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第一章 異世界のアルコータス
自警団員
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「おまえ、いい名前してるな! 気に入ったぜ!」
短髪の中年が、腹を押さえながら言った。
続いてエルフが口を開く。
「魔道士だって? 師匠の名前はなんていうの?」
俺は言葉につまった。
「う……うぅ~ん……?」
マトイが助け舟を出してくれる。
「この人、記憶喪失なんだって。ブルート・ファクツは使えるけど、常識さえ覚束ないの」
それから俺に向き直り、
「彼女はナムリッド。この自警団アルバの専属魔道士なの」
俺は長い金髪のエルフを見た。
魔道士か。
注意しないとボロが出るな。
もっとも、俺は自ら魔道士と名乗ったわけじゃない。
それにマトイを助けたことは事実だ。
いざとなれば開き直ることもできるだろう。
ナムリッドが眉根を寄せて言う。
「本当に魔道士なの?」
これにもマトイが答えてくれた。
「本当よ。アタシの目の前で、剣から光線を出してオークを一刀両断にしたんだから」
ナムリッドは遠くを見るような表情になった。
納得したように言う。
「そういう技があることは聞いたことがある。どうやら、ブルート・ファクツが使えるってことだけは本当のようね……」
そのとき、隣の続きの間から人影が現れた。
マトイと同じくらいの背丈。
背の低い、ミニスカメイドさんだ!
彼女のかわいい衣装だけでも俺の目を奪うには十分だったが、それだけじゃない。
彼女の毛先がカールした藍色のショートボブの上には、ネコミミがピクピク動いていた。
なんてこった!
伝説のネコミミメイドさんだ!
ネコミミメイドさんは藍色のメイド服に白いエプロンをつけ、もちろん白いニーソに革靴だ。
メイド服は袖なしタイプで、両手首に銀色のリングを十個くらいつけている。
メイドさんは俺たちの前まで来た。
「おかえりなさい、マトイ。お昼ごはんは?」
「まだ。彼の分もお願い」
それを聞いてから、メイドさんは俺に向かって会釈してくる。
「わたくし、ここの家財一切を管理しております、メイドのイリアンです」
それから部屋の隅を手で指し示して続ける。
「暑かったり寒かったりしたら、おっしゃってください。エアコンを調整しますから」
イリアンの示した方向へ目をやる。
水色の透明な円柱が立っていた。
高さ二メートルくらい。
これがエアコンなら、間違いなく魔法で動いているものだろう。
室温は少し涼しくて気持ちよかった。
そのことをイリアンに伝える。
「いや、お構いなく。ちょうどいいよ」
「かしこまりました」
そう答えて、イリアンはきびすを返した。
続きの間へ向かって行きながら言う。
「ロシュー、あと二人分おねがーい!」
おそらく向こうがキッチンだろう。
マトイが俺に説明してくれる。
「ロシューはイリアンのお兄さんで、コックがメインの仕事」
バイクの起動に使ったリングを外して、ドアの横にあるフックに引っかけながら続ける。
「それじゃ、空いてる席に座って食事してて。アタシ、シャワー浴びてくる」
そう言い残してマトイは奥へ向かう。
壁の一面が武器置き場になっていて、途中でそこに銃を立てかける。
壁には様々な武器が収まっていた。
長弓、ウォーハンマー、白いスタッフ、二振りの偃月刀に、太い長槍。
もっとも目を引くのは、何かチェーンソーめいた機械仕掛のある、巨大な赤い片刃剣だ。
それは圧倒的な威圧感があった。
実物の武器の迫力に見とれてると、マトイは奥の扉に消えた。
金髪エルフのナムリッドが声をかけてくれた。
「ここに来なさいよ。わたしの隣」
「ああ、ありがとう」
俺は応えて、彼女の隣の椅子についた。
ナムリッドが興味深げに話かけてくる。
「わたしはナムリッド。もう知ってるわね。わたしたち、後で話し合うことがあると思うけど」
「そうかもしれないな……」
俺は平然とした態度で返しておいた。
ナムリッドはスマートで背が高い。
だが、胸は痩せていない。
ぐっとくるプロポーションだ。
それになんか、いい匂いがする。
ナムリッドは続けた。
「私の隣にいる無愛想な美人はヒサメ。長弓の使い手よ」
黒髪のヒサメは、切れ長の目で俺をちらっと見ただけだった。
凛とした姿勢で、ゆっくりと食事を続ける。
長弓の使い手か。
どうりで弓道部員みたいなカッコウしてるわけだ。
次は、向かいの席から声をかけられた。
中年男がテーブルの上へ身を乗り出し、右手を伸ばしてくる。
「俺は『所帯持ち』のトゥリー。斥候が必要なときはスカウト。だいたいいつも切り込み隊長だ」
俺も身を乗り出して握手した。
トゥリーは席に戻ると、フォークで俺の背後を指し示した。
あの機械仕掛のある赤い片刃剣だ。
「見とれてただろう、アレに。男なら誰でも惹かれる。あのデカブツは魔導剣・ギルティプレジャー。マナ・ファクツで動作する分には、最高クラスの破壊力を持つ。車だって簡単に真っ二つにできる」
そこで溜めを作ってから続ける。
「マトイの親父、アルクラッド団長のエモノだ」
「ぐぶぅっ!?」
俺は何も口にしてないのに、喉をつまらせかけた。
まさかマトイが団長の娘だったとは!
