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第5章:王子と令嬢、そして未来の名前
第68話「悪役令嬢が、恋を終えて微笑んだ日」
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恋が終わるとき、人は泣くと思われている。
けれど本当に恋を終えた者は――
静かに微笑むことができる。
***
その日、王宮の裏庭にはもう誰もいなかった。
結婚式の余韻も、祝宴のざわめきも消え、
風だけが、花弁をさらっている。
そこに立っていたのは、ひとりの令嬢。
かつて“悪役令嬢”と呼ばれ、
誰よりも強く、誰よりも孤独だった少女――リリアーナ=エグレア。
彼女は手にしていた小さな手帳を、ぱらぱらとめくる。
そこには、過去の“観察”が記されていた。
アレンとセシリアの会話、すれ違い、想いの重なり――
「……ここで終わり、ね」
最後のページでペンを止め、そっと閉じる。
***
「リリアーナ様、ここにいらしたのですね」
声をかけたのは、かつての侍女であり、今は近衛官となった少女――マーリエ。
彼女は微笑みながら近づく。
「王子殿下も、セシリア様も、リリアーナ様のご参列にとても喜んでおられましたよ」
「ええ。そうね。
……でも、わたくしがいたことなんて、もうすっかり忘れてると思うわ」
「それでも、“始まり”に関わったのは、リリアーナ様ですから」
その言葉に、リリアーナは少しだけ笑う。
「悪役令嬢はね、物語が終わったあとは、去るべきなのよ。
でも――それが寂しくないなんて、嘘。
だから今だけ、ここで風に吹かれてても……許してくれる?」
「もちろんです」
ふたりは肩を並べて、庭を見つめた。
***
「本当に……綺麗な花嫁でした」
マーリエがぽつりとこぼすと、
リリアーナは小さく目を細めた。
「ええ。……そして、何よりも“穏やかだった”。
きっとあの子は、“恋をしていた頃よりも幸せ”なんだと思う」
「恋をしていた頃より?」
「恋って、燃えてる間は苦しいの。
でも、それが“愛に変わった”とき――
人はようやく、微笑めるようになるのよ」
自分の言葉に、少しだけ自嘲が混じる。
かつては、アレンに惹かれていた時期もあった。
けれど、それは恋ではなかったのだと今はわかる。
彼を得たいと思ったのではなく、
彼の目に映る“理想の誰か”になりたかっただけだった。
「わたし、ようやく……恋を終えたみたい」
マーリエが何も言わず、そっと手を握る。
「これからは、“自分の物語”を書いていきましょう」
「……そうね。恋の続きを、もう一度、今度はわたくしの手で」
夜風が吹き抜ける。
悪役令嬢と呼ばれた少女は、
ついに物語の外に出て――ひとつの恋を、終わらせた。
そして、確かに微笑んだ。
けれど本当に恋を終えた者は――
静かに微笑むことができる。
***
その日、王宮の裏庭にはもう誰もいなかった。
結婚式の余韻も、祝宴のざわめきも消え、
風だけが、花弁をさらっている。
そこに立っていたのは、ひとりの令嬢。
かつて“悪役令嬢”と呼ばれ、
誰よりも強く、誰よりも孤独だった少女――リリアーナ=エグレア。
彼女は手にしていた小さな手帳を、ぱらぱらとめくる。
そこには、過去の“観察”が記されていた。
アレンとセシリアの会話、すれ違い、想いの重なり――
「……ここで終わり、ね」
最後のページでペンを止め、そっと閉じる。
***
「リリアーナ様、ここにいらしたのですね」
声をかけたのは、かつての侍女であり、今は近衛官となった少女――マーリエ。
彼女は微笑みながら近づく。
「王子殿下も、セシリア様も、リリアーナ様のご参列にとても喜んでおられましたよ」
「ええ。そうね。
……でも、わたくしがいたことなんて、もうすっかり忘れてると思うわ」
「それでも、“始まり”に関わったのは、リリアーナ様ですから」
その言葉に、リリアーナは少しだけ笑う。
「悪役令嬢はね、物語が終わったあとは、去るべきなのよ。
でも――それが寂しくないなんて、嘘。
だから今だけ、ここで風に吹かれてても……許してくれる?」
「もちろんです」
ふたりは肩を並べて、庭を見つめた。
***
「本当に……綺麗な花嫁でした」
マーリエがぽつりとこぼすと、
リリアーナは小さく目を細めた。
「ええ。……そして、何よりも“穏やかだった”。
きっとあの子は、“恋をしていた頃よりも幸せ”なんだと思う」
「恋をしていた頃より?」
「恋って、燃えてる間は苦しいの。
でも、それが“愛に変わった”とき――
人はようやく、微笑めるようになるのよ」
自分の言葉に、少しだけ自嘲が混じる。
かつては、アレンに惹かれていた時期もあった。
けれど、それは恋ではなかったのだと今はわかる。
彼を得たいと思ったのではなく、
彼の目に映る“理想の誰か”になりたかっただけだった。
「わたし、ようやく……恋を終えたみたい」
マーリエが何も言わず、そっと手を握る。
「これからは、“自分の物語”を書いていきましょう」
「……そうね。恋の続きを、もう一度、今度はわたくしの手で」
夜風が吹き抜ける。
悪役令嬢と呼ばれた少女は、
ついに物語の外に出て――ひとつの恋を、終わらせた。
そして、確かに微笑んだ。
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