タネツケ世界統一 下品な名前で呼ばれてるけど、俺、世界を救うみたいです

進常椀富

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第二章 女神の揺籃 イシュタルテア

ネスト

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 森が途切れて荒れ地が広がった。
 俺たちは円錐形の山へ迫っていく。
  赤茶色の山裾に大洞窟が口を開けていた。
 晴れた青空の下、ミッションシップはその中へ突入する。
 スピードが緩められて、ゆっくりと大空洞の中央を進んでいく。
 開口部が広いため、光は十分だった。
 野球をするには狭いが、陸上競技ができるくらいの広さがある。
 周囲は粗い岩肌だが、地面はほぼ平坦といってよかった。
 天然の洞窟とは思えない。
 設計があって人工的に作られたものでもないだろう。
 マザー・アカバムの怪物と学園生との戦いの歴史が、この大空洞を形作ったのかもしれない。
 干からびた苔のようなものがあちこちにあるのは、戦いの名残だろう。
 ミッションシップは止まることなく進み、今度は奥の斜路を下る。
 この道も、ミッションシップがすれ違えるくらい広い。
 天井に光の玉が点々と連なって内部を照らしていた。
 すぐに次の大空洞に達する。
 ここも照明で明るく、ミッションシップはゆっくりと、しかし止まることなく素通りした。
 斜路から大空洞へ。
 それを何度も繰り返して、俺たちはどんどん地下へ下っていく。
 今度の空洞に点在する苔の山は、まだ湿っているように見えた。
 そこから続く斜路には明かりがなく、暗闇だった。
 操縦席の隣で、サリーが指示を出す。
「照明弾発射」
 ミッションシップから光の玉が発射されて周囲を照らした。
 落下してこないところからして、俺の知っているものとは違う。
 鬼っ子のモーサッドとネコ目のネサベルがおしゃべりを止めた。
 二人は頭を巡らせて周囲に気を配り始める。
 襲撃が近いのか?
 俺とシャルロッテもそれにならってみるが、まだ怪物の姿はない。
 黒髪のサレニアも本を膝の上に置いて、なにかに備えているようだった。
 暢気なままなのは、ペルチオーネとイクサだけだ。
 ミッションシップは進み、照明弾は進行方向にも発射された。
 どういう仕組みか、光の玉は斜路を下ったあと上昇し、次の空洞を明るくする。
 その空洞に達する。
 見渡してみると、ここには苔の山がなかった。
 まだ戦闘が行われていない場所らしい。
 中央まで進んだとき、操縦席のシフォラナが言った。
「次の階層から反応多数」
 それを聞いて、サリーがこちらを振り返った。
「ミッションシップを傷つけると怒られるから、ここまで。みんな、降りるよ」
 ミッションシップは下へ続く通路の手前で停まった。
 準備を整え、サリーを先頭にして降りていく。
 洞窟内の空気は湿度と温度が高く、生臭かった。
 俺たちの頭上から、ミッションシップが照明弾を連続発射した。
 光の玉の連なりから、一つまた一つと天井に貼りつき、奥を照らしていく。
 斜路の中は光で満たされた。
 照明弾の残りがさらに深部へと消える。
 数瞬のち、多くの獣の咆哮が空気を震わせて響いてきた。
 続いて、斜路の下に異形が姿を現す。
 虫のような四足で歩行し、人間めいた上半身を持つ怪物だった。
 鋭い牙をした髑髏の頭をのけぞらせて、こちらへ迫ってくる。
 怪物は次々と現れて数を増し、怒涛の軍勢を形成した。
 俺はペルチオーネを引き抜いて備える。
 褐色肌のシフォラナが、ミサイル筒を携えて前へ進み出た。
「最初はアタシにまーかせて」
 そう言って片膝をつき、ミサイル筒を構える。
「ま、いつも通りね。みんなシフォラナから離れて」
 サリーが手を振って俺たちを下がらせる。
 シフォラナがトリガーを引いた。
 筒の後ろから噴射煙が吹き出し、怪物の群れにミサイルが飛んでいく。
 ミサイルは群れの中央で爆発した。
 爆音と断末魔が交じり合って轟く。
 爆発に生き残った怪物たちが、怒りの声をあげて、さらに足を速めて突っ込んでくる。
 そこへサリーが攻撃を開始した。
 バイザーから赤い光線が発射され、一体ずつ怪物を吹き飛ばしていく。
 もともと生臭かった空気に、さらに血の匂いが濃くなってきた。
 ふと見ると、黒髪のサレニアがうつむき、肩を抱いてぶるぶる震えていた。
 やっぱりコイツは戦闘が苦手なのか、三年生なのに……。
 俺は声をかけた。
「大丈夫かサレニア……?」
 サレニアは震え声で答えた。
「も、もうがまんできない……」
「えっ?」
 サレニアが弾かれたように身を起こした。
 その姿に衝撃を受ける。
 瞳は収縮して赤く輝き、口が耳元まで裂けて牙が乱雑に生えていた。
 モーサッドより凶悪な姿をした鬼だった。
「食わせろォォォォッ!!!」
 サレニアは叫びながら腕を振りあげ、怪物の群れに飛び込んで行く。
 弾丸のようなスピードだった。