しかもその団長ってのは、あんな化け物じみた大剣を操る怪物だ。
そんな親父の娘と、勢いでえっちしてしまった。
しかも処女を奪ってしまった。
向こうからすれば、どこの馬の骨ともしれないこの俺が!
バレたらどんな目にあうことやら……。
でももう、半分バレてるような気がする!
トゥリーの左隣、全身鎧の中からくぐもった笑いが響いた。
意外なことに女の声だった。
「フフフ、あの鬼団長の娘に手を出すとは命知らずなヤツだ……」
声は女だが、頭をすっぽりと覆うヘルメットのおかげで顔はまったくわからない。
食事中だが、口元もカバーで隠されている。
鎧の女はガントレットをつけた手でフォークを握り、肉を口元に運ぶ。
ヘルメットのカバーを左手で開けて、肉を口に放りこむと、またカバーで口が隠される。
キイキイ金属音を鳴らしながら、二人の鎧姿はそれを繰り返している。
その異様さに、俺は凝視してしまった。
鎧の女が咎めるような口調で言う。
「なんだ、鎧がそんなに珍しいか?」
隣の鎧がやはりくぐもった声で、それに続いた。
「姉さん、そんなにいじめてやるなよ……」
こっちは男だ。
俺は話しかけてみた。
「なんだって、食事中に鎧をつけてるんだ?」
男のほうが答える。
「日々、鍛錬だ」
トゥリーが、もごもご咀嚼しながら教えてくれた。
「姉がアデーレ、弟がクラウパー。困り者の双子だ」
俺の右隣からナムリッドが言った。
「これで団長が来れば、アルバの構成員全員よ。覚えた?」
「な、なんとか……」
俺が答えると、ナムリッドの向こうから声がした。
「ごちそうさま」
弓道部員みたいなカッコウのヒサメだ。
ヒサメは肉の載っていた皿、野菜の入っていた小鉢、ナイフ、フォークをひとまとめにすると立ち上がった。
「これから午後はずっと訓練センターにいる」
それだけ言うと、食器を持ってキッチンへ向かう。
白い道着に紺色の袴、足元はブーツ。
後ろ髪は黒いリボンで束ねられている。
美人だが、俺にはホント無関心だ。
ヒサメと入れ替わるように、ネコミミメイドのイリアンが料理を運んでくる。
「マトイはここでいいわね」
と、ヒサメのいた席に料理を置き、次に俺のほうへやってきた。
俺の目の前に料理が置かれる。
「はいどうぞ、残さず食べてください」
「ありがとう、助かるよ」
野菜はブロッコリーにヤングコーン、トマト。
得体の知れないものじゃなくて良かった。
白い皿に載ったステーキは、やたらと真四角だ。
他のみんなの肉も、綺麗な正方形だった。
俺は軽い気持ちで聞いた。
「ここの肉って、どうしてこんなに四角いんだ? 余分な部分はどうしてるの?」
イリアンはネコミミをぴくりとさせて首を傾げた。
「お肉はみんな、こういう形ですよ?」
「ええっ?」
俺の驚きに、ちょっとした沈黙が訪れる。
斜向かいの鎧、アデーレがくぐもった声で言った。
「さてはおまえ、田舎者だな! それもドがつくほどの!」
短髪の中年が、腹を押さえながら言った。
続いてエルフが口を開く。
「魔道士だって? 師匠の名前はなんていうの?」
俺は言葉につまった。
「う……うぅ~ん……?」
マトイが助け舟を出してくれる。
「この人、記憶喪失なんだって。ブルート・ファクツは使えるけど、常識さえ覚束ないの」
それから俺に向き直り、
「彼女はナムリッド。この自警団アルバの専属魔道士なの」
俺は長い金髪のエルフを見た。
魔道士か。
注意しないとボロが出るな。
もっとも、俺は自ら魔道士と名乗ったわけじゃない。
それにマトイを助けたことは事実だ。
いざとなれば開き直ることもできるだろう。
ナムリッドが眉根を寄せて言う。
「本当に魔道士なの?」
これにもマトイが答えてくれた。
「本当よ。アタシの目の前で、剣から光線を出してオークを一刀両断にしたんだから」
ナムリッドは遠くを見るような表情になった。
納得したように言う。
