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三年間会えなかった大好きな旦那が、やっと帰ってきます!
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旦那とは三年会っていません!
そう言うと皆、お労しやという顔をされる。
仲が悪いとか、愛人宅に通われているとかそんなことは全くない。
では何故、旦那の燈矢くんとは会えないのか。
燈矢くんはアルファで、どこに出しても恥ずかしくないほど優秀だ。
海外を飛び回る日々で、気付けば帰ってこれない生活になっていた。
めでたし、めでたし。
…なわけもなく、僕は家に抗議の声を上げた。
おかしいだろ、新婚の二人が三年も離されるなんて!
それも深刻に受け止めて貰えず、今に至る。
お互いの気持ちがあったからよかったけど、家の都合で結婚したのに…。少しぐらいお願い聞いてくれてもよくない?と思ったのは内緒だ。
「律希?」
「ああ、ごめん。燈矢くん、分かった。僕は大丈夫だから。あんまり心配しないで」
「いーや、律希は鈍いから気付いたら誰かに取られてしまいそうで怖いよ」
ノートパソコンを使ったテレビ通話でしか会話出来ないのも慣れてしまった。
画面に映る燈矢くんは、三年前よりも精悍な顔付きでずっと大人になっている。
けれど、目の下の隈は隠しきれていなくて疲れがたまっている人という印象が拭いきらない。
僕が隣にいれば、燈矢くんと辛いことも大変なことも少しは背負ってあげられるのに。
燈矢くんに付いて僕も海外へと行きたかった。
その主張は、燈矢くんに止められ、兄達にも止められ、両親達にも止められた。
なんでも生活力の低い僕では、海外では暮らせないと断言されてしまった。兄も両親も別にいいが、一緒に暮らす燈矢くんに言われれば引き下がるしかなかった。
そしてこの高級住宅地に建てられた家で一人寂しく過ごしていた。
「…燈矢くん以外の人なんて知らないよ」
首もとを画面に見せ付ける。そこには一つしかない傷跡。
三年前に付けられた噛み跡はくっきりと残っていた。
「律希…」
「…燈矢くんいなくても平気だけどね、食べたものとかちょっとしたことを報告するときに隣にいて欲しいなって思うよ」
「律希!」
画面が真っ暗になる。燈矢くんは年上で優秀なのに感情が高ぶるとすぐに目の前のものに抱きつく。
そんなところが可愛いなって思うし、本物の僕に抱きついて欲しいなと思う。
「それでね、燈矢くん。言いたいことが…」
「…っ、すまない律希。仕事だ、また連絡するから」
ぷつりと通信が切断される。さっきの真っ暗とは違う、画面が動かない真っ暗さだ。
「……また、言いそびれた」
広いリビングにため息が響く。
二年前ほどから燈矢くんに報告したくても報告出来ないことがあった。
伝えようとする度にタイミング良く、さっきのように邪魔される。
僕と会話したくないのかと疑ったこともある。
けれど、そんなことはなくて本当に忙しいのに、その合間をぬって僕に連絡をくれる。
嬉しくないわけがなかった。
だからこそちゃんと伝えたいと思っているのに…。
ノートパソコンの横に置いたスマホが震える。
画面には友人の名前があった。
スマホを取り通話ボタンを押した。
「彼方くん、どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえよ。もうそろそろ時間だ」
時計をみれば二十一時に近かった。
「あっ、ごめん。燈矢くんと話してて…」
「…話せたのか?」
「全然。またたどり着く前に切れちゃった」
「そうか。やっぱりURL送ったほうが早くないか?」
電話の相手は幼少からの親友、彼方くんだ。
「だって、やっぱり直接言いたいし…。あとちょっと何も知らない人に、急に見せるのは恥ずかしいよ」
「いやー綺堂だって流行ぐらい調べてるだろうから、知ってるだろ」
「し、知ってるかもしれないけど!職業を伝えるのと、その詳細まで分かるのを送りつけるのだと話が違うじゃん」
「はいはい。俺はそこには深く関わらないけどな。ほら、本当に時間だ」
返事もしないうちに通話が切れる。
はぁ。彼方くんの言うことも分かる。だけど僕はやっぱり…。
「時間!」
いくつかある部屋の一室に飛び込む。
広い部屋はパソコンなどの機材しか置いていない。
パソコンを立ち上げて準備をして、一息つく。
「こんゆえ~月隠ゆえです。今日もゆるりとよろしくお願いします~」
薄い紫色の髪にボブヘアー。頭には狐耳が生えてぴくぴくと動く。
設定は人妻貞淑僕っ子狐だそうだ。なんじゃそりゃと思うが、これがネットでの僕の姿。
このVTuberとしての活動が、燈矢くんに伝えられずにいることだった。
何故こんなことを?
