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第3章:歪んだ契約と、選ばれなかった少女たち
第30話「王子が選ばなかった日常の中で」
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もしも“物語”というものが一本道の運命なら、
きっとこの日々は、物語の“外側”なのかもしれない。
選ばれたわけでもなく、選び取られたわけでもない。
けれど、それでも続いていく日常。
それが、今の王子アレン=ヴァルフォードの日々だった。
***
「――どうして君と、こうしてお弁当を食べてるのか、不思議になるよ」
昼休みの中庭。
アレンは、木陰のベンチに腰掛けながら、セシリアの作ったお弁当を口に運んでいた。
「どうしてって、わたしが“毎日持ってくるから”じゃないですか?」
セシリアは頬をふくらませて言う。
その口調は、どこか照れ隠しのようでもあって、
以前の“遠慮がちで怯えた少女”の面影は、そこにはもうなかった。
アレンは、ふっと目を細める。
「こういうのって、前なら全部“リリアーナが整えてた”んだよね」
「うん。お弁当の中身、時間、場所、座る角度まで――」
「……息、詰まってたな」
そのひとことに、セシリアはスプーンを止めた。
「でも、そういう“整った世界”に安心する人もいるよ。
わたしだって、ちょっと前までは、そうだったし」
「それでも君は、抜け出した」
「うん。だって、“好かれるように生きる”より、“好きでいたい”って思ったから」
その答えに、アレンは笑う。
それは小さくて、静かで、けれど確かに“本音”に触れたときの微笑だった。
***
午後の講義。
図書室での共同課題。
教室を抜け出して、旧塔の窓際で読書。
リリアーナが描いた未来設計図には、もう載っていない風景たち。
けれど、それらは確かに美しかった。
日常は、選ばなかった物語の中にも、ちゃんと息づいている。
***
その夜。
エグレア邸の温室では、リリアーナが静かに日記を閉じていた。
そこにはこう書かれていた。
【本日:王子、S嬢との行動を継続】
→観察済。異常なし。
→結び目:外れず
→特記事項:“選ばなかった日々”の安定進行
彼女は、ペンを置き、鏡の前に立つ。
そして、呟く。
「……わたくしが“選ばれた日々”は、まだ来ておりませんのね」
鏡の中で微笑む自分を見つめる。
完璧な髪型。整った瞳。染める必要すらない唇の色。
「……いいでしょう。
わたくしは、待ちますわ。
選ばれるそのときまで、“妹”として、物語の奥に静かに控えて――
そして、いつか。
“日常”という名の繕い目が、破れるその瞬間を」
蝶は、その夜もまた、静かに羽音を立てていた。
“選ばれなかった少女”はまだ、
“終わった物語”の縫い目をほどこうとしている。
きっとこの日々は、物語の“外側”なのかもしれない。
選ばれたわけでもなく、選び取られたわけでもない。
けれど、それでも続いていく日常。
それが、今の王子アレン=ヴァルフォードの日々だった。
***
「――どうして君と、こうしてお弁当を食べてるのか、不思議になるよ」
昼休みの中庭。
アレンは、木陰のベンチに腰掛けながら、セシリアの作ったお弁当を口に運んでいた。
「どうしてって、わたしが“毎日持ってくるから”じゃないですか?」
セシリアは頬をふくらませて言う。
その口調は、どこか照れ隠しのようでもあって、
以前の“遠慮がちで怯えた少女”の面影は、そこにはもうなかった。
アレンは、ふっと目を細める。
「こういうのって、前なら全部“リリアーナが整えてた”んだよね」
「うん。お弁当の中身、時間、場所、座る角度まで――」
「……息、詰まってたな」
そのひとことに、セシリアはスプーンを止めた。
「でも、そういう“整った世界”に安心する人もいるよ。
わたしだって、ちょっと前までは、そうだったし」
「それでも君は、抜け出した」
「うん。だって、“好かれるように生きる”より、“好きでいたい”って思ったから」
その答えに、アレンは笑う。
それは小さくて、静かで、けれど確かに“本音”に触れたときの微笑だった。
***
午後の講義。
図書室での共同課題。
教室を抜け出して、旧塔の窓際で読書。
リリアーナが描いた未来設計図には、もう載っていない風景たち。
けれど、それらは確かに美しかった。
日常は、選ばなかった物語の中にも、ちゃんと息づいている。
***
その夜。
エグレア邸の温室では、リリアーナが静かに日記を閉じていた。
そこにはこう書かれていた。
【本日:王子、S嬢との行動を継続】
→観察済。異常なし。
→結び目:外れず
→特記事項:“選ばなかった日々”の安定進行
彼女は、ペンを置き、鏡の前に立つ。
そして、呟く。
「……わたくしが“選ばれた日々”は、まだ来ておりませんのね」
鏡の中で微笑む自分を見つめる。
完璧な髪型。整った瞳。染める必要すらない唇の色。
「……いいでしょう。
わたくしは、待ちますわ。
選ばれるそのときまで、“妹”として、物語の奥に静かに控えて――
そして、いつか。
“日常”という名の繕い目が、破れるその瞬間を」
蝶は、その夜もまた、静かに羽音を立てていた。
“選ばれなかった少女”はまだ、
“終わった物語”の縫い目をほどこうとしている。
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