れている。
リリアーナが沈黙を守っていることも、また奇妙な不安となって空気に混じっていた。
「……あの方が“何も動かない”なんて、不気味だわ」
「まさか……本当に負けたとか?」
「いや、あの人は“黙ってるときこそ一番怖い”って……」
噂はささやかに広がっていく。
けれど当のリリアーナ=エグレアは、笑顔のまま登校していた。
淡い桜色のリボン。
わずかにウェーブをかけた髪。
そして、今日の彼女は――誰よりも“可憐”だった。
「ごきげんよう、王子様。……あら、セシリア嬢も」
その声には、毒も針もなかった。
アレンとセシリアが思わず顔を見合わせると、リリアーナはにっこりと微笑んで――こう言った。
「昨日のことは、すべて聞いておりますわ。……ですけれど」
彼女は、ふわりとスカートを揺らして一礼する。
「王子様とセシリア嬢の“幸せ”を、わたくし、心から願っておりますの」
その瞬間。
時間が、止まったように感じた。
けれど、それは甘い罠だった。
「だから……今日からわたくし、“妹”としてお仕えいたしますわ。
おふたりが正式にお付き合いを始める日が来るそのときまで――わたくしは、おふたりの幸せの縫い目を、そっと支えてまいります」
その笑顔には、一片の曇りもなかった。
だが、セシリアは寒気を覚えていた。
“妹”――それは、好意の放棄ではない。
むしろ、より深く、より無垢に入り込む“役割の再設定”。
「ねぇ、王子様。わたくし、妹らしく、何をしたらよろしいかしら?
お弁当? 魔法の筆記? それとも……“手紙の代筆”?」
「リリアーナ……君は……」
アレンの声に、リリアーナは小さく首を傾げた。
「おや? いけませんわね。
“妹”なのですから、呼び方も変えていただかなくては」
そして――彼女は、いたずらを含んだ声音で言った。
「これからは、“お兄様”とお呼びしてもよろしいですか?」
*
セシリアは、はっきりと理解した。
これは、“後退”でも“敗北”でもない。
リリアーナは、ただ“立場を変えただけ”だ。
正面から愛せないのなら、背後から、内側から“縫い直す”つもりでいる。
彼女は、愛する者の恋人にはなれなかった。
だから、“家族”として残る道を選んだ。
「……あなたは、どこまでも……」
セシリアが呟いたその言葉に、リリアーナは、にこっと無邪気な笑顔を見せた。
「だって、“家族”は縫い捨てられませんもの。
どれほど遠くなっても、どれほど心が離れても――
お兄様は、わたくしの大切な人ですから」
その瞳は、涙のひとつも浮かべず、ただ澄んでいた。
そして、誰にも気づかれないように――
彼女のスカートの裏地には、青い糸で刺された一文が隠されていた。
『妹』の仮面は、いずれ最も深い場所へ届く針となる。
蝶は、まだ飛んでいる。
今度は、誰の背後を舞っているのかもわからぬままに――
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