そう聞かれれば、不倫するドラマによくある使い古された言葉。
寂しくて、というやつだ。
燈矢くんは結婚して、すぐに出張だのと海外に飛び立ってしまい、僕はどうしようもなく暇で寂しかった。
とはいえ、ドラマのように不倫する気もなくただただ漫然と過ごす日々。
そんなところにある日、彼方くんから連絡が来た。
「俺さ、律希なら人妻貞淑僕っ子狐になれると思うんだよな」
「…どういうこと?」
彼方くんは家にいても働きたい。僕は寂しさを埋めたい。そんなわけで始めたのがこの活動だった。
「じゃあ、今日は前回の続きからやります~」
月隠ゆえの声はボイスチェンジャーを使っていた。
話し方はあまり変えていないので、見る人が見れば分かるなというのが彼方くん談だ。
流れてくるコメント欄を見る。
みんな、僕の拙いゲームプレイを楽しんでくれて、一緒に喜んだり悲しんだりしてくれる。
それが心地いい。
誰かの声があるだけで、燈矢くんのいない寂しさがほんの少し埋められていくのを感じた。
「じゃあ今日はこの辺りで…。みんな最近寒いから暖かくして寝てね」
ぷつりと配信を切る。時間を見ると日付を越える間近だ。今日はちょっと盛り上がって長くやっちゃったな。
ヘッドホンを外し、軽く機材を片付けた。
配信後は彼方くんに終わったよと電話していたが、さすがにもう寝ているだろうとメッセージを送る。
さて、僕も寝ようかな。
配信に使っている部屋を出て、寝室に戻る。二人で使っていた寝室ではなく別の部屋だ。
二人の寝室はベッドが大きい。燈矢くんが発情期も二人で過ごせるようにと選んでくれたやつだ。
それに一人で寝るのが嫌で、別の部屋を使っている。
ベッドへとのそのそ入る。起毛のシーツだから暖かいはずなのにどこか寒い。冷えた足を暖めるように擦り合わせる。
「燈矢くんのバカ…」
燈矢くんのせいじゃない。燈矢くんがいなくても寂しいけど平気。そんなの全部嘘だ。
本当は毎日帰ってきて欲しいし、朝だって燈矢くんの顔見て目を覚ましたい。
ぎゅっと、燈矢くんが贈ってきた、服を着た大きいくまのぬいぐるみを抱き締める。
僕のこと何歳だと思っているのか。そもそもオメガだけど男で、別にぬいぐるみなんて好きでもない。
けれど気付いたら違う国に飛んでいる燈矢くんが、忙しい合間に選んだのだ。それだけで、このくまのぬいぐるみにも愛着が沸いてくる。
もう一度抱き締める。
届いた時は服から燈矢くんの匂いがしたのに、今ではもう薄くなってしまった匂い。
本物を嗅がなすぎてこれが本当に燈矢くんのものかも分からない。
そうしているうちに、目蓋は落ちていき眠りについていた。
―――――
翌朝、ベッドから抜け出し外を見るとうっすらと雪が積もっていた。
「道理で寒いわけで…」
昨晩の冷え込みもこれかーなどと考えていると、スマホが震える。
画面を見れば、彼方くんだ。
「もしもし?」
「よお、はよ。昨日はお疲れ」
「おはよう、どうしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。平気ならいい」
「なんか心配させちゃった?平気だよ」
そう、平気なはずだ。
「はぁ。まあ、近いうちに律希の家に行くよ」
「え、大丈夫なの?」
「なんで俺が涼哉にご機嫌伺わないといけないんだよ」
「涼哉、うるさいじゃん」
涼哉はもう一人の幼馴染で、彼方くんと付き合っている。
彼方くんが外に出るのも嫌がるらしく、痴話喧嘩をよく聞いていた。たまにそれも羨ましくなってしまう。
「知るか。俺は俺のしたいことする」
「…ありがとう。来てくれるときはご飯いっぱい作るね」
「おう、角煮たらふく作って。律希のが一番うまい」
「いいよ、容器にいれて持ち帰って」
それからもう少し世間話をして通話を切る。
ふぅと一息ついた。
「心配させちゃったなー」
彼方くんは昔からすぐ色々と気付いてくれる。
友達だけど家族のようでもあった。
階段を下り、キッチンへと向かう。
普段は家事をした後に、月隠ゆえの名前を検索したりする。感想やイラストを描いてくれる人がいて、それを見るのが最近の楽しみだ。
そうやって昼過ぎまで過ごしていると、電源を付けっぱなしにしているノートパソコンから通知音が鳴った。
「燈矢くんだ…!」
リビングのテーブルに置いていたノートパソコンに勢いよく近づき、通話ボタンをクリックする。
そこには今まで見たことない程に、にこやかな顔をしている燈矢くんの姿があった。
「律希…来週、戻れるぞ!」
「……え」
「ようやく、後任が育ってな。これで日本に戻れる」
燈矢くんが帰ってくる…。
「本当?本当の本当?」
「ああ、三年も一人にして悪かった。ごめん。あとちょっとだから」
「…もう我慢しなくて平気?」
我慢してたのは僕だけじゃないのに、自分ばかり我慢していたみたいな言葉が出てしまう。
もっと燈矢くんみたいに喜びたいのに、この寂しさから解放されるという気持ちが大きい。
「うん。ごめん、近くにいれなくて。律希、我慢してくれるから甘えちゃったな」
「ううん、違う、いや違くないんだけど。そうじゃなくて…もう言ってもいい?」
最初の頃はよく言っていた言葉。
でも段々と言わなくなった。燈矢くんが困ったように笑うのが申し訳なくなったからだ。
寂しくて、嫌なのも事実だ。
だけど仕事をして、やるべきことをやっている燈矢くんが好きで困らせたいわけではなかったから。
寂しいはいっぱい伝えたし、燈矢くんには全部バレてたと思うけど。
「いいよ。律希の言葉が聞きたいな」
「…早く帰ってきて…」
久しぶりに言った言葉だ。
口に出すと抑えていた寂しさがどんどん溢れる。