「そういう技があることは聞いたことがある。どうやら、ブルート・ファクツが使えるってことだけは本当のようね……」
そのとき、隣の続きの間から人影が現れた。
マトイと同じくらいの背丈。
背の低い、ミニスカメイドさんだ!
彼女のかわいい衣装だけでも俺の目を奪うには十分だったが、それだけじゃない。
彼女の毛先がカールした藍色のショートボブの上には、ネコミミがピクピク動いていた。
なんてこった!
伝説のネコミミメイドさんだ!
ネコミミメイドさんは藍色のメイド服に白いエプロンをつけ、もちろん白いニーソに革靴だ。
メイド服は袖なしタイプで、両手首に銀色のリングを十個くらいつけている。
メイドさんは俺たちの前まで来た。
「おかえりなさい、マトイ。お昼ごはんは?」
「まだ。彼の分もお願い」
それを聞いてから、メイドさんは俺に向かって会釈してくる。
「わたくし、ここの家財一切を管理しております、メイドのイリアンです」
それから部屋の隅を手で指し示して続ける。
「暑かったり寒かったりしたら、おっしゃってください。エアコンを調整しますから」
イリアンの示した方向へ目をやる。
水色の透明な円柱が立っていた。
高さ二メートルくらい。
これがエアコンなら、間違いなく魔法で動いているものだろう。
室温は少し涼しくて気持ちよかった。
そのことをイリアンに伝える。
「いや、お構いなく。ちょうどいいよ」
「かしこまりました」
そう答えて、イリアンはきびすを返した。
続きの間へ向かって行きながら言う。
「ロシュー、あと二人分おねがーい!」
おそらく向こうがキッチンだろう。
マトイが俺に説明してくれる。
「ロシューはイリアンのお兄さんで、コックがメインの仕事」
バイクの起動に使ったリングを外して、ドアの横にあるフックに引っかけながら続ける。
「それじゃ、空いてる席に座って食事してて。アタシ、シャワー浴びてくる」
そう言い残してマトイは奥へ向かう。
壁の一面が武器置き場になっていて、途中でそこに銃を立てかける。
壁には様々な武器が収まっていた。
長弓、ウォーハンマー、白いスタッフ、二振りの偃月刀に、太い長槍。
もっとも目を引くのは、何かチェーンソーめいた機械仕掛のある、巨大な赤い片刃剣だ。
それは圧倒的な威圧感があった。
実物の武器の迫力に見とれてると、マトイは奥の扉に消えた。
金髪エルフのナムリッドが声をかけてくれた。
「ここに来なさいよ。わたしの隣」
「ああ、ありがとう」
俺は応えて、彼女の隣の椅子についた。
ナムリッドが興味深げに話かけてくる。
「わたしはナムリッド。もう知ってるわね。わたしたち、後で話し合うことがあると思うけど」
「そうかもしれないな……」
俺は平然とした態度で返しておいた。
ナムリッドはスマートで背が高い。
だが、胸は痩せていない。
ぐっとくるプロポーションだ。
それになんか、いい匂いがする。
ナムリッドは続けた。
「私の隣にいる無愛想な美人はヒサメ。長弓の使い手よ」
黒髪のヒサメは、切れ長の目で俺をちらっと見ただけだった。
凛とした姿勢で、ゆっくりと食事を続ける。
長弓の使い手か。
どうりで弓道部員みたいなカッコウしてるわけだ。
次は、向かいの席から声をかけられた。
中年男がテーブルの上へ身を乗り出し、右手を伸ばしてくる。
「俺は『所帯持ち』のトゥリー。斥候が必要なときはスカウト。だいたいいつも切り込み隊長だ」
俺も身を乗り出して握手した。
トゥリーは席に戻ると、フォークで俺の背後を指し示した。
あの機械仕掛のある赤い片刃剣だ。
「見とれてただろう、アレに。男なら誰でも惹かれる。あのデカブツは魔導剣・ギルティプレジャー。マナ・ファクツで動作する分には、最高クラスの破壊力を持つ。車だって簡単に真っ二つにできる」
そこで溜めを作ってから続ける。
「マトイの親父、アルクラッド団長のエモノだ」
「ぐぶぅっ!?」
俺は何も口にしてないのに、喉をつまらせかけた。
まさかマトイが団長の娘だったとは!
