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番外編3
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目を覚ますと、白い天井が見えた。
頭がくらくらするし、身体が重い。
真陽奈も伊緒もリサもいない。
病室か……?
目を擦ろうと右腕を持ち上げると、そこには白いコードが付けられていた。
それだけじゃない。その腕は太くて肌の張りがなく、体毛が濃かった。
僕の腕じゃない!
眠気が吹き飛んだ。
呼吸が浅く速いものになるのを感じながら身を起こすと、今度は腹部に圧迫感を感じた。
たっぷり贅肉のついた腹が、白いTシャツをこんもり盛り上げている。胸にも肉が盛り上がってるし、下半身、灰色のトランクスから伸びる丸い太ももから脛まで、黒くて濃い体毛で覆われていた。
僕は声も出せず、狂おしく鏡を探す。
右手側の壁が、全面鏡張りになっていた。
そこに映っていたのは、ベッドの上に身を起こし、頭と腕と脚に白いコードをつけてうろたえている、でっぷり太った中年男の姿だった。
そんなバカな、メガネをかけてよく確かめないと!
僕はメガネを探しかけ、すぐに思いなおした。
……いや、そんな必要はない。よく見えている。
物心つき始めたころからメガネをかけていた僕だけど、ここ一ヶ月で急激に視力が回復したんだった。
その現実がきっかけとなって、寄せ波のように記憶が蘇ってくる。
鏡に映っている中年男は、間違いなく僕だ。
僕の名前は高田昌男。三十八歳。職業はゲームのプログラマー。練馬のアパートで寂しく地味な生活を送っている独身男だ……。
伊緒、リサ、真陽奈……すべては夢だったのか。
「ああ……」
僕は両手に顔をうずめて嘆息した。
「楽しかった……」
高田明人として過ごした十七年間のリアリティが、その現実感の強さをもって、今の僕を打ちのめす。
しばらく泣くに泣けぬ悲嘆にくれていると、当然の疑問が湧いてきた。
ここはどこだ?
白い室内は病室を思わせるけど、普通の病室じゃない。
ドアが一つに窓は無し、ベッド一つが置けるくらいの広さしかない僕専用個室だ。
右側の壁だけが鏡張りということは、僕は向こう側から観察されているのだろうか。
体中についた白いコードはすべて、枕もとに立つ四角い機械につながれていた。
たぶん脳波に脈拍……全部測りっぱなしか?
僕はすべてのコードを身体から剥がして、ベッドから床の上に降り立った。
気分は沈んでいたし、身体も重く感じるけど、酷い病気という気はしない。
事情を聞くためにドアへ向かうと、ちょうど外側からドアが開いた。
ドアを開けたのは、髪も髭ももじゃもじゃの男だった。
白衣を着て黒縁メガネをかけている。歳は僕とそんなに変わらないだろう。
その男は慌てふためいた様子で話しかけてきた。
「う、動けるんですか? 大丈夫ですか?」
「ええ、そりゃまあ……」
僕はぶっきらぼうに答える。
男は、僕の頭から足の先までに視線を走らせてから続けた。
「我々はこの半年間、ほとんど何のケアもせずにあなたを見守ってきました。あなたのことを次元接続体と判断したからです」
「……えっ?!」
飲み込むのに少しの間が必要だった。
半年……次元接続体……?!
「あなたは間違いなく次元接続体と言えましょう。半年ものあいだ寝たきりだった人間が立てるわけはないですから。まずは採血させてください。必要なことなんです」
「……わかりました」
思っていたよりずっと複雑なことになってきた。
ここは彼の言うことを聞いて、一つずつ順序立てて物事を消化していくしかない……。
頭がくらくらするし、身体が重い。
真陽奈も伊緒もリサもいない。
病室か……?
目を擦ろうと右腕を持ち上げると、そこには白いコードが付けられていた。
それだけじゃない。その腕は太くて肌の張りがなく、体毛が濃かった。
僕の腕じゃない!
眠気が吹き飛んだ。
呼吸が浅く速いものになるのを感じながら身を起こすと、今度は腹部に圧迫感を感じた。
たっぷり贅肉のついた腹が、白いTシャツをこんもり盛り上げている。胸にも肉が盛り上がってるし、下半身、灰色のトランクスから伸びる丸い太ももから脛まで、黒くて濃い体毛で覆われていた。
僕は声も出せず、狂おしく鏡を探す。
右手側の壁が、全面鏡張りになっていた。
そこに映っていたのは、ベッドの上に身を起こし、頭と腕と脚に白いコードをつけてうろたえている、でっぷり太った中年男の姿だった。
そんなバカな、メガネをかけてよく確かめないと!
僕はメガネを探しかけ、すぐに思いなおした。
……いや、そんな必要はない。よく見えている。
物心つき始めたころからメガネをかけていた僕だけど、ここ一ヶ月で急激に視力が回復したんだった。
その現実がきっかけとなって、寄せ波のように記憶が蘇ってくる。
鏡に映っている中年男は、間違いなく僕だ。
僕の名前は高田昌男。三十八歳。職業はゲームのプログラマー。練馬のアパートで寂しく地味な生活を送っている独身男だ……。
伊緒、リサ、真陽奈……すべては夢だったのか。
「ああ……」
僕は両手に顔をうずめて嘆息した。
「楽しかった……」
高田明人として過ごした十七年間のリアリティが、その現実感の強さをもって、今の僕を打ちのめす。
しばらく泣くに泣けぬ悲嘆にくれていると、当然の疑問が湧いてきた。
ここはどこだ?
白い室内は病室を思わせるけど、普通の病室じゃない。
ドアが一つに窓は無し、ベッド一つが置けるくらいの広さしかない僕専用個室だ。
右側の壁だけが鏡張りということは、僕は向こう側から観察されているのだろうか。
体中についた白いコードはすべて、枕もとに立つ四角い機械につながれていた。
たぶん脳波に脈拍……全部測りっぱなしか?
僕はすべてのコードを身体から剥がして、ベッドから床の上に降り立った。
気分は沈んでいたし、身体も重く感じるけど、酷い病気という気はしない。
事情を聞くためにドアへ向かうと、ちょうど外側からドアが開いた。
ドアを開けたのは、髪も髭ももじゃもじゃの男だった。
白衣を着て黒縁メガネをかけている。歳は僕とそんなに変わらないだろう。
その男は慌てふためいた様子で話しかけてきた。
「う、動けるんですか? 大丈夫ですか?」
「ええ、そりゃまあ……」
僕はぶっきらぼうに答える。
男は、僕の頭から足の先までに視線を走らせてから続けた。
「我々はこの半年間、ほとんど何のケアもせずにあなたを見守ってきました。あなたのことを次元接続体と判断したからです」
「……えっ?!」
飲み込むのに少しの間が必要だった。
半年……次元接続体……?!
「あなたは間違いなく次元接続体と言えましょう。半年ものあいだ寝たきりだった人間が立てるわけはないですから。まずは採血させてください。必要なことなんです」
「……わかりました」
思っていたよりずっと複雑なことになってきた。
ここは彼の言うことを聞いて、一つずつ順序立てて物事を消化していくしかない……。
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