「…クリスマスツリー見に行きたい」
「今年は行けるよ。結婚前に行ったやつを見に行こう」
公園に置かれた大きなもみの木に、イルミネーションが飾られ、天辺にはキラキラとした星がついたクリスマスツリー。
高校卒業したら結婚することは決まっていた。わざわざ言葉にしなくてもよかったのに、結婚しようって言ってくれたあの日を今でも思い出す。
「いぐうぅ」
涙がポロポロと止まらない。鼻水も出てきてきっと酷い顔面だ。
燈矢くんはおろおろとしているのにどこか嬉しそうだった。
「いや、どうしよう!燈矢くんに言えてない!」
「もう諦めれば?帰ってきたら嫌でも気付くだろ」
本日二度目の彼方くんとの通話。
何故なら、僕には彼方くんしか友達がいないからだ。
めそめそしながら燈矢くんとの通話を切った僕は気付いたのだった。
VTuberのこと言えていないことに。
「そうだけど。でもやっぱ言いたいし」
「直接会ってから言えばいいだろ。そしたら邪魔も入らないし」
「……うぅ。やっぱりそれしか…?」
「綺堂が帰ってきたら、一週間は配信しないんだから。そこで伝えとけよ、じゃあな」
「あっ、ああ待って彼方く……切れた」
あれはこの話題には飽きているな。まあ二年も似たようなやり取りを繰り返せばそうなるか。
僕がずっと同じ話をしても飽きないのは燈矢くんぐらいだと思う。
そんなこんなであっという間に一週間が経つ。
こんなに指折り日にちを数えて、浮かれているのはいつ以来だろうか。
ずっと鼻歌歌いたい気分だった。いや歌っていた。
配信でもコメントで楽しそうだねと言われてしまうぐらいには浮かれきっていた。
色々と料理を作ったり買ったりして準備万端だ。ちょっと早いけどクリスマスパーティーのようなものだ。
空港についたと連絡があって一時間ほど。そろそろ家に着く頃だ。
ピンポーンと、インターホンの音が響く。
「来たっ!」
玄関まで駆けていく。ドアを開けると、そこには待ち焦がれていた人の姿だ。
「ちゃんと見ないと不用心だよ、律希」
「燈矢くんだって確信してるもん」
ぎゅっと胸に抱き付くと、燈矢くんの胸に閉じ込められる。触れたところから熱が伝わる。燈矢くんの熱、匂い。
忘れてしまったと思っていたのに、三年前と変わらないとすぐ分かった。
「ただいま、律希」
「おかえり、燈矢くん」
バタンとドアが閉まる。二人だけの空間だ。
思いのままに抱き付いて、どのくらい経っただろうか。少しだけ満足して、そっと離れる。
「…ご飯、いっぱい用意したから食べ…っん」
「後でいいよ」
頭半分ほど大きい燈矢くんに顎を軽く取られて唇を塞がれた。
長い舌が入り込み絡め取られる。久しぶりのキスなのに容赦なく吸われて頭がくらくらとしてくる。
「…っ、あふ…」
「…先に律希がいいな」
唇が離れて、耳元で囁かれる。燈矢くんの甘く低い声。いつもの張りのある声とは違う。
頷くと、脇と膝裏に手を差し込まれて持ち上げられる。転んだ子供を運ぶように軽々と持たれて、二人の寝室へと向かった。
―――――
「…っん」
あっという間に二人の寝室に連れて行かれて、押し倒される。
そしてまるっと脱がされて、燈矢くんの指が足先から登っていく。
「…律希、これ何?」
「んんっ♡」
かつと軽い音が鳴り、存在を知らしめるように引っ張られる。
「ぷ、プラグ…っあ、やあ♡」
「なんでこんなの挿れているの?」
抜けるように出ている出っ張りに指を掛けたまま、燈矢くんに聞かれる。ちょっとだけ怒ったように見えるけど、そんなところもきゅんとしてしまう。
「だって、早くしたかったから、っひぁ」
勢いよくプラグを抜かれてちゅぽんと音が鳴った。
孔が閉じずにひくつき、どろりと中に挿れていたローションが尻を伝っていく。
燈矢くんがプラグをポイとベッドに投げ捨てると、乱雑に指を挿れかき回す。
「今回はいいけど、次からは俺が全部するから」
「っあ♡…んん、あっ♡」
「分かった?」
「わかっ、分かったぁ♡」
早くめちゃくちゃにされたい。燈矢くんの苛立った視線を浴びるだけで、ぞくぞくと背筋を駆け抜けていく。
僕にだけ見せる剥き出しの感情が堪らない。
これを味わえるのは世界で僕だけだ。
ローションを掻き出すよう、節くれだった長い指が中で暴れる。
「…ひっん♡あっ、ん…燈矢くんっ、いれてぇ…」
「まだ俺が慣らしてないから駄目」
「んんっ…あっ、ふぁ♡いじわる…ぁ、ん」
シーツが掻き出されたローションで濡れていく。
燈矢くんにしがみつくようにねだっても、指で弄ばれるだけで欲しいものをくれない。
もうずっと待っているのに。寂しくて、一人で慰めることも出来ないほどに待っているのに、まだ焦らすのか。
「…はやっ、はやくぅ♡…ん、あうっ」
「…律希はねだるのが上手だ」
「あッ…ん、…ふぁ♡と…やくっ…」
荒々しく指が抜かれる。腰を抱え上げるように持ち上げられると張り詰めた燈矢くんのものが押し当てられる。
「んっ♡」
熱い。触れたそこは燃えてしまうように熱くて、その熱さで埋めて欲しい。
願うほどに時間がゆっくりに感じる。
「とおやく…っは…んん♡」
「…っ!律希」
燈矢くんのもので中が埋められていく。待ち望んだものなのにあまりの圧迫感に腰が引ける。
「…っ、い…やぁ…♡」
「逃げない」
「あっ、んん♡だめっ…あ、ふ」
逃げたのを咎めるように、腰を打ち付けられて震えた。感じた恐怖も一瞬で飛んで、燈矢くんのことで頭がいっぱいになる。
「と、やくん…っあ、キス…ッ♡」
「はっ」
せがむように手を伸ばすと、腕を引っ張られて腰を抱えられる。
座るように燈矢くんの膝の上へと乗っけられる。