 まだ余裕の様子をしたモーサッドが腕組みしながら言う。
「はしたないわねサレニアったら」
 シフォラナがミサイル発射の手を休めて口を開いた。
「朝食を抜いて楽しみにしてたお食事会だからね」
 サレニアは驚異的な身体能力で、モンスターの群れの上を飛び跳ねていた。
「うめぇ! うめぇ!」
 サレニアは噛みつき、引き裂き、まさしく跳梁跋扈している。
 俺たち新参組に向かって、サリーが忠告してくれた。
「サレニアに攻撃を当てちゃだめよ。むこうは怪我しないだろうけど、こっちを襲ってくるから」
 俺はあっけにとられた。
「なんだよそれ……」
 シフォラナが愚痴っぽく言う。
「こうなったらしゃあないな。貫通弾頭に切り替えて、ちまちまやってくか」
 こちらがしばし攻撃の手を休めたことで、群れの数が増した。
 ネコ目ショートカットのネサベルが一歩前へ出て、群れに槍の穂先を向けた。
「行け、ガーリー!」
 槍の先からソードリングらしい青い少女の姿が飛び出し、竜巻のように回転しながら、多数の敵を引き裂く。
 ドリフティング・ウェポンにはあんな力もあるのか……?
 俺も真似してみようと、剣先を群れに向けて叫んだ。
「行け、ペルチオーネ!」
『いけないでしょ?』
「……そうか、試してみただけだ」
 俺の左隣りで、シャルロッテが言った。
「そろそろわたくしも参加します」
 シャルロッテは両手をあげて頭上で交差させる。
「ミスト・ナイフ!」
 前方の空間に無数のきらめく刃が出現した。
 青い光の刃は、小魚の群れのように空中を飛び、怪物の身体に穴を開ける。
 シャルロッテにこんな力があるとは知らなかった。
 驚いて尋ねる。
「どうしてこんなすごい力を隠してたんだよ?」
 シャルロッテはかすかに微笑んだ。
「わたくしは夜の種族のなかでは若いので図書館の番人などをやらされていましたが、実は屋内で使える技のほうが少ないのです」
 ガーリーとミスト・ナイフの力で、怪物は瞬く間に減っていった。
 グールと化したサレニアは、より多くの怪物を求めて奥へ行ってしまい、もう姿が見えない。
 サリーが先頭に立って歩き始めた。
「奥にはまだまだいるよ。進軍!」
 俺たちはまさに軍隊並みの攻撃力を持っていた。
 どんどん怪物の群れを押していく。
 モーサッドは手から魔法の弾を出し、俺は剣・ビームを放つ。
 どちらもぜんぜん主力といえない。
 みんなの撃ち漏らしを始末する程度だ。
 このメンバーのなかにあっては、俺などまったく小物のような気がした。
 下の階層の空洞には、モンスターがひしめいていた。
 それでも問題ない。
 俺たちの攻撃する手をじゃっかん早めれば済むことだった。
 鬼人が飛び跳ね、ミサイルが爆発し、光線が飛び交う。
 怪物は怒りと断末魔を叫び、肉片となって散らばる。
 俺たちは接近戦に入ることもなかった。
 敵に触れているのは、唯一、サレニアのみだ。
 俺は戦慄しつつ思い至った。
 この八人だけで、ザッカラントの率いた十万のモンスター軍と渡り合えるッ!
 三十分と経たずして、敵は全滅した。
 ちなみにイクサはずっとサボっていた。
 死体が苔のような形に変わっていく。
 か弱そうな少女の姿に戻ったサレニアが、歩いて帰ってくる。
 制服も顔も髪も血でべったりと汚れていた。
 サレニアは腹を撫でながら言った。
「やっぱり戦いなんて浅ましいことですわ」
「おまえ、腹がいっぱいになっただけだろう」
 シフォラナがつっこむ。
 俺はサリーに向かって聞いた。
「これで終わりか?」
「まさか」
 サリーは岩壁の一角を指さして続けた。
「あそこが前回、3―Aが施した封印よ」
「ふーん……」
 なんのことかわからないが、そっちに目を向ける。
 しばらく見つめていると、唐突に大音響が空気を震わせ、岩壁が飛び散った。
 土煙の向こうから、巨大な姿が浮かびあがる。
 体高は十メートル近く。
 獣の胎児のような姿に、屈強な腕が二本。
 下半身は四つの車輪で支えられていた。
 車輪がゴリゴリと地面を削って進み、怪物は耳を聾する吠え声をあげた。
「な、なんだよ、アレ……?」
 慌てているものは誰もいない。
 俺の質問に答えず、サリーがバイザーを触りながら言った。
「魔人ユニットなし。身体の内部にもいないみたい。2―Aの相手でもおかしくないね」
 それから、俺を振り返る。
「ここは実力検分も兼ねて、新入りさん三人で倒してもらいましょう」
 モーサッドがせせら笑う。
「死ぬ前には助けてやるわ。借りがあるから」
 なにを言ってるんだコイツらは……。
 3―Cの級友たちは、さっさと後ろへ下がってしまう。
 俺、シャルロッテ、イクサの三人が残された。
 俺は残った二人と顔を見合わせた。
 悔しいことに、二人とも落ち着いている。
 焦っているのは俺だけだ。
 それならば……。
 逃げるわけにもいかないだろうッ!!!

 

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