『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第3章:歪んだ契約と、選ばれなかった少女たち

第23話「告白という名の反逆」

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告白は、恋の始まりだと誰かが言った。

けれどこの学院では、告白とは、時に“契約違反”であり、
それは“既定路線”への反逆となる。

***

翌朝。
セント・リュミエール学院の中庭は、雨上がりの光に満ちていた。

花々が濡れた葉をきらめかせ、風が若葉の匂いを運んでいる。

その中で、セシリア=ロートベルクは、意を決して立っていた。

彼女が選んだのは、学院正門近く――
“誰もが必ず通る場所”。

そこを通るアレン=ヴァルフォードに、
彼女は真正面から呼びかけた。

「――王子様!」

ざわめく周囲。
視線が集中する中で、セシリアは一歩、前へ出た。

「わたし……あなたに、話があります!」

アレンは驚いたように立ち止まった。
だが、すぐにその表情を落ち着かせ、彼女に向き直る。

「……ここでいいのか?」

「はい。ここがいいんです。
ここで、“わたしの言葉”を、誰の耳にも届くように伝えたいんです」

その瞳は揺れていなかった。

周囲の生徒たちはざわめきを抑え、静かに様子を見守っている。

中には、リリアーナの名を小さく呟く者もいた。
だがセシリアは、それらすべてを背中に受けながら、まっすぐに前を見ていた。

「王子様。わたし……あなたのことが、好きです」

その言葉は、まるで鐘の音のように澄んでいて――
同時に、どこか“断罪”の響きを持っていた。

アレンの目が大きく見開かれる。

「ずっと、言えませんでした。
誰かに見られている気がして、
誰かに咎められそうで、
そして――
あなたの“決められた未来”を壊してしまうのが怖かった」

セシリアの言葉は続く。

「でも今、わたしはそれでも言いたい。
あなたの隣に立ちたい。
誰かが縫い上げた未来じゃなくて、
“あなた自身が選んだ明日”を、一緒に見たいんです!」

その瞬間――

「……大胆ですわね、セシリア嬢」

割って入ったのは、やはりリリアーナ=エグレアだった。

白の制服。いつもよりひとつ高いヒール。
そして――仮面はない。

素顔のまま、けれどその声は、仮面よりも冷ややかだった。

「王子様に向かって“反逆”を宣言するなんて。
これはもう、ただの“恋の告白”では済まされませんわ」

「……リリアーナ様」

セシリアは一歩も引かなかった。

「これは“恋の告白”です。
でも、“あなたへの反逆”でもあります。
――あなたが縫い上げた王子様の未来は、
わたしには“檻”にしか見えなかったから!」

リリアーナの笑みが、ピンと張られた糸のように固まった。

周囲の空気が張り詰めていく。

アレンはその中央に立ち、ふたりの少女を見つめていた。

ひとりは“自分を選ばせようとした令嬢”。
もうひとりは“自分に選ばれることを願った少女”。

その間で、アレンが見せたのは――微笑でも戸惑いでもない。
ただ、静かな決意だった。

「……どちらかを選ぶ、そんな話じゃない。
でも、僕は……“誰にも選ばされない自分”でありたい」

その言葉は、リリアーナの胸の奥に突き刺さった。

けれど、彼女は崩れなかった。

「ええ、王子様。ならば、証明してくださいませ。
“あなたの選んだ未来”が、わたくしの描いた物語より――美しいのだと」

それは、敗北の宣言ではなかった。

それは、宣戦布告だった。

***

こうして、“告白”という名の反逆は、
学院に新たな波紋を投げかけた。

選ばれたのは誰か。
選ばれなかったのは誰か。
そして――選ばせようとした者の、これからの顔は。

まだ誰にも、見えていない。
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