そして唇を奪われた。
「んん♡はぁ…っ、すき♡」
「俺も」
「…す、っき♡…あ、ふ…とおやくっ…♡」
息も奪われて、下から揺さぶられる。ぐちゅぐちゅと音が耳を刺激する。
どこもかしこも燈矢くんが触れてくれる。触れられていないところなんてないんじゃないかと思うほどに。
奥へ、奥へと埋まる熱さ。ごりごりと腹のイイところを擦られて我慢が出来なくなる。
「っ、…イッ♡イッちゃ…ッあ、ん」
「…っ!」
「ひぃあ♡……っ、………ふあ♡」
熱さが僕の中で弾けて、奥へと注ぎ込まれる。イッた瞬間に瞑った目を開ける。燈矢くんが眉をひそめて気持ちよさそうに出している。
可愛い。今まで貯めた欲を僕にぶつける燈矢くんが可愛くて、キスが止まらない。ちゅっちゅと顔の至るところに唇で触る。
「んっ♡燈矢くん…すき、だいすき」
「俺も律希のこと愛してるよ」
もう一度、唇が重なる。
いつの間にかまた揺さぶられて、意識を飛ばしていた。
―――――
隣から寒さを感じるようで目が覚める。
腕を動かしても、欲しい熱が見当たらない。
「燈矢くん!」
がばっと勢いよくベッドから起き上がって、部屋を見渡す。
そこには――
「どうしたの?」
「…また一人かと思って…焦っちゃった」
ベッド脇に立って水を飲んでいる燈矢くんの姿。
見慣れた姿に安心する。
ぎしりとベッドが音を立て、燈矢くんが近づく。
「ごめん…もう当分は日本だから」
「……次、海外行く時は絶対、絶対に僕も着いていくから」
生活力がなんだ。世間知らずがなんだ。燈矢くんに反対されても着いていくのだと、今心に決めた。
「…まあ、それはその時にならないとね」
「む」
「それより用意してくれてたご飯、つまんだけど美味しかった。後でゆっくり食べよう」
「本当?買ったのもあるけど、大体は作ったんだよ」
燈矢くんの好きなもの。からあげ、オムライス、ハンバーグ。クリスマスぽくないものあるが気持ちが大事なのだと、色々と作ったのだった。お肉!大事!と肉が多めなのもご愛敬だ。
「律希の料理、食べたくて仕方なかった」
「僕も食べて欲しかった」
燈矢くんの胸に頭を寄せると軽く抱き締められる。
ぽかぽかとした満足感に胸がいっぱいだった。
「それで律希」
「ん?」
「VTuberはいつ止めるの?」
「……え?」
思考が止まる。何故、燈矢くんがそのワードを?いや知っているかも知れないけど…。止めるの?とは。
燈矢くんを見れば、欲なんてありませんって雰囲気のするにこやかな顔だ。
だというのに何となく圧を感じる。
「…な、なんのこと…」
圧のせいか、うっかり言い逃れの言葉を探してしまった。今のタイミングで言えばいいのに!と自分で突っ込んでももう遅い。口から出た言葉は誤魔化しだ。
「へぇ、誤魔化すの?」
「そんなつもりは…どこで知ったの?」
「家に届く荷物は俺にも通知が来ること忘れた?」
「……あっ」
自分のものだからと、結婚前に貯めていたお金で買っていたがそんなところから漏れていたなんて。
荷物の通知が行くなんて聞いたことあったかなと考えるが思い出せない。多分僕が忘れているんだろう。
「後は涼哉からちょっと」
「……そう、なんだ…」
「それで止めるの?」
「…や、辞めたくはない…」
寂しさから始めたVTuber業。彼方くんと模索しながらやるのが楽しくて続けていた。
どうするにしても彼方くんに相談しないのは良くない。
「俺がいなくて寂しいから始めたんだから、帰ってきたらいらなくない?」
「…寂しいから始めたってなんで知って…?」
「そりゃ聞いてたから」
燈矢くんは何事もないように言う。聞いてたから?何を?僕の配信を?
「こんゆえ~って可愛かったけど。喋り方は律希でも、声が女の子だからか変な感じだったな~」
「ぎゃっ!燈矢くんから出なさそうな言葉…!」
顔に熱が集まって、身体の内側から熱くなる。誰かがみたら真っ赤になっているはずだ。
「…そういえば、涼哉っていくつだっけ?」
「なんで急に?ひとつ上だから22歳かな」
「そう…。じゃああと一年ぐらいかな」
ぼそりと小さく燈矢くんが呟く。聞き取りにくい言葉が聞き取れたけど意味が分からなかった。
「何が一年なの?」
「律希は気にしなくて平気だよ」
そう言って燈矢くんは少しだけ黙り込む。あれは何か考えているときの顔だ。どんなに楽しいことを考えていても眉が少し寄ってつり上がる。
出会った当初は、不快にさせたかと不安になったこともあった。癖に気付いてからは、見るのが楽しみになった。
「…よし決めた。俺が日本に居ても昼間は時間があるしね。俺は口出ししないよ」
「ほ、本当?」
「うん。律希だって成人したんだし、いつまでも俺が過保護にするのはよくないよな」
「…それは別に嬉しいからいいんだけど…」
燈矢くんの身体に抱きつく。三年で少し痩せているが変わらないぬくもりだ。
ぐりぐりと頭を押し付けると強く抱き締められる。
「だけど、俺との時間は減らさないでね」
「それはもちろん…燈矢くん」
「ん?」
「明日は、クリスマスツリー見に行こうね」
伝わるぬくもりから、三年間の寂しさや不安が解けて無くなっていくようだった。
そう言うと皆、お労しやという顔をされる。
仲が悪いとか、愛人宅に通われているとかそんなことは全くない。
では何故、旦那の燈矢くんとは会えないのか。
燈矢くんはアルファで、どこに出しても恥ずかしくないほど優秀だ。
海外を飛び回る日々で、気付けば帰ってこれない生活になっていた。
めでたし、めでたし。
…なわけもなく、僕は家に抗議の声を上げた。
おかしいだろ、新婚の二人が三年も離されるなんて!