しかもその団長ってのは、あんな化け物じみた大剣を操る怪物だ。
そんな親父の娘と、勢いでえっちしてしまった。
しかも処女を奪ってしまった。
向こうからすれば、どこの馬の骨ともしれないこの俺が!
バレたらどんな目にあうことやら……。
でももう、半分バレてるような気がする!
トゥリーの左隣、全身鎧の中からくぐもった笑いが響いた。
意外なことに女の声だった。
「フフフ、あの鬼団長の娘に手を出すとは命知らずなヤツだ……」
声は女だが、頭をすっぽりと覆うヘルメットのおかげで顔はまったくわからない。
食事中だが、口元もカバーで隠されている。
鎧の女はガントレットをつけた手でフォークを握り、肉を口元に運ぶ。
ヘルメットのカバーを左手で開けて、肉を口に放りこむと、またカバーで口が隠される。
キイキイ金属音を鳴らしながら、二人の鎧姿はそれを繰り返している。
その異様さに、俺は凝視してしまった。
鎧の女が咎めるような口調で言う。
「なんだ、鎧がそんなに珍しいか?」
隣の鎧がやはりくぐもった声で、それに続いた。
「姉さん、そんなにいじめてやるなよ……」
こっちは男だ。
俺は話しかけてみた。
「なんだって、食事中に鎧をつけてるんだ?」
男のほうが答える。
「日々、鍛錬だ」
トゥリーが、もごもご咀嚼しながら教えてくれた。
「姉がアデーレ、弟がクラウパー。困り者の双子だ」
俺の右隣からナムリッドが言った。
「これで団長が来れば、アルバの構成員全員よ。覚えた?」
「な、なんとか……」
俺が答えると、ナムリッドの向こうから声がした。
「ごちそうさま」
弓道部員みたいなカッコウのヒサメだ。
ヒサメは肉の載っていた皿、野菜の入っていた小鉢、ナイフ、フォークをひとまとめにすると立ち上がった。
「これから午後はずっと訓練センターにいる」
それだけ言うと、食器を持ってキッチンへ向かう。
白い道着に紺色の袴、足元はブーツ。
後ろ髪は黒いリボンで束ねられている。
美人だが、俺にはホント無関心だ。
ヒサメと入れ替わるように、ネコミミメイドのイリアンが料理を運んでくる。
「マトイはここでいいわね」
と、ヒサメのいた席に料理を置き、次に俺のほうへやってきた。
俺の目の前に料理が置かれる。
「はいどうぞ、残さず食べてください」
「ありがとう、助かるよ」
野菜はブロッコリーにヤングコーン、トマト。
得体の知れないものじゃなくて良かった。
白い皿に載ったステーキは、やたらと真四角だ。
他のみんなの肉も、綺麗な正方形だった。
俺は軽い気持ちで聞いた。
「ここの肉って、どうしてこんなに四角いんだ? 余分な部分はどうしてるの?」
イリアンはネコミミをぴくりとさせて首を傾げた。
「お肉はみんな、こういう形ですよ?」
「ええっ?」
俺の驚きに、ちょっとした沈黙が訪れる。
斜向かいの鎧、アデーレがくぐもった声で言った。
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