24 / 80
第3章:歪んだ契約と、選ばれなかった少女たち
第24話「そして、蝶はまだ飛んでいる」
しおりを挟む
学院中庭で交わされた、セシリアの“反逆の告白”と、リリアーナの沈黙。
それはまるで舞台の幕間――
登場人物は退場せず、ただ照明だけが少し落とされたような時間だった。
けれど、蝶だけがまだ飛んでいる。
***
その日の午後。
リリアーナ=エグレアは、温室ではなく、自室の鏡台の前にいた。
化粧は完璧。髪も乱れていない。
けれど、手元の指先――それは、微かに震えていた。
「……蝶が、一羽、逃げましたわね」
机の上には、未完成の蝶の標本が一体。
“セシリア=ロートベルク”と名付けられるはずだったもの。
翅の形、色合い、記録された言葉、王子との関係値。
すべて織り込まれ、整理され、あとは“静かに留めるだけ”だった。
「逃げられるとは、思いませんでしたわ」
彼女はそう言って、ひとつ深く息を吐く。
「でも……わたくしは、“蝶を追う者”ではありませんもの」
立ち上がる。
鏡に映るのは、完璧な微笑――誰よりも整えられた、作られた美しさ。
「わたくしが縫うのは、逃げた蝶の物語ではなく、“王子様の世界”そのものです」
だから、壊すわけにはいかない。
逃げられたとしても、奪われたとしても、
まだ、彼女の“布”は残っている。
そして彼女は思い出す。
アレンの言った、「自分で選びたい」という言葉。
「……選ばせてあげましょう。
けれど、“選択肢”を用意するのは、常にわたくし」
その言葉と共に、彼女は裁縫箱を開く。
今までとは違う布、違う糸。
けれど、最終的な縫い目は同じ場所へ辿り着くように――
リリアーナは、新たな設計図を描きはじめた。
***
一方、学院図書塔の裏手では。
セシリアが、カイルと並んで歩いていた。
「……本当に、あれでよかったのかな」
「十分すぎるさ。“告白”は、リリアーナにとっては刃みたいなもんだった」
「でも……怖い。
彼女が、“何かを諦めた顔”じゃなかったから」
カイルは黙っていた。
代わりに、彼の肩に一羽の蝶が舞い降りた。
小さく、白く、かすれたような翅。
「あいつの蝶は、死なない。
“支配の証”としてだけじゃなく、
いつでも“次の糸口”を探して飛び回ってる」
セシリアは、その蝶が飛び去るのを目で追った。
そして、ひとつ、決意を噛みしめるように呟いた。
「……だったら、わたしが刺す。
彼女の描く“未来”の布に――わたしの針で、“ひと刺し”入れてみせる」
その声は小さかったけれど、確かだった。
未来はまだ縫い上がっていない。
だからこそ、“誰かの手”で刺し直すことも、きっとできる。
***
そしてその夜。
学院の天窓から、青い蝶が一羽――ふわりと空へ消えていった。
名もなく、誰にも縫われず、自由に舞う蝶。
それは、誰かの心の象徴だったのか。
それとも、物語そのものだったのか。
ただひとつ、確かなのは――
リリアーナの物語は、まだ“終わってなどいない”。
それはまるで舞台の幕間――
登場人物は退場せず、ただ照明だけが少し落とされたような時間だった。
けれど、蝶だけがまだ飛んでいる。
***
その日の午後。
リリアーナ=エグレアは、温室ではなく、自室の鏡台の前にいた。
化粧は完璧。髪も乱れていない。
けれど、手元の指先――それは、微かに震えていた。
「……蝶が、一羽、逃げましたわね」
机の上には、未完成の蝶の標本が一体。
“セシリア=ロートベルク”と名付けられるはずだったもの。
翅の形、色合い、記録された言葉、王子との関係値。
すべて織り込まれ、整理され、あとは“静かに留めるだけ”だった。
「逃げられるとは、思いませんでしたわ」
彼女はそう言って、ひとつ深く息を吐く。
「でも……わたくしは、“蝶を追う者”ではありませんもの」
立ち上がる。
鏡に映るのは、完璧な微笑――誰よりも整えられた、作られた美しさ。
「わたくしが縫うのは、逃げた蝶の物語ではなく、“王子様の世界”そのものです」
だから、壊すわけにはいかない。
逃げられたとしても、奪われたとしても、
まだ、彼女の“布”は残っている。
そして彼女は思い出す。
アレンの言った、「自分で選びたい」という言葉。
「……選ばせてあげましょう。
けれど、“選択肢”を用意するのは、常にわたくし」
その言葉と共に、彼女は裁縫箱を開く。
今までとは違う布、違う糸。
けれど、最終的な縫い目は同じ場所へ辿り着くように――
リリアーナは、新たな設計図を描きはじめた。
***
一方、学院図書塔の裏手では。
セシリアが、カイルと並んで歩いていた。
「……本当に、あれでよかったのかな」
「十分すぎるさ。“告白”は、リリアーナにとっては刃みたいなもんだった」
「でも……怖い。
彼女が、“何かを諦めた顔”じゃなかったから」
カイルは黙っていた。
代わりに、彼の肩に一羽の蝶が舞い降りた。
小さく、白く、かすれたような翅。
「あいつの蝶は、死なない。
“支配の証”としてだけじゃなく、
いつでも“次の糸口”を探して飛び回ってる」
セシリアは、その蝶が飛び去るのを目で追った。
そして、ひとつ、決意を噛みしめるように呟いた。
「……だったら、わたしが刺す。
彼女の描く“未来”の布に――わたしの針で、“ひと刺し”入れてみせる」
その声は小さかったけれど、確かだった。
未来はまだ縫い上がっていない。
だからこそ、“誰かの手”で刺し直すことも、きっとできる。
***
そしてその夜。
学院の天窓から、青い蝶が一羽――ふわりと空へ消えていった。
名もなく、誰にも縫われず、自由に舞う蝶。
それは、誰かの心の象徴だったのか。
それとも、物語そのものだったのか。
ただひとつ、確かなのは――
リリアーナの物語は、まだ“終わってなどいない”。
0
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる