『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前

第67話「結婚式の夜、名を呼ぶ声がひとつになる」

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“名前”は、与えられるもの。
でも、心を込めて呼ばれるとき――それは運命になる。

***

祝宴のあと。
王宮の小さなバルコニーに、アレンとセシリアはふたりきりで佇んでいた。

静まり返った夜の庭園は、
昼間の拍手や歓声が嘘のように、ただ風の音だけが満ちていた。

セシリアはそっと額に手をあて、ため息をひとつ。

「……何度お辞儀したかわからないわ。
今夜だけで、一生分の“淑女”を演じた気がする」

「うん、よく頑張ってた。
でも、僕が見ていたのは、君の“演じた顔”じゃなくて――
君が途中でふっと笑った、あの本物の笑顔だから」

アレンの言葉に、セシリアは目を細める。

「そういうの、ずるいのよ。
わたし、今日くらいは格好つけたかったのに」

「格好つけてる君も好きだけど……
素の君のほうが、もっと好き」

「……ほんとに、ずるいんだから」

彼女はそう言いながら、そっと彼の肩に頭を寄せた。

風が、ふたりのドレスと礼服を揺らす。

そこに言葉はいらなかった。
もう、誓いは交わされたのだから。

けれど――その静寂を破ったのは、アレンのひとことだった。

「ねえ、呼んでもいい?」

「……なにを?」

「“名前”。今の、君の本当の名前」

その問いに、セシリアの頬がゆっくりと赤らんでいく。

「……うん。呼んで」

アレンは、彼女の手を握ったまま、
深く、ゆっくりと息を吸って――

「――セシリア=リュミエール」

呼ばれたその名は、
まるで音楽のように夜の空に溶けていった。

それは“夫婦の名”でもあり、
ふたりの“出会いの記録”でもあり、
そして、これからの世界に刻まれる、たったひとつの名だった。

セシリアは、小さく笑って応える。

「……じゃあ、わたしも呼んでいい?」

「もちろん」

「アレン――わたしの、王子様」

それは、初めて“肩書きなし”で呼んだ彼の名だった。

ふたりの声が、夜空で重なったとき、
星が流れたのを、ふたりは知らなかった。

けれどきっと、それもまた、
物語の神さまからの“祝福”だったのかもしれない。
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