それも深刻に受け止めて貰えず、今に至る。
お互いの気持ちがあったからよかったけど、家の都合で結婚したのに…。少しぐらいお願い聞いてくれてもよくない?と思ったのは内緒だ。
「律希?」
「ああ、ごめん。燈矢くん、分かった。僕は大丈夫だから。あんまり心配しないで」
「いーや、律希は鈍いから気付いたら誰かに取られてしまいそうで怖いよ」
ノートパソコンを使ったテレビ通話でしか会話出来ないのも慣れてしまった。
画面に映る燈矢くんは、三年前よりも精悍な顔付きでずっと大人になっている。
けれど、目の下の隈は隠しきれていなくて疲れがたまっている人という印象が拭いきらない。
僕が隣にいれば、燈矢くんと辛いことも大変なことも少しは背負ってあげられるのに。
燈矢くんに付いて僕も海外へと行きたかった。
その主張は、燈矢くんに止められ、兄達にも止められ、両親達にも止められた。
なんでも生活力の低い僕では、海外では暮らせないと断言されてしまった。兄も両親も別にいいが、一緒に暮らす燈矢くんに言われれば引き下がるしかなかった。
そしてこの高級住宅地に建てられた家で一人寂しく過ごしていた。
「…燈矢くん以外の人なんて知らないよ」
首もとを画面に見せ付ける。そこには一つしかない傷跡。
三年前に付けられた噛み跡はくっきりと残っていた。
「律希…」
「…燈矢くんいなくても平気だけどね、食べたものとかちょっとしたことを報告するときに隣にいて欲しいなって思うよ」
「律希!」
画面が真っ暗になる。燈矢くんは年上で優秀なのに感情が高ぶるとすぐに目の前のものに抱きつく。
そんなところが可愛いなって思うし、本物の僕に抱きついて欲しいなと思う。
「それでね、燈矢くん。言いたいことが…」
「…っ、すまない律希。仕事だ、また連絡するから」
ぷつりと通信が切断される。さっきの真っ暗とは違う、画面が動かない真っ暗さだ。
「……また、言いそびれた」
広いリビングにため息が響く。
二年前ほどから燈矢くんに報告したくても報告出来ないことがあった。
伝えようとする度にタイミング良く、さっきのように邪魔される。
僕と会話したくないのかと疑ったこともある。
けれど、そんなことはなくて本当に忙しいのに、その合間をぬって僕に連絡をくれる。
嬉しくないわけがなかった。
だからこそちゃんと伝えたいと思っているのに…。
ノートパソコンの横に置いたスマホが震える。
画面には友人の名前があった。
スマホを取り通話ボタンを押した。
「彼方くん、どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえよ。もうそろそろ時間だ」
時計をみれば二十一時に近かった。
「あっ、ごめん。燈矢くんと話してて…」
「…話せたのか?」
「全然。またたどり着く前に切れちゃった」
「そうか。やっぱりURL送ったほうが早くないか?」
電話の相手は幼少からの親友、彼方くんだ。
「だって、やっぱり直接言いたいし…。あとちょっと何も知らない人に、急に見せるのは恥ずかしいよ」
「いやー綺堂だって流行ぐらい調べてるだろうから、知ってるだろ」
「し、知ってるかもしれないけど!職業を伝えるのと、その詳細まで分かるのを送りつけるのだと話が違うじゃん」
「はいはい。俺はそこには深く関わらないけどな。ほら、本当に時間だ」
返事もしないうちに通話が切れる。
はぁ。彼方くんの言うことも分かる。だけど僕はやっぱり…。
「時間!」
いくつかある部屋の一室に飛び込む。
広い部屋はパソコンなどの機材しか置いていない。
パソコンを立ち上げて準備をして、一息つく。
「こんゆえ~月隠ゆえです。今日もゆるりとよろしくお願いします~」
薄い紫色の髪にボブヘアー。頭には狐耳が生えてぴくぴくと動く。
設定は人妻貞淑僕っ子狐だそうだ。なんじゃそりゃと思うが、これがネットでの僕の姿。
このVTuberとしての活動が、燈矢くんに伝えられずにいることだった。
何故こんなことを?
そう聞かれれば、不倫するドラマによくある使い古された言葉。
寂しくて、というやつだ。
燈矢くんは結婚して、すぐに出張だのと海外に飛び立ってしまい、僕はどうしようもなく暇で寂しかった。
とはいえ、ドラマのように不倫する気もなくただただ漫然と過ごす日々。
そんなところにある日、彼方くんから連絡が来た。
「俺さ、律希なら人妻貞淑僕っ子狐になれると思うんだよな」
「…どういうこと?」
彼方くんは家にいても働きたい。僕は寂しさを埋めたい。そんなわけで始めたのがこの活動だった。
「じゃあ、今日は前回の続きからやります~」
月隠ゆえの声はボイスチェンジャーを使っていた。
話し方はあまり変えていないので、見る人が見れば分かるなというのが彼方くん談だ。
流れてくるコメント欄を見る。
みんな、僕の拙いゲームプレイを楽しんでくれて、一緒に喜んだり悲しんだりしてくれる。
それが心地いい。
誰かの声があるだけで、燈矢くんのいない寂しさがほんの少し埋められていくのを感じた。
「じゃあ今日はこの辺りで…。みんな最近寒いから暖かくして寝てね」
ぷつりと配信を切る。時間を見ると日付を越える間近だ。今日はちょっと盛り上がって長くやっちゃったな。
ヘッドホンを外し、軽く機材を片付けた。
配信後は彼方くんに終わったよと電話していたが、さすがにもう寝ているだろうとメッセージを送る。
さて、僕も寝ようかな。
配信に使っている部屋を出て、寝室に戻る。二人で使っていた寝室ではなく別の部屋だ。
二人の寝室はベッドが大きい。燈矢くんが発情期も二人で過ごせるようにと選んでくれたやつだ。
それに一人で寝るのが嫌で、別の部屋を使っている。
ベッドへとのそのそ入る。起毛のシーツだから暖かいはずなのにどこか寒い。冷えた足を暖めるように擦り合わせる。
「燈矢くんのバカ…」
燈矢くんのせいじゃない。燈矢くんがいなくても寂しいけど平気。そんなの全部嘘だ。
本当は毎日帰ってきて欲しいし、朝だって燈矢くんの顔見て目を覚ましたい。
ぎゅっと、燈矢くんが贈ってきた、服を着た大きいくまのぬいぐるみを抱き締める。
僕のこと何歳だと思っているのか。そもそもオメガだけど男で、別にぬいぐるみなんて好きでもない。
けれど気付いたら違う国に飛んでいる燈矢くんが、忙しい合間に選んだのだ。それだけで、このくまのぬいぐるみにも愛着が沸いてくる。
もう一度抱き締める。
届いた時は服から燈矢くんの匂いがしたのに、今ではもう薄くなってしまった匂い。
本物を嗅がなすぎてこれが本当に燈矢くんのものかも分からない。
そうしているうちに、目蓋は落ちていき眠りについていた。
―――――
翌朝、ベッドから抜け出し外を見るとうっすらと雪が積もっていた。
「道理で寒いわけで…」
昨晩の冷え込みもこれかーなどと考えていると、スマホが震える。
画面を見れば、彼方くんだ。
「もしもし?」
「よお、はよ。昨日はお疲れ」
「おはよう、どうしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。平気ならいい」
「なんか心配させちゃった?平気だよ」
そう、平気なはずだ。
「はぁ。まあ、近いうちに律希の家に行くよ」
「え、大丈夫なの?」
「なんで俺が涼哉にご機嫌伺わないといけないんだよ」
「涼哉、うるさいじゃん」
涼哉はもう一人の幼馴染で、彼方くんと付き合っている。
彼方くんが外に出るのも嫌がるらしく、痴話喧嘩をよく聞いていた。たまにそれも羨ましくなってしまう。
「知るか。俺は俺のしたいことする」
「…ありがとう。来てくれるときはご飯いっぱい作るね」
「おう、角煮たらふく作って。律希のが一番うまい」
「いいよ、容器にいれて持ち帰って」
それからもう少し世間話をして通話を切る。
ふぅと一息ついた。
「心配させちゃったなー」
彼方くんは昔からすぐ色々と気付いてくれる。
友達だけど家族のようでもあった。
階段を下り、キッチンへと向かう。
普段は家事をした後に、月隠ゆえの名前を検索したりする。感想やイラストを描いてくれる人がいて、それを見るのが最近の楽しみだ。
そうやって昼過ぎまで過ごしていると、電源を付けっぱなしにしているノートパソコンから通知音が鳴った。
「燈矢くんだ…!」
リビングのテーブルに置いていたノートパソコンに勢いよく近づき、通話ボタンをクリックする。
そこには今まで見たことない程に、にこやかな顔をしている燈矢くんの姿があった。
「律希…来週、戻れるぞ!」
「……え」
「ようやく、後任が育ってな。これで日本に戻れる」
燈矢くんが帰ってくる…。
「本当?本当の本当?」
「ああ、三年も一人にして悪かった。ごめん。あとちょっとだから」
「…もう我慢しなくて平気?」
我慢してたのは僕だけじゃないのに、自分ばかり我慢していたみたいな言葉が出てしまう。
もっと燈矢くんみたいに喜びたいのに、この寂しさから解放されるという気持ちが大きい。
「うん。ごめん、近くにいれなくて。律希、我慢してくれるから甘えちゃったな」
「ううん、違う、いや違くないんだけど。そうじゃなくて…もう言ってもいい?」
最初の頃はよく言っていた言葉。
でも段々と言わなくなった。燈矢くんが困ったように笑うのが申し訳なくなったからだ。
寂しくて、嫌なのも事実だ。
だけど仕事をして、やるべきことをやっている燈矢くんが好きで困らせたいわけではなかったから。
寂しいはいっぱい伝えたし、燈矢くんには全部バレてたと思うけど。
「いいよ。律希の言葉が聞きたいな」
