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子羊の皮を被っていた
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これはイケナイ恋だと分かってる。
でも──我慢なんて、できっこない。
「こんにちは、神父様!」
「こんにちは、アブラヘルさん」
私は恋をしている。
誰に?神父様に。
でも神父様は恋をしない。全てを平等に愛しているから。
神の声を聞く人だから。
だから私がいくら好きを伝えてもそれは壁打ちと同じで返ってこない。
それでも構いやしない。
好きだから。
好きで、好きで、好きで、好きでたまらないから。
この気持ちには蓋をしたまま、私は今日も敬虔な信徒のふりをする。組んだ指先に熱が篭る。
「お若いのに感心ですね」
柔らかな微笑みにかぁっと頬が熱くなる。
独り占めしたい、貴方を。
神様よりも私の方がきっと貴方を愛してる。
この世の誰より私が1番貴方を想っている。
「いえ……」
信仰心、その裏にあるのはどろどろ煮詰まった恋心。白雪姫もびっくりする猛毒。地獄の底へ真っ逆さまへ落ちていくような、罪深い思考。
ねえ、神父さま。
この気持ちは悪いことなのでしょうか?
神は人を愛しています。
なら、私が人を愛することは罪ですか?例えそれが神父さまであろうとも。
「馬鹿だねぇ、相手は神父じゃないか」
「あんなやつよりいいの、他に星ほどいるってのに」
お友達は私をそう言って馬鹿にしたわ。
でも、私にはそうは思えなかった。
私にはあの人しかいなかった。
どうしても欲しい、あの人が欲しい。
あの人じゃなきゃ嫌なの。
唇を尖らせて、教会に想いを馳せる。
ああ、愛しい人。ほんの少しでも貴方に触れることができたなら……。
私、死んでもいいわ。
この恋冷めやらず、命短し恋せよ乙女。
花の盛りは残り幾ばく。
なんて、くだらないことを思いながら私は教会へ足を踏み入れた。周囲の目を避けた夜間だ、ここでシスターや他の神父に見つかったら目も当てられない。そんなヘマはしないけど。
ちょっとくらい……そう、ちょっとだけ。礼拝堂にお邪魔して、神父さまにお手紙を置いていくくらい、許されたっていいじゃない?
この熱い想いを書き連ね、せめて恋い慕う気持ちだけでも、心の片隅に置いてくださったなら、私は幸せ。
勝手知ったる教会、礼拝堂に忍び込んだ時、声がした。
聞き間違うことない、愛しの神父さま!
こんな遅くまでお祈りをしていらっしゃるなんて、まさに神の使徒に相応しいお方。
そろり、そろりと足を踏み出して私は様子をうかがう。
そして、絶句した。
「ひっ……」
信者たちが祈りをささげる祭壇に六芒星、逆十字。ヤギの足。
悪魔信仰だ。
思わず後ろに下がると壁にぶつかって、ガタンと大きな音を立ててしまった。
「誰だッ!」
ああ、ごまかせない。私はゆっくりと、出ていった。
「アブラヘル……」
いつもの温かさはない、冷たい声が私を呼ぶ。
怖い、気がする。
目の前にいるのはいつもの神父さま?
「何しにここへ?」
私は答えない。答えたところで、見逃されるわけがないと分かっているから。
「まあいいか。可哀想に」
神父さまが、懐からナイフを取り出した。
「君が悪いんだ、アブラヘル」
「そんな……っ、神父さま……!」
なんということ。
神に仕える神父さまが、こんな……!
自分でも訳の分からない感情が込み上げて涙が溢れた。
ああ、神父さま。貴方という人は……!
祈るように指を組む。
「主よ、どうかこの罪深き人をお許しください」
悪魔に魅入られて、可哀想に。
神父さまがナイフを持った手を振りかぶる。
どうか、この人に救いの手を──
「なんて誰が言うかよバーカッ!あははははははっ!」
嬉しくてたまらない。
高揚。
心臓が胸を食い破ってしまいそう。私は紛れもなく、興奮していた。
「何がおかしい?」
神父さまが笑いだした私に怯む。怯んだその手を捻りあげると、カランと乾いた音を立ててナイフが落ちる。
おかしい事なんて何もないの。
でも、早く言ってしまえば良かったのね!
風が渦巻いて、私の皮を剥いでいく。
ロウソクの灯りが消えて、窓から差し込む月明かりが私を照らした。
袋が裏返しになるように、「ほんとうの私」が姿を表す。
──ねえ、神父様。
貴方が呼んだ、アブラヘルの意味を知っていて?
それは悪魔の名だったのよ。
とある男を誑かした、淫夢の名。
「まさか両思いだったなんて、思いもしなかったの!」
私は我慢することを辞めた。
そんな怯えた顔をしないで、神父さま。
私は貴方を愛してるんだから。
貴方も私を、悪魔を信じている。すなわち、愛しているのでしょう?