「…早く帰ってきて…」
久しぶりに言った言葉だ。
口に出すと抑えていた寂しさがどんどん溢れる。
「…クリスマスツリー見に行きたい」
「今年は行けるよ。結婚前に行ったやつを見に行こう」
公園に置かれた大きなもみの木に、イルミネーションが飾られ、天辺にはキラキラとした星がついたクリスマスツリー。
高校卒業したら結婚することは決まっていた。わざわざ言葉にしなくてもよかったのに、結婚しようって言ってくれたあの日を今でも思い出す。
「いぐうぅ」
涙がポロポロと止まらない。鼻水も出てきてきっと酷い顔面だ。
燈矢くんはおろおろとしているのにどこか嬉しそうだった。
「いや、どうしよう!燈矢くんに言えてない!」
「もう諦めれば?帰ってきたら嫌でも気付くだろ」
本日二度目の彼方くんとの通話。
何故なら、僕には彼方くんしか友達がいないからだ。
めそめそしながら燈矢くんとの通話を切った僕は気付いたのだった。
VTuberのこと言えていないことに。
「そうだけど。でもやっぱ言いたいし」
「直接会ってから言えばいいだろ。そしたら邪魔も入らないし」
「……うぅ。やっぱりそれしか…?」
「綺堂が帰ってきたら、一週間は配信しないんだから。そこで伝えとけよ、じゃあな」
「あっ、ああ待って彼方く……切れた」
あれはこの話題には飽きているな。まあ二年も似たようなやり取りを繰り返せばそうなるか。
僕がずっと同じ話をしても飽きないのは燈矢くんぐらいだと思う。
そんなこんなであっという間に一週間が経つ。
こんなに指折り日にちを数えて、浮かれているのはいつ以来だろうか。
ずっと鼻歌歌いたい気分だった。いや歌っていた。
配信でもコメントで楽しそうだねと言われてしまうぐらいには浮かれきっていた。
色々と料理を作ったり買ったりして準備万端だ。ちょっと早いけどクリスマスパーティーのようなものだ。
空港についたと連絡があって一時間ほど。そろそろ家に着く頃だ。
ピンポーンと、インターホンの音が響く。
「来たっ!」
玄関まで駆けていく。ドアを開けると、そこには待ち焦がれていた人の姿だ。
「ちゃんと見ないと不用心だよ、律希」
「燈矢くんだって確信してるもん」
ぎゅっと胸に抱き付くと、燈矢くんの胸に閉じ込められる。触れたところから熱が伝わる。燈矢くんの熱、匂い。
忘れてしまったと思っていたのに、三年前と変わらないとすぐ分かった。
「ただいま、律希」
「おかえり、燈矢くん」
バタンとドアが閉まる。二人だけの空間だ。
思いのままに抱き付いて、どのくらい経っただろうか。少しだけ満足して、そっと離れる。
「…ご飯、いっぱい用意したから食べ…っん」
「後でいいよ」
頭半分ほど大きい燈矢くんに顎を軽く取られて唇を塞がれた。
長い舌が入り込み絡め取られる。久しぶりのキスなのに容赦なく吸われて頭がくらくらとしてくる。
「…っ、あふ…」
「…先に律希がいいな」
唇が離れて、耳元で囁かれる。燈矢くんの甘く低い声。いつもの張りのある声とは違う。
頷くと、脇と膝裏に手を差し込まれて持ち上げられる。転んだ子供を運ぶように軽々と持たれて、二人の寝室へと向かった。
―――――
「…っん」
あっという間に二人の寝室に連れて行かれて、押し倒される。
そしてまるっと脱がされて、燈矢くんの指が足先から登っていく。
「…律希、これ何?」
「んんっ♡」
かつと軽い音が鳴り、存在を知らしめるように引っ張られる。
「ぷ、プラグ…っあ、やあ♡」
「なんでこんなの挿れているの?」
抜けるように出ている出っ張りに指を掛けたまま、燈矢くんに聞かれる。ちょっとだけ怒ったように見えるけど、そんなところもきゅんとしてしまう。
「だって、早くしたかったから、っひぁ」
勢いよくプラグを抜かれてちゅぽんと音が鳴った。
孔が閉じずにひくつき、どろりと中に挿れていたローションが尻を伝っていく。
燈矢くんがプラグをポイとベッドに投げ捨てると、乱雑に指を挿れかき回す。
「今回はいいけど、次からは俺が全部するから」
「っあ♡…んん、あっ♡」
「分かった?」
「わかっ、分かったぁ♡」
早くめちゃくちゃにされたい。燈矢くんの苛立った視線を浴びるだけで、ぞくぞくと背筋を駆け抜けていく。
僕にだけ見せる剥き出しの感情が堪らない。
これを味わえるのは世界で僕だけだ。
ローションを掻き出すよう、節くれだった長い指が中で暴れる。
「…ひっん♡あっ、ん…燈矢くんっ、いれてぇ…」
「まだ俺が慣らしてないから駄目」
「んんっ…あっ、ふぁ♡いじわる…ぁ、ん」
シーツが掻き出されたローションで濡れていく。
燈矢くんにしがみつくようにねだっても、指で弄ばれるだけで欲しいものをくれない。
もうずっと待っているのに。寂しくて、一人で慰めることも出来ないほどに待っているのに、まだ焦らすのか。
「…はやっ、はやくぅ♡…ん、あうっ」
「…律希はねだるのが上手だ」
「あッ…ん、…ふぁ♡と…やくっ…」
荒々しく指が抜かれる。腰を抱え上げるように持ち上げられると張り詰めた燈矢くんのものが押し当てられる。
「んっ♡」
熱い。触れたそこは燃えてしまうように熱くて、その熱さで埋めて欲しい。
願うほどに時間がゆっくりに感じる。
「とおやく…っは…んん♡」
「…っ!律希」
燈矢くんのもので中が埋められていく。待ち望んだものなのにあまりの圧迫感に腰が引ける。
「…っ、い…やぁ…♡」
「逃げない」
「あっ、んん♡だめっ…あ、ふ」
逃げたのを咎めるように、腰を打ち付けられて震えた。感じた恐怖も一瞬で飛んで、燈矢くんのことで頭がいっぱいになる。
「と、やくん…っあ、キス…ッ♡」
「はっ」
せがむように手を伸ばすと、腕を引っ張られて腰を抱えられる。
座るように燈矢くんの膝の上へと乗っけられる。
そして唇を奪われた。
「んん♡はぁ…っ、すき♡」
「俺も」
「…す、っき♡…あ、ふ…とおやくっ…♡」
息も奪われて、下から揺さぶられる。ぐちゅぐちゅと音が耳を刺激する。
どこもかしこも燈矢くんが触れてくれる。触れられていないところなんてないんじゃないかと思うほどに。
奥へ、奥へと埋まる熱さ。ごりごりと腹のイイところを擦られて我慢が出来なくなる。
「っ、…イッ♡イッちゃ…ッあ、ん」
「…っ!」
「ひぃあ♡……っ、………ふあ♡」
熱さが僕の中で弾けて、奥へと注ぎ込まれる。イッた瞬間に瞑った目を開ける。燈矢くんが眉をひそめて気持ちよさそうに出している。
可愛い。今まで貯めた欲を僕にぶつける燈矢くんが可愛くて、キスが止まらない。ちゅっちゅと顔の至るところに唇で触る。
「んっ♡燈矢くん…すき、だいすき」
「俺も律希のこと愛してるよ」
もう一度、唇が重なる。
いつの間にかまた揺さぶられて、意識を飛ばしていた。
―――――
隣から寒さを感じるようで目が覚める。
腕を動かしても、欲しい熱が見当たらない。
「燈矢くん!」
がばっと勢いよくベッドから起き上がって、部屋を見渡す。
そこには――
「どうしたの?」
「…また一人かと思って…焦っちゃった」
ベッド脇に立って水を飲んでいる燈矢くんの姿。
見慣れた姿に安心する。
ぎしりとベッドが音を立て、燈矢くんが近づく。
「ごめん…もう当分は日本だから」
「……次、海外行く時は絶対、絶対に僕も着いていくから」
生活力がなんだ。世間知らずがなんだ。燈矢くんに反対されても着いていくのだと、今心に決めた。
「…まあ、それはその時にならないとね」
「む」
「それより用意してくれてたご飯、つまんだけど美味しかった。後でゆっくり食べよう」
「本当?買ったのもあるけど、大体は作ったんだよ」
燈矢くんの好きなもの。からあげ、オムライス、ハンバーグ。クリスマスぽくないものあるが気持ちが大事なのだと、色々と作ったのだった。お肉!大事!と肉が多めなのもご愛敬だ。
「律希の料理、食べたくて仕方なかった」
「僕も食べて欲しかった」
燈矢くんの胸に頭を寄せると軽く抱き締められる。
ぽかぽかとした満足感に胸がいっぱいだった。
「それで律希」
「ん?」
「VTuberはいつ止めるの?」
「……え?」
思考が止まる。何故、燈矢くんがそのワードを?いや知っているかも知れないけど…。止めるの?とは。
燈矢くんを見れば、欲なんてありませんって雰囲気のするにこやかな顔だ。
だというのに何となく圧を感じる。
「…な、なんのこと…」
圧のせいか、うっかり言い逃れの言葉を探してしまった。今のタイミングで言えばいいのに!と自分で突っ込んでももう遅い。口から出た言葉は誤魔化しだ。
「へぇ、誤魔化すの?」
「そんなつもりは…どこで知ったの?」
「家に届く荷物は俺にも通知が来ること忘れた?」
「……あっ」
自分のものだからと、結婚前に貯めていたお金で買っていたがそんなところから漏れていたなんて。
荷物の通知が行くなんて聞いたことあったかなと考えるが思い出せない。多分僕が忘れているんだろう。
「後は涼哉からちょっと」
「……そう、なんだ…」
「それで止めるの?」
「…や、辞めたくはない…」
寂しさから始めたVTuber業。彼方くんと模索しながらやるのが楽しくて続けていた。
どうするにしても彼方くんに相談しないのは良くない。
「俺がいなくて寂しいから始めたんだから、帰ってきたらいらなくない?」
「…寂しいから始めたってなんで知って…?」
「そりゃ聞いてたから」
燈矢くんは何事もないように言う。聞いてたから?何を?僕の配信を?
「こんゆえ~って可愛かったけど。喋り方は律希でも、声が女の子だからか変な感じだったな~」
「ぎゃっ!燈矢くんから出なさそうな言葉…!」
顔に熱が集まって、身体の内側から熱くなる。誰かがみたら真っ赤になっているはずだ。
「…そういえば、涼哉っていくつだっけ?」
「なんで急に?ひとつ上だから22歳かな」
「そう…。じゃああと一年ぐらいかな」
ぼそりと小さく燈矢くんが呟く。聞き取りにくい言葉が聞き取れたけど意味が分からなかった。
「何が一年なの?」
「律希は気にしなくて平気だよ」
そう言って燈矢くんは少しだけ黙り込む。あれは何か考えているときの顔だ。どんなに楽しいことを考えていても眉が少し寄ってつり上がる。
出会った当初は、不快にさせたかと不安になったこともあった。癖に気付いてからは、見るのが楽しみになった。
「…よし決めた。俺が日本に居ても昼間は時間があるしね。俺は口出ししないよ」
「ほ、本当?」
「うん。律希だって成人したんだし、いつまでも俺が過保護にするのはよくないよな」
「…それは別に嬉しいからいいんだけど…」
燈矢くんの身体に抱きつく。三年で少し痩せているが変わらないぬくもりだ。
ぐりぐりと頭を押し付けると強く抱き締められる。
「だけど、俺との時間は減らさないでね」
「それはもちろん…燈矢くん」
「ん?」
「明日は、クリスマスツリー見に行こうね」
伝わるぬくもりから、三年間の寂しさや不安が解けて無くなっていくようだった。
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