信仰は愛だと、そう言っていたものね。
「ねえ、神父さま」
頬に手を添え擦り寄って、つつ、と胸に指を這わせる。
「……私と楽しいことコト、しよ?」
翌日、1人の神父が死体で発見された。
同時に1人の信心深い少女が姿を消したことは、誰も知らない。
でも──我慢なんて、できっこない。
「こんにちは、神父様!」
「こんにちは、アブラヘルさん」
私は恋をしている。
誰に?神父様に。
でも神父様は恋をしない。全てを平等に愛しているから。
神の声を聞く人だから。
だから私がいくら好きを伝えてもそれは壁打ちと同じで返ってこない。
それでも構いやしない。
好きだから。
好きで、好きで、好きで、好きでたまらないから。
この気持ちには蓋をしたまま、私は今日も敬虔な信徒のふりをする。組んだ指先に熱が篭る。
「お若いのに感心ですね」
柔らかな微笑みにかぁっと頬が熱くなる。
独り占めしたい、貴方を。
神様よりも私の方がきっと貴方を愛してる。
この世の誰より私が1番貴方を想っている。
「いえ……」
信仰心、その裏にあるのはどろどろ煮詰まった恋心。白雪姫もびっくりする猛毒。地獄の底へ真っ逆さまへ落ちていくような、罪深い思考。
ねえ、神父さま。
この気持ちは悪いことなのでしょうか?
神は人を愛しています。
なら、私が人を愛することは罪ですか?例えそれが神父さまであろうとも。
「馬鹿だねぇ、相手は神父じゃないか」
「あんなやつよりいいの、他に星ほどいるってのに」
お友達は私をそう言って馬鹿にしたわ。
でも、私にはそうは思えなかった。
私にはあの人しかいなかった。
どうしても欲しい、あの人が欲しい。
あの人じゃなきゃ嫌なの。
唇を尖らせて、教会に想いを馳せる。
ああ、愛しい人。ほんの少しでも貴方に触れることができたなら……。
私、死んでもいいわ。
この恋冷めやらず、命短し恋せよ乙女。
花の盛りは残り幾ばく。
なんて、くだらないことを思いながら私は教会へ足を踏み入れた。周囲の目を避けた夜間だ、ここでシスターや他の神父に見つかったら目も当てられない。そんなヘマはしないけど。
ちょっとくらい……そう、ちょっとだけ。礼拝堂にお邪魔して、神父さまにお手紙を置いていくくらい、許されたっていいじゃない?
この熱い想いを書き連ね、せめて恋い慕う気持ちだけでも、心の片隅に置いてくださったなら、私は幸せ。
勝手知ったる教会、礼拝堂に忍び込んだ時、声がした。
聞き間違うことない、愛しの神父さま!
こんな遅くまでお祈りをしていらっしゃるなんて、まさに神の使徒に相応しいお方。
そろり、そろりと足を踏み出して私は様子をうかがう。
そして、絶句した。
「ひっ……」
信者たちが祈りをささげる祭壇に六芒星、逆十字。ヤギの足。
悪魔信仰だ。
思わず後ろに下がると壁にぶつかって、ガタンと大きな音を立ててしまった。
「誰だッ!」
ああ、ごまかせない。私はゆっくりと、出ていった。
「アブラヘル……」
いつもの温かさはない、冷たい声が私を呼ぶ。
怖い、気がする。
目の前にいるのはいつもの神父さま?
「何しにここへ?」
私は答えない。答えたところで、見逃されるわけがないと分かっているから。
「まあいいか。可哀想に」
神父さまが、懐からナイフを取り出した。
「君が悪いんだ、アブラヘル」
「そんな……っ、神父さま……!」
なんということ。
神に仕える神父さまが、こんな……!
自分でも訳の分からない感情が込み上げて涙が溢れた。
ああ、神父さま。貴方という人は……!
祈るように指を組む。
「主よ、どうかこの罪深き人をお許しください」
悪魔に魅入られて、可哀想に。
神父さまがナイフを持った手を振りかぶる。
どうか、この人に救いの手を──
「なんて誰が言うかよバーカッ!あははははははっ!」
嬉しくてたまらない。
高揚。
心臓が胸を食い破ってしまいそう。私は紛れもなく、興奮していた。
「何がおかしい?」
神父さまが笑いだした私に怯む。怯んだその手を捻りあげると、カランと乾いた音を立ててナイフが落ちる。
おかしい事なんて何もないの。
でも、早く言ってしまえば良かったのね!
風が渦巻いて、私の皮を剥いでいく。
ロウソクの灯りが消えて、窓から差し込む月明かりが私を照らした。
袋が裏返しになるように、「ほんとうの私」が姿を表す。
──ねえ、神父様。
貴方が呼んだ、アブラヘルの意味を知っていて?
それは悪魔の名だったのよ。
とある男を誑かした、淫夢の名。
「まさか両思いだったなんて、思いもしなかったの!」
私は我慢することを辞めた。
そんな怯えた顔をしないで、神父さま。
私は貴方を愛してるんだから。
貴方も私を、悪魔を信じている。すなわち、愛しているのでしょう?
信仰は愛だと、そう言っていたものね。
「ねえ、神父さま」
頬に手を添え擦り寄って、つつ、と胸に指を這わせる。
「……私と楽しいことコト、しよ?」
翌日、1人の神父が死体で発見された。
同時に1人の信心深い少女が姿を消したことは、誰も知